第28話 イアンだ
16歳にして日本最高峰の剣道の大会の優勝者である高校1年の颯斗は、
勇者召喚に巻き込まれて、異世界に転移する。
自分は勇者の付属品だと言う颯斗だが、
人の限界を遥かに越える力を驚く程の速さで付けていく。
「ここの雪まつりは、中央の女神像を囲んだ沢山の雪像がメインなのよ?」
「あれが女神像?珍しいな赤ちゃんを抱いた女神像って」
「違うわ。女神はあの赤ちゃんの方よ?」
「えっ?そうなの?赤ちゃんが女神?」
エレーナは、少し誇らしげに微笑んだ
「この街には伝説があって、
天界から落ちてきた、まだ赤ちゃんだった女神様を、
街の夫婦が、大切に一月だけ育てたんだって。
赤ちゃんの女神様は、一月後に迎えが来て天界に帰って行ったんだけど、
それ以来、こんな雪の多い地方なのに、
神の加護を得て、この地はずっと栄えているのよ」
「ふ~ん……赤ちゃんの女神様が落ちてきたんだ……ドジな女神様だね」
「神様の事ドジとか……そんなふうに言わないの」
「あ~はいはい……」
颯斗は周囲を見回す。巨大で精巧な雪像が並んでいる。
「そう言えば俺の元居た世界にも、同じ様な大きな祭りがあったな。
機械使わずこの大きな雪像作るなんて凄いな」
「機械?」
「ああ、雪を、大きな塊で上に上げたり、
沢山の雪をいっぺんに集めたりする、
大きな魔道具みたいな物だよ」
「そんなのがあったら便利ね」
「それなしで、こんなに大きな雪像作るのは大変だろうな。
魔法を使ってるのかな?
凄く上手にできてるし、街灯に照らされて幻想的で綺麗だね」
「……で、リック……どうする?」
「エレーナも気づいてたか……」
「大人しくしてついて来い……この賑わいの中で暴れると、怪我人が出るぞ」
後ろから、エレーナの首に刃物を隠しながら突きつけて男が言う。
「どうする?エレーナ?」
「付いて行ってあげよ?色々聞きたいし」
「だな?」
「慌てるそぶりも見せないんだな?その胆力だけは褒めてやろう」
「褒られちゃったぞ?」
「はいはい、良かったわね?」
「チッ、余裕ぶりやがって……」
人通りの無い空き地の様な場所まで来ると、
そこには人相の悪い10人程の男たちが待って居て取り囲まれる。
「さ~て……女を傷付けられたくなければ、動くんじゃないぞ。
そうすれば、この女には、手出ししないと約束してやる」
「どの女だよ?」
「だからこの女……あれ?どこ行った?」
「ここよ?」
いつの間にか颯斗の後ろに隠れて、ヒョイと顔だけ出すエレーナ。
「この娘、レベル50超えの双剣士だぞ?
お前達が束になっても、どうこうできる相手じゃないぞ?
実力差が分からないのか?」
「うるさい!死ね~!」
斬りかかる男達。だがそこにはもう2人は居ない。
「くそっ!くそっ!くそっ!」
「ちょこまかと……」
「周りをよく見てみろ。他の奴らはもう伸びてるぞ?」
「い、いつのまに……」
「さ~て、魔法を使って洗いざらい吐いてもらおうか?」
「えっ?出来るのそんな事?」
「この前の、操られてるみたいな魔族……そいつが、かかってた呪いか魔法……」
「どんな魔法か分かるの?」
「大体だけどね?龍神様に貰った神眼で、大まかな術式は分かってるんだ。
それの呪いっぽいところは切り捨てて…… まあ、初挑戦だけど……」
「不安しかないわね……話を聞きたいから、殺しちゃだめよ?」
「……う~ん……多分……大丈夫……だろ?
俺だって人を殺したくはないからさ」
「ま……待て……やめてくれ。そんな危なっかしい魔法を掛けるのは……
何でも話す……だから勘弁してくれ。
そもそもあんた達が、レベル50なんて聞いてなかったんだ……
あの貴族、それを知らない他国の俺達を、
レベルの事を黙って使いやがって……」
「貴族が黒幕か……そいつがお前達に、俺を殺せと?」
いや……どうだったかな~?えっと……」
「ちなみにおれのレベルは、900近いぞ?」
「「えっ?900?」」
「エレーナまでなんだよ?言ってなかったっけ?」
「〝レベルは、1年足らずだから、こんなもん〟とかしか……」
「嘘つけ、100以上なんてあり得ない……それが900とか……」
「そうか?この国の人達は、俺が1年前、
既にレベル300近かったのをみんな知ってるぞ?ほら、見てろ?」
横にあった、2m位の岩に人差し指を差し込む。
〝ズズズズズ……〟
「な……指が入ってく……」
〝スポッ〟と抜くと、岩に穴が空いている。
〝ズシャッ……〟
次の瞬間、岩が粉々に砕けた……
「「………………」」
賊とエレーナの目が飛び出しそうだ。
「なんでもお聞き下さい……」
「誰の差し金だって?」
「マッコール公爵です。そこの次男イアン様です。
リクト様が死ねば、エレーナ様の婿の第一候補だと……
公爵家を継げない次男が、王配の地位を狙って……
そう言う事だと思います……」
「それ以上喋るんじゃない……」
「誰だ?」
「今話に出た、イアンよ……一応私の従兄弟なの……」
「一応ってなんだ一応って……俺はれっきとした お前の従兄弟だろ?
婿候補No1は俺だったのに……」
「こいつさ……〝それ以上喋るんじゃない〟って、自分の言ってる事が、
本当の事だって、自白してる様なもんだよな?馬鹿なの?お前の従兄弟」
「紛れもない馬鹿ね……子どもの頃から知ってるだけに……情けないわ……」
「お椀だっけ?お前みたいなやつに、エレーナは、渡さないよ?
こんな良い匂いの女の子、どこにも居ない……イテッ……
エレーナ……今、本気で、頭叩いたろ?」
真っ赤な顔のエレーナ。
「お~い!影の護衛の人達~!この族と、えっと……オワンだっけ?
こいつら頼むわ。俺と、エレーナは、祭りに戻る。
後、護衛の人達は、もうこれ以上付いてくるなよ?」
「イアンだ……」
「オワン……おまえ、本当に俺の事どうにか出来ると思ったのか?
良い匂いのエレーナを、自分のものにしたい気持ちはよくわか……イテッ……」
「次に人前で言ったら、許さないんだから……」
「2人だけの時はいいってことか……今夜が楽しみ……
……あいつ……エレーナの従兄弟なんだろ?
穏便な裁きで……な?同じ匂いの愛好者かもしれないし……
「バカ……でも貴方、命を狙われたのよ?それで良いの?」
「赤ちゃんに、ほっぺたペチペチされた様なもんだから……」
「ペチペチもされてないけど……ま、あいつが反省するならね」
「だぞ?オワン……反省しろよ?じゃあな」
「イアンだ……わざとだろ……」
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