第24話 肉150kg
16歳にして日本最高峰の剣道の大会の優勝者である高校1年の颯斗は、
勇者召喚に巻き込まれて、異世界に転移する。
自分は勇者の付属品だと言う颯斗だが、
人の限界を遥かに越える力を驚く程の速さで付けていく。
「ただの買い物だぞ?何で、ついてくるの?
王女ともなれば、色々忙しいんじゃない?」
「……私が一緒じゃいやですか?」
「だってさ、あれエレーナの護衛だろ?
隠れてるつもりなんだろうけど……あんなのにゾロゾロついて来られちゃ、
落ち着いて買い物もできやしない……」
「どうしても付いてくると……
邪魔にならない様に。離れて来るって言うから……」
「全然離れてね~し……」
颯斗はため息をつく。
「仕方ない……エレーナ、あいつら撒くよ?」
そう言って彼女の手を取り、走り出す。
人混みを縫うようにして、肉屋の店先へと滑り込んだ。
気付かずに走り過ぎていく護衛達。
〝ドドドドドドドド……〟
「……行ったな」
ほっと息をつき、店内を見回す。
「あ、ここ肉屋じゃん。ちょうどいいや。ついでに肉買っとくか……
あ、おじさん、この肉とこれと……後これ、50kgずつ……在庫あるかな?」
「は?全部で150kgか?そんなに大量に買う奴初めてだぞ?
ちょっと待ってくれ、奥の保存庫見て来るわ」
「あ……あの……そんなに買って……それほどまで長く迷宮に?」
「迷宮の様子が全く分からないから、何とも言えないんだけどさ……
あの後あそこ、一層一層が、めちゃくちゃ広くなっていて、
深さも10倍位になっているかもってジェブが言うんだよ。
あいつ元あそこのボスだっただけあって、
今でもなんとなく様子が分かるらしいよ。
ジェブが迷宮のボスだった時ですら、
最後の攻略に1ヶ月以上掛かったのに……
今度はどれほどかかるか……ちょっと想像つかないな……」
「そうですか……私も一緒に行けたら良いのにな……」
「はいよ!用意出来たぜ?こんなに沢山何に使うんだ?
パーティーでもするのか?若い奴は楽しそうで良いな。
よし、そこの可愛いお嬢さんに免じて、20万ギルで良いぞ。
そんな可愛い娘と、仲良く出来て羨ましいぜ?兄ちゃん」
「ん?仲良く?……あっ悪い、手握ったままだった……」
「良い……」
「ん?」
「このままで良い……しばらく会えなくなっちゃうんだし……」
「そう?迷子になっても何だし、このまま行く?」
「私迷子になんて……でも手はこのままで良い……」
「迷子になるのはたぶん俺。この辺よく知らないからさ」
「「あれ? もう日が傾いてきたな」
空を見上げ、颯斗は呟く。
「ただの買い物のはずなのに……
なんか楽しくて、時間が経つの早いな……
エレーナと一緒だからかな?」
「……私と一緒だと楽しい?本当?本当だったら、嬉しい……」
「うん。エレーナと一緒だから、だと思う。
俺達結構気が合うのかもな?
俺、腹減ってきたよ。なんか食べて帰らないか?」
「はい、ぜひ。だったら私、串焼きとか、バーガーとか、
普段お城で食べられない物食べてみたいです」
「だったら、フードコートでも行ってみるか?
あそこなら庶民の食べ物、色々あるぞ」
「お~いし~~。夕陽も凄く綺麗ね」
「それは良かった。また食べたくなったらいつでも言ってくれ。
空を飛んで、こっそり城から抜け出させるからさ」
「ありがとう。でもしばらくは無理ですよね?
明日にでも行ってしまうんでしょ?」
「ああ、大体必要な物資は用意出来たから、行こうかと思ってる」
「……寂しい……」
「ん?何?……」
「いえ……」
「エレーナ。上の公園まで行ってみないか?
