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プロローグ

A theme of this tail: "I'm gonna fuck me up to see loved dragon again.


アカツキ 斗真トウマ。お主は、なぜ生きている?」

 ある日、いつものように薄暗くてカビ臭い、城の中庭で魔法の練習をしていた時、ヴァルからそんな風なことを聞かれた。

 あまりにも唐突だった上にその内容も破綻していたから、俺は思わず素っ頓狂に「はい?」とだけ口にして、一瞬言葉を失いかけた。

 音もなく現れ、城と庭を繋いでいた扉の前で立ち尽くしていた彼女の姿は、どこか生気のない人形のようで……少し不気味だった。

 しかし、彼女のいつもと違った静けさと、視線を落として唇の端っこをキュッと噛み締めた、どこか苦しそうな、何かを訴えかけているような真面目な表情を見ると、それが単に日常的に聞かされる馬鹿げた話ではなく、何か彼女にとってとても大切なことを聞いているのだとすぐに分かった。

 ヴァルに気圧されたのか、あるいは彼女が珍しく気分を落ち込ませていたのを見たのか、よくわからないが、俺はどことなくたじろぎながら──自身の指と指を絡ませ、視線の先が定まらないままその質問に答えようとして、まるで雑巾の切れ端と切れ端を雑に繋ぎ合わせたような言葉を紡いだ。

「よく……わからないけど……でも、ヴァルと一緒に過ごす時間が何よりも楽しいから、死にたくない、生きたいって思えてるかな、今は」

 この答えは、「そんなに気分を落とすことはない。俺がついてるから」という、遠回りでロマンチックな告白だった。

 顔や耳の端っこが熱いのは、きっとこの暑さのせい。

「……」

 しかし彼女は何も言わず、無気力に下がった肩を震わせて、小さく子供のような手を力強く、握りしめていた。

 かと思えば、無言のままカツカツとヒールの甲高い足音を立てながらこちらへ一歩二歩三歩と突き進んで来て、手を伸ばせばすぐの距離にまで距離をつめてきた。

「あ、あの……ヴァル……だいじょ────」


────彼女の名は、ヴィンセント=ヴァル=デルタニカ。又の名を、『カタストロフ(地獄)の淑女』。


「……ヴァ……なん……」

「すまない……すまない、トウマ……っ‼︎」


────俺は彼女の名前を、良い意味でも、悪い意味でも、二度と忘れることはないだろう。

 首元から噴き出る鮮血が、彼女の頬にかかる。彼女の涙に触れた血が涙に滲んで、彼女の服へと血液が拡大していく。 

 血が、意識が、涙に溶けていく。もう立つことすらままならないまま、俺は背中側に鈍い音を立てながら倒れた。

 掠れる視界と意識の中、聞こえてきたのは聞くに耐えない叫びをあげるヴァルの泣き声と、血に染まって頭を垂れた、一輪のフェンネルだった。



『咲けよフェンネル、地獄の底で』

        プロローグ 終

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