第20話 歴史を捻じ曲げるな
16歳にして日本最高峰の剣道の大会の優勝者である高校1年の颯斗は、
勇者召喚に巻き込まれて、異世界に転移する。
自分は勇者の付属品だと言う颯斗だが、
人の限界を遥かに越える力を驚く程の速さで付けていく。
「わしはこの国の王、フィリップ・ハイメルである。お前がリクトか?」
「そうだけど?
大勢の殺気だった魔導士で俺を囲んで、随分物々しいお出迎えだな?」
「ん?怖じ気付いておるのか?噂ほどでもないな」
「怖じ気付いてる?へ~そう見えるんだ?」
「お前の魔法はすでに封じさせてもらった。
お前の態度いかんでは……」
〝バタバタバタバタ……〟
言葉を遮るように、魔導士たちが次々と崩れ落ちた。
颯斗の素手の攻撃で、魔導士達が気を失って倒れていったのだ。
あまりのスピードに、同席しているオスカー以外の周りからは、
颯斗の姿が一瞬歪んだようにしか見えなかった。
「で?態度いかんでは?」
「い、いい気になるな……魔導士だけでなく魔封じの魔道具も用意して……」
〝ガチャンガチャンガチャン……〟
「おんなじ事でしょ?まさか、俺が剣を使えないとでも?」
六台あった魔道具は、いつの間にか真っ二つになっていた。
胸元に持っていたマジックバッグから取り出した剣による一閃だ。
「……何処に剣を隠しておった?」
「俺はここに居る剣聖オスカー・ジェームス、
俺が父と呼ぶ剣士に、嫌ってほど剣を叩き込まれてきた」
颯斗は王の顔を指さす。
「……あんた、自分の髭を触ってみろよ」
「髭?……お、おおぉっ!? い、いつの間に……」
フィリップ王の口髭は、右半分だけが綺麗に剃り落とされていた。
「言っておいたはずなんだが……
事と次第によっては、王都を焼け野原にするってな」
「ジェットブラックドラゴンか?本当だったのか……
そんなものを眷属にしていると言うのは……」
「自分の目で確認してみるか?」
「……ま、待つのだ……お、お前にとって、またとない良い話なのだぞ?
お前を、真の勇者として、我が国に迎えようと言う話なのだ……
お前の望むものをなんでも与え様ではないか。
絶世の美女と評判の我が王女だろうと何だろうとお前の望むままなのだぞ……
な?悪い話ではなかろ?」
「陛下……あの男、レベルが……」
「うるさい!話の腰を折るでない!」
「も、申し訳ありません……ですが……」
「何だ?レベルがどうしたって言うのだ?」
「250を超えております……」
「な、何だと?お、お前、本当に人間か?
人のレベルの上限は100のはずでは?」
「さあな?少なくとも、
召喚に巻き込まれるまでは普通の人間だったが?」
「なあ、この通りだ、頼む。我が国の民を、魔族から守る為、手を貸してくれ」
「断る。そもそも、俺たちが何もしなければ、
魔族が攻めてくる理由なんてない」」
「違う……相手は邪悪な魔族だぞ?」
「邪悪なのは、むしろあんた達だろ?
元々この地は、魔族と人族が共存していた土地だ。
それを数に任せて、魔族を追い出した……違うか?」
「…………違う……いや……確かに遥か昔、
この地にはいくつかの魔族の村があり、
奴らが多く存在していたのは確かだ……
だが、邪悪な魔族の、数々の非道な所行に我慢の限界が来て、
多くの犠牲の上、魔族の排除に成功したのだ」
「随分歴史をねじ曲げるじゃないか……
さっきも言ったが、邪悪なのはあんた達だ。レベル300以上の魔王……
その討伐に、せいぜいレベル60の先輩達……勇者を向かわせるなんて……」
「違う……そうでは無い、あの時は、レベル50に達しようとする兵が、
勇者の他にも20人はおったのだ。
大群ではなく、少数精鋭の兵で、
気付かれない様に上手く魔族領に入り奇襲をかければ、
魔王討伐も不可能では無かったのだ」
「無理だな」
颯斗はきっぱりと言い切った。
「レベルが250になった今だからこそ分かるが、
俺の前に、レベル60の人間が20人集められようと……
いや、100人いようと俺に触れる事すら出来やしない。
レベル差って言うのは、それ程のものなんだ」
「しかし、今のお前なら……」
「無理だと言っただろ?もし本当に魔王のレベルが300ならば、
今のままでは、万に一つも俺に勝ち目はないだろう」
「で、であれば、まずは我が軍に入り
そこで、レベルを上げたら良いではないか?」
「それは出来ない相談だな」
颯斗は肩の紋章を示した。
「俺はもう、ガードナー王国のエレーナ王女の騎士だ。
今さら、この国の軍に属する気はない」
「な、何だと!?その紋章……最上位騎士の……
お前は、我が国が召喚した者であろう!?
何故、ガードナーなどに……勝手は許さぬ!」
「勝手?……勝手に人を召喚しておいて、よく言うな」
颯斗は窓の外を指さす。
「外?な、何だあの怪物は……あれがまさか?」
「そう、あいつが俺の眷属……あんたが言ってた、
災害級魔物ジェットブラックドラゴンだ。
王都を焼け野原にするってのは、口先だけの脅しじゃないぞ?」
「………………」
「あんたの言うことは嘘ばかりだ。全く信用できない」
「嘘ばかりだと?いったい何を根拠にそのような事を?」
「魔族を排除したとか……歴史を捻じ曲げるなと言った……
魔族はこの地を血で汚したくなくて、
今の魔族領……ただの荒地だった場所に移住したんだろ?
彼らは、原初神の子孫と魔族の中では言い伝えられていて、
魔族はこの地を神の聖地だと考えている……そうだろ?」
「邪悪な魔族が、原初神の子孫だと?バカバカしい……
奴らが自ら身を引くわけがなかろう?
誰に聞いたか知らんが、そんな根も葉もない話を信じるのか?」
「城の禁書庫に、本当の歴史を綴った歴史書があったよ」
「……禁書庫だと?無断で入って盗み見たのか?…………」
「さあな?そんな事はどうでも良い……
もう魔族と敵対するのはやめるんだ。
自ら手を引いた魔族は、神の祝福を受けて、
荒地を豊かな土地に変えていった。
今更魔族が、この国に攻め込んでくるなんて事はありえるはずが無い」
「………………」
「もう言う事はなさそうだな?それじゃあ俺と父さんは帰る。
最後にもう一言だけ言っておく。
今後2度と俺たちに関わるな。魔族にも同様だ。
関わった時が、お前達の……この国の最後だ」
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