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スキルが1つで、何が悪い?  作者: あっつん
第2章 第1部 
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第85話 VS剣王①

 デイモンたちから現剣王の寝室を聞き出し、その部屋と向かった。少しでも現剣王に集中するため、不可視魔法をかけてはいるが、遭遇した衛兵たちを次々に気絶させていった。数分後、デイモンたちが言っていた寝室前にやってきたが、どうにも気配を感じない。


 ・・・そういうことか。やれやれ、寝込みを襲うのが一番楽だったんだけどな。


 俺は観念し、玉座がある「剣王の間」へと向かった。頑丈な扉を開けると、案の定、現剣王と思しき人物が玉座で待ち構えていた。


 「ラディウスビジュアライズ。」

 「へぇ~。噂通り、魔法にも長けているのか。」


 俺の不可視魔法が眼前の男によって解かれた。


 「お前が剣王か。」

 「いかにも、私が剣王ケイレブ・レオンパルドだ。」


 現剣王であるケイレブ・レオンパルドは、ニヤリと笑いながら俺を出迎えた。年齢は、40代前半といったところだろうか。次男が20代後半くらいだったのである程度予想はしていたが、国王としては少し若いような気がする。先代剣王が病死したのが随分早かったのだろう。体型は長身であり、筋肉が至るところに十分ついているのが分かる。まさに「剣王」と呼ぶにふさわしい容貌である。


 「寝室では寝ないのか?」

 「夜分遅くに客人が来たのでな。」

 「侵入に気がついていたのか。」

 「当然であろう。私のゴッドスキル【窺知】の前に不可視魔法など無意味だ。」


 現剣王のスキルについては、ほとんど明らかになっていない。しかし、キョウスケが一つだけ分かっていることを道中に話してくれた。それは、探知魔法を凌駕するほどの探知系統のスキルを持っているということだ。剣王の言動からして、おそらく周囲何㎞かの生物の位置情報を把握できるのだろう。対象の特徴を認識せずとも、動植物全ての動きを探知できるスキルなんて、チートすぎるだろ。


 「なるほど。じゃあ、なぜ弟や妹を逃がすのを止めなかった?」

 「あぁ、あの愚弟と愚妹など、取るに足らん存在であるからな。城の外に来ているニコラスが始末するだろう。」

 「なっ、ニコラスだと!?アイツが来ているのか!?」


 ニコラスは最高幹部の一人で、「亜空間」・「心停止」・「テレパシー」、非常に強力なスキルをもつ強敵だ。フィオナやレティシアはもちろん、ディランとキョウスケには情報共有していたが、それでも心配だ。特に「心停止」のスキルを使われたら、ナターシャがその場にいない限り、助けることができないだろう。


 「どうした動揺しているのか?浮気は良くないぞ、お前の相手は私だろう?」

 「クソが・・・。」


 ニコラスと戦っている4人がめちゃくちゃ心配ではあるが、眼前の剣王も余裕で倒せるほど甘くはない。強者特有の圧倒的なオーラが出ている。


 「侵入者、名前は?」

 「ビートル。」

 「それは偽名だろう。」

 「勝ったら教えてやるよ。」

 「私に勝つ可能性があると思っているのか。愚かな侵入者だ。」


 こうして、俺と剣王との一騎討ちが幕を開けた。剣王は鞘に収めていた双剣型の魔剣を取り出し、俺の方に飛びかかってきた。俺も先程借りた魔剣を抜き、防御しながら隙を見て、攻撃を仕掛けた。しかし、避けられるか、双剣で塞がれてしまった。剣王の剣技は、鍛え上げた俺の「魔眼」でも捉えられるのがやっとである。


 「さすがだな。ギルドヘッドを2人も引き連れるだけのことはある。」

 「それはどうも。」

 「しかも、その魔剣は先代剣王の太刀だな。それを最大限まで扱える人間がいるとは、驚きだ。・・・だが。」

 「くっ!」


 俺は剣王の重たい一撃に大きく後退した。


 「剣術が未熟すぎて、話にならん。『魔眼』で私の動きを読むのがやっとであろう。」

 「剣術は必修じゃなかったんでね。」

 「残念だよ、侵入者。ゴッドスキル【雲隠】。」

 「・・・・・・おいおい、それはズルいだろ。」


 剣王がゴッドスキルを使用した瞬間、眼前で消失した。探知魔法をすぐに唱えたが、剣王の反応が一切ない。


 「っ!!グハッ。」

 「ほぅ、致命傷は避けたか。」


 剣王の位置把握に思案していると突如、俺の背と腹に向かって双剣が飛んできた。ほぼゼロ距離であったため、回避できないと悟った俺は、身体をひねり、致命傷にならないようにした。しかし、それでも魔剣が貫通したため、全身にかつてないほどの激痛が走った。俺はすぐに光属性の究極魔法「リヒトセラフィア」を使用し、回復した。


 ・・・あぶねぇ。転生特典の「身体強化」でそもそもの視力が向上してなかったら、心臓と肺を抉られてたな。俺の「魔眼」だけじゃ、絶対に間に合わなかった。


 その後も剣王は不可視のまま、魔剣での攻撃を続けてきた。攻撃速度もどんどん速くなっており、回復魔法がギリギリ間に合うかどうかの瀬戸際まで追い込まれた。


 ・・・相手を視認できないから【神奪】も使えないし。クソ、どうすればいいんだ!


 「どうした、侵入者?手も足も出ないか?」


 剣王は俺をいたぶりながら、愉快な声で笑っている。しかし、その姿は一切見えない。


 ・・・透明になっているのであれば、煙かなんかで視認することはできるはずだ。ただ、俺の探知魔法にもかからないということは、透明ではなく、その存在ごと消失させるスキルなのだろう。ということは、たとえこの部屋を煙で満たしても意味がない。クソ、どうすればいいんだ。


 エゼルのときと同様に追い込まれた俺は、頭をフル回転させ、この状況を突破できる方法を考えることしかできなかった。

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