第2話 巻き込まれたのかも
16歳にして日本最高峰の剣道の大会の優勝者である高校1年の颯斗は、
勇者召喚に巻き込まれて、異世界に転移する。
自分は勇者の付属品だと言う颯斗だが、
人の限界を遥かに越える力を驚く程の速さで付けていく。
学校から帰宅途中のことですーーーー
渡り廊下で、美男美女で有名な、
生徒会長と副会長の3年生、
佐伯先輩と近藤先輩とすれ違う。
「帰りか? 那岐。気を付けてな」
柔らかな笑みとともに声をかけられる。
「ああ、先輩。さよなら。また明日」
軽く会釈を交わす。
この2人、学力も運動神経もずば抜けている。
文武両道の象徴のような存在だ。
もっとも――
那岐颯斗自身も、学力はともかく、
運動神経に関しては二人を遥かに凌ぐ。
江戸時代から続く、那岐神影流の継承者で、
16歳にして、最高峰の大会で、
剣道日本一に輝いた正真正銘の天才。
互いに学園では有名人。
顔見知りなのも当然だった。
振り返り2~3歩歩いた――その時だ。
周囲に、細い雷のような光が幾重にも現れ、
身体にまとわりついてきた。
「な、何だこれ?」
次第に颯斗の目前に、渦が出来、中心に大きな穴が開く。
佐伯と近藤が、なす術もなく呑み込まれていった。
「せ、先輩! あ、やば!俺も吸い込まれる!」
周りの空気が、渦に吸い込まれ、
立っていられないほどの風が吹き荒れていた。
抵抗虚しく、渦の中に吸い込まれる颯斗。
吸い込まれた後は、空気の濁流に捕まり、
逃げ場どころか、捕まるところもない。
夜空の中に放り出されたかの様な周りの景色は、
流れが早く、星々が流星の様に流れて目が回りそうだ。
やがて流れは緩み、夜空に浮かんでいるような感覚へと変わった。
ふと下を見ると、先に呑み込まれた二人の姿が見える。
周囲は、古代ヨーロッパを思わせる荘厳な白い石造りの建築物。
精緻な彫刻が刻まれた巨大な柱が、何本も並び立っていた。
「陛下。成功です!勇者召喚に成功しました!」
「良くやった!魔法師団長。
して、そなた達が勇者殿か?」
王冠を戴く男が、玉座から立ち上がる。
「よう参られた。喜ぶが良い。
これからは、この世界で、
何不自由のない暮らしを保証しようぞ」
きょろきょろと周囲を見回す先輩達の姿が見えた。
「お~い!せんぱ……」
呼びかけた、その瞬間。再び、流れが急激に加速する。
「ちょ……待ってくれ!お、俺だけどこに……」
必死にもがき、全力で飛び降りようとしたところで、
意識が途切れた。
目を覚ますと、森の中で倒れていた。
「……ってわけです」
颯斗は、静かに語り終えた。
「気力・体力・知力、全てにおいて優秀な先輩達が、
勇者に選ばれ、召喚されたんじゃないかな?
俺は、ただ近くにいただけ……
巻き込まれたんだと思います」
オスカーが眉をひそめる。
「お前今、サエキ先輩とコンドウ先輩って言ったか?
3年前に召喚された勇者も、
サエキ、コンドウ……確かそんな名前だったぞ?」
「さっきも3年前って言いましたよね?
俺、本当に3年も気を失って……
いやいや、そんなわけないよな……
だとすると……召喚された場所と時間にズレが?」
「俺には詳しいことは分からんが……
でも、お前はやっぱりこの世界の人間ではなさそうだな。
これもさっきも言ったが、
着てる服も見た事ない物だしな。
お前、名は何と言う?」
「那岐颯斗16歳です」
「ナギ・リクト?言いにくいな……リックで良いか?」
「はい、言いやすいならなんとでも。で、貴方は?」
「ん?そういえば名乗ってなかったな。
俺はこの先のアリオス村の村長をしている、
オスカー・ジェームスと言う者だ」
「ずいぶん若い村長さんですね。
オスカーさん、先輩達が召喚された場所……
白い石造りで、
彫刻のある巨大な柱が並ぶ建物に心当たりは?」
「う~ん……それは多分、王城の玉座の間じゃないか?
