第29話 えっ、マジ?
16歳にして日本最高峰の剣道の大会の優勝者である高校1年の颯斗は、
勇者召喚に巻き込まれて、異世界に転移する。
自分は勇者の付属品だと言う颯斗だが、
人の限界を遥かに越える力を驚く程の速さで付けていく。
「あの~旦那……同じ部屋に寝るんすか?ベッド一つしかないんすけど?」
「なにその話し方?同じで良いじゃない。私の匂いを堪能できるでしょ?
さっき、そう言ってたじゃない……」
「えっ、マジ?」
「匂いだけよ」
「えっ、マジ?」
「同衾するだけ。後は無し」
「そういうの生殺しって言うんだぞ?だったら隣の部屋の方がいい……
部屋たくさんあるんだし……寝不足になっちまうだろ?」
「……だって……私だけ途中で帰らなくちゃいけなくなったら嫌だもの……」
「ん?何で?どういう事?」
「だから……あれよ……赤ちゃん……」
「あ、そっか……だったら、そうならないところまでは良いってことか……」
「なっ……エッチ……」
「夜もふけてきたのに、たくさん明かりが灯ってるな。
雪まつりまだ続いてるのかな?」
王家の別荘は小高い丘の上に建っている。
見下ろした先では、祭りの会場が今も賑やかに光っていた。
「あのお祭りは1週間、オールナイトで続くのよ?」
「だったら、さっきは邪魔されたからもう一度行ってみる?」
「今から? 転移で行けばすぐね……行きましょうか」
「夜食、食べなきゃ良かったな?
良い匂いがあちこちからするけど、これ以上もう入らないよ。
王家の別荘、食事美味すぎる」
「今おんなじ事考えてた……私もこれ以上食べられないわ。残念……」
そう言いながらも、エレーナは楽しそうに微笑む。
「でも、良いわ。貴方と2人で雪像見てるだけでも楽しいもの……」
「ん?あの雪像、エレーナに似ていないか?」
「似てるんじゃなくて、私の像ね……
そして……その横は……たぶんリックね。フード付きコート着てるわよ」
「俺?エレーナがあるのは理解できるけど、何で俺の雪像が?」
「この国で、リックの事知らない人が居ないくらい、
貴方、有名になったって事じゃない?
その着ているロングコート、巷で流行ってるって聞いたわ」
「それでか?最近おんなじ様なコート着てる人多いなって思ってたんだ。
前は、フード付きって、あまり見なかったものな……」
「〝あまり〟どころか、フード付きなんて、ここには無かったわよ?
特にここみたいな寒い地方には便利だって、口コミが広がって流行ったのよ」
「ふ~ん、そうなんだ?残念だな……もう少しゆっくり見て回りたいけど、
民衆に見つかる前に帰ろうか?」
「だったら、ここの公園の一番上に行かない?
もうこの時間になると、人も少ないはずよ」
「この辺は、静かだな……星も綺麗だし……ここで良いかな……」
「何が〝ここで良いかな……〟なの?」
「左手を出して」
「あっ……」
「約束していた、パライバマリンの指輪だよ。
気に入ってくれると良いけど……」
「うっ………………」
言葉にならないまま、
大粒の涙を零しながら、エレーナは何度も何度も頷い。
「ふわぁ~まじ、ねみ~……」
「本当に寝不足になっちゃったのね……」
「しょうがないだろ?色々初めてなんだから……」
「ちょっと、人が聞いたら勘違いする様な事言わないでよ……」
「そんな事より次は船に乗るから、早めに出発してサウスポートの港町まで行くよ。
ここから30km位か……ジェブが居たら飛んで行けるのにな……
ん?エレーナ1人位だったら、抱えて飛べるか?」
「真冬よ?それに特にここは寒い地方なんだから、流石に空は無理じゃない?」
「それもそうか……1人ならこのコートが防寒、完璧なんだけどな……」
「貴方、転移はどのくらいの距離までできる様になったの?」
「全然使ってないからな~まだレベル1のまま……100mくらい?」
「それでも、繰り返せば、歩くよりずっと早いじゃない。
繰り返し転移したらレベルも上がるんでしょ?
良い訓練にもなるわよ」
「そっか~なるほど……それでいこう……」
「海だ~~気持ち良~!
この海の色、エレーナの瞳の色で、すごく綺麗だな!」
「転移、最後は凄かったわね?行ったことのある場所じゃなくても、
見えてるところなら行けるようになっちゃうなんてね。
最後、山の上から海が見えたら一気だったものね?」
「転移レベルも、10になったし一石二鳥……いや、護衛も撒けたし3鳥か?
このスキルをくれたスライムに感謝だな。
今日の出航があれば、船に乗っちゃおうぜ」
「あの沖合のがそうじゃない?もう出航しちゃってるわよ?」
「おじさん。あの船、空室ある?」
「ああ、沖合の船かい?今日はガラガラだったから、空きはあったよ。
でも、見ての通りもう出航しちゃってるよ?
何で出航した船の空室のことなんて聞くんだい?」
「今からでも追いつけるからだよ。
てことで……おじさん。あの船の乗船券ちょうだい」
「どうやって追いつくんだい?まあ、良いけどさ……
で、どんな部屋が良いんだい?」
「1番良い部屋をお願い」
「スーリアまで、7日の旅、
1番良い部屋だと200万ギルだけど、
空いてるから、おおまけだ。100万ギルで良いよ」
「やった~ラッキ~」
「じゃあ、この連絡のメモと一緒に、乗車券を船員に渡しておくれ」
「了解。色々ありがとう。じゃあね~」
「いい旅を……って、あれ?消えちゃったよ?
昼間っから幽霊とかじゃないだろね……
もらったお金はちゃんと手元に残ってるから、
そんな事ないか……不思議な子達だったね……」
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