夕陽がもっと綺麗に見えそうだぞ」
「本当ね。海に映る夕陽が綺麗……」
「何だか今日のエレーナは、いつもと感じが違うな?」
「町娘の着る様なドレスだからじゃない?
ドレスとかの貴族服だと、目立っちゃうから……」
「ああ、そうか?それも似合ってて、可愛いよ」
「ほ、本当に?可愛い?」
エレーナは視線を伏せ、頬を淡く染める。
「ああ、双剣を持って戦ってるエレーナも嫌いじゃないよ。
それに王女らしいドレスも綺麗だけど、
今のエレーナの方が、俺は好きかな。
女の子らしい感じがする」
「普段は、女の子らしくないみたいじゃない?」
「ハハハ、そんな事はないんだけどさ。
俺の元いた世界では、ドレス?ああいう貴族服みたいの着てる人はいないから、
馴染みがないんだ。だから……
その方が親近感持てて、いっそう可愛く見えるよ」
「そうなの?じゃあ、街に出る時は、いつもこう言う格好をするから、
また連れてきてね。約束よ……」
「ああ、約束な……って、どうした?涙を溜めて?」
「だって……しばらく会えないのかと思ったら……
絶対絶対……無事に帰ってきてね。それも約束よ……」
夕陽に照らされたエレーナの顔は、息を呑むほど綺麗だった。
颯斗はそっと頭に手を置き、そのまま抱き寄せる。
「大丈夫……心配するな。必ずエレーナの所に戻って来るから……」
静かにうなずくエレーナ。
「あと、もう一軒寄ったら、帰ろ」
「もう必要な物は揃ったんじゃないの?」
「うん、もう物資は大丈夫かな」
「だったら、あと何を?」
「ああ、エレーナに指輪を……」
「わ……私に指輪?」
夕陽に照らされたエレーナの顔がまた、ピンクに染まる。
「そ、だから魔道具屋に……」
「え?魔道具屋?宝石屋とか、装飾屋ではなく?」
「ん?そうだけど?この前、注文しておいたんだよ」
「?」
「はいこれ」
「これは?」
「えっ?見ての通りだけど……指輪でしょ?魔道具の……俺と対の指輪だよ」
「魔道具……なの?」
「うんそう。ここをこ~やって……ほらね、俺の指輪が光って震えただろ?
なんかあったら、これで俺を呼び出すんだよ。
どんなに深く潜っていても繋がるらしいから、
迷宮からだろうが、すぐにエレーナの下へ、駆けつけるからさ」
「…………」
「ん?どうした?」
「……あ……ありがとう……」
「あ……もしかして装飾品の指輪だと思った?宝石とか付いた?
ごめん、言葉が足りなくて……紛らわしかったかな?」
「………………」
「あっ、だったら……前に、ネオンブルーのスライムを倒した時、
パライバマリンという、
晴れた日の海の色に良く似た希少な宝石をドロップしたんだ。
それを指輪にして、迷宮から帰ったらエレーナにプレゼントするよ。
10億ギルで、買い取りたいって言われたけど、
お金は充分あるし、すごく綺麗だったから、売らずに持ってたんだよ。
売らなくて良かった」
「パライバマリン?……そんな高価な物、もらえません……」
「エレーナに初めて会った日に、
あの迷宮の超強力なスライムがドロップして手に入れた物なんだ。
いつか誰かにって思って、持ってた物だから……エレーナにプレゼントするよ。
エレーナの、瞳に似た色だし、きっと似合うよ」
「リック……本当に私がもらって良いの?
大切な人ができたらって、取っておいた物でしょ?」
「だからだよ。誰かにあげるなら、エレーナがいい。
エレーナにもらってほしいんだよ」
エレーナは目に涙を浮かべ、頬を桜色に染めていた。
今日1日で、話し方も変わり、互いの距離が随分縮まった様だ。
数ある作品の中から見つけ出し、お読みいただき、ありがとうございます。