俺も冒険者だった頃、何度か呼ばれて行った事あるが、
お前が今言った場所と同じ感じの建物だから、
多分そこだと思うぞ」
「王城の玉座か……王城は、ここから遠いですか?」
「王都か?歩いたら2~3週間はかかるな」
「そうですか……遠い。でも、そこに先輩達がいるなら…… 」
「いや、もうそこには居ないぞ?」
「えっ?オスカーさんは、先輩達の居場所を知っているんですか?」
「聞いた話だが……彼らは多分、魔王城だ」
「魔王城!? 囚われてるんですか?
そもそも魔王って本当に……」
「いるさ。勇者召喚は魔王討伐のためだからな。
ただ、囚われているわけじゃない。
自分の意思で、望んで滞在しているんだと思うぞ」
「魔王討伐の為に召喚されたのに、自らの意思で魔王城に?
……意味が分からない……
でもその話が本当なら、2人に会う為には、
俺も魔王城に行くしかないのか……」
「魔族領は、王都より遥かに遠いぞ?
いくつかの国を通らなければいけない。
それに今のお前の力じゃ魔王城に行くのは無理だな……
お前の今のレベルは、
せいぜい10かそこらくらいじゃないのか?
それだと到底、魔族領にすら辿り着けないぞ。
道中は魔物が多いからな」
「レベルですか?この世界では、
ゲームの様にレベルが存在するのですか?」
「ゲーム?何だそれ?もちろんレベルはあるぞ?
そんなの常識じゃないか……って、
異世界から来たお前が知らなくて当然か?」
「オスカーさん、俺のレベルが分かるのですか?」
「いや、お前のレベルステータスを見られるわけじゃないが、
さっきの戦いを見てれば大体な」
「レベルのステータスとかが有るのか……」
そう言いかけると、
〝レベルステータス〟という颯斗の言葉に反応して、
目の前に、パソコンの画面の様なものが現れた。
「うわっ!すげ~!」
「ん?どうかしたか?」
「目の前にレベルステータスが見えます。
ああ、確かにレベル11となってますね……」
確かに画面では【Lv.11】となっている。
ただし、本来あるはずの表記――【11/100】ではなく、
【11/∞】となっていることに、颯斗は気づいていなかった。
「お前自分でレベルステータスが見えるのか?
普通、教会に行って、見てもらうしかないのだが……
レベル11か……
まあ、この世界に来たばかりにしては高いんじゃないか?
言葉が通じるのもだが、ステータスが自分で見られるのも、
召喚者特有のスキルなのかもな?」
「………………」
オスカーが腕を組む。
「お前さえ良かったら、俺の家に暫く滞在しないか?」
「それは凄く助かります……
なにせ、着の身着の儘ですし……
ワイバーンみたいな怪物が居るこの世界で、
右も左も分からず、正直、途方に暮れていました。
しかし、俺は、貴方にとって身も知らずの異世界人……
お世話になって本当に良いのですか?」
「ああ、お前、悪いやつには見えんからな。
それにイケメンだしな?
俺の嫁も娘も歓迎するだろうよ」
「何言ってるんですか?オスカーさんの方が、
よっぽど男らしいイケメンじゃないですか」
森に、少しだけ穏やかな空気が流れた。
だがーー
勇者。
魔王城。
時間のズレ。
そして、【∞】
物語は、まだ誰も知らない方向へと、静かに動き始めていた。
数ある作品の中から見つけ出し、お読みいただき、ありがとうございます。




