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スキルが1つで、何が悪い?  作者: あっつん
第2章 第1部 
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第83話 宝物庫と魔剣

 「ビートルさんは、これからどうするつもりですか?」

 「とりあえず、剣王をぶっ飛ばしに行きます。」

 「「えっ!?」」

 

 俺は気絶させた衛兵の一人から剣を拝借し、救出した2人を連れて城外に出ようとしていた。もちろん、2人には不可視魔法をかけている。


 「ケイレブ兄さん、現剣王は父上に匹敵する実力者です。さすがのビートルさんでも・・・。」

 「まぁ、できるだけのことはやってみますよ。」


 デイモンとロビンは心配そうに俺を見てくる。やはり、当代随一と謳われる現剣王は相当の強さなのだろう。ただ、俺もここまで来たからにはもう引くことはない。全力でぶつかるのみだ。


 「ビートルさん、もしかしてその衛兵の武器で戦うつもりですか?」

 「そうですね。自分の刀とか剣とかを持っていないので・・・。」


 ロビンが「コイツマジかよ・・・。」といった顔で俺を凝視している。まぁ、言いたいことは分かる。


 「ビートルさん、現剣王が所持している武器は、レオンパルド剣王国に代々伝わる国宝級の数々です。衛兵の装備品ごときでは、すぐに壊れてしまいます。」


 ・・・ですよね~。いや、何となく分かってはいましたよ。でも、お金がないんだもん!


 「ビートルさんが良ければ、宝物庫に行きませんか?」

 「宝物庫ですか?」

 「はい、そこには現剣王が扱っていない武器がいくつか置いてあります。」

 「私たちの武器もそこに保管されているはずです。」

 「なるほど。」


 これは朗報中の朗報である。デイモンたちの話から推測するに、現剣王の武器と対等にやり合うには、国宝級の武器が必要不可欠だろう。


 「ぜひとも、連れて行ってください。」

 「分かりました。こちらです。」


 俺はデイモンとロビンのあとをつけていった。宝物庫は剣舞城の地下の一番奥にあり、数人の衛兵が厳重に守っていた。先程と同様、腹パンで全員を一瞬のうちに気絶させた。


 「うわぁ・・・。」

 「僕の動体視力でも全然見えなかったよ・・・。」


 若干引き気味のデイモンとロビンとともに、俺は宝物庫へと入った。レオンパルド剣王国が所有する金銀財宝類が所狭しと並んである。少し進むと、多種多様な刀剣が丁寧に保管されてあった。デイモンとロビンはそれぞれ、自分の武器を手に取り、少し涙ぐんでいた。長期間にわたって幽閉されていたのだろう。


 「あの~、俺も一つお借りしてもいいですか?」

 「もちろんです。ビートルさんが気に入ったものを選んでください。ここにある武器なら、きっと現剣王の刀剣にも負けないはずです。」

 「ありがとうございます。」


 俺は並べてある刀剣を一つ一つ手に取り、持った感触や重さ、使いやすさなど確認していたが、正直よく分からなかった。

 

 ・・・何が良いのか、さっぱりだな。鑑定スキルのようなものがあれば良いんだけど。


 「う~ん」と悩んでいると、何か奥の方から魔力の流れみたいなのが見えた。実は、「魔眼」をより極めるため、レオンパルド剣王国に入ってから「魔眼」を常時発動するようにしていたのだ。最初はえげつない疲労感に襲われていたが、ここ最近は慣れてきた。


 俺はかすかな魔力の流れがする方に歩を進めると、そこには錆びついた、ボロボロの日本刀のような太刀がおいてあった。


 「それは、私たちの父である先代剣王ヴィルヘルム・レオンパルドが使用していた太刀です。確か、名前は魔剣『巫覡之光芒』。」

 「魔剣?」

 「魔剣とは、使用者の魔力を吸収する刀剣のことです。魔力の吸収量が多い魔剣ほど、より強大な力を発揮します。ちなみに、現剣王も魔剣を所有しています。」

 「私たちは魔力量が少ないので、魔剣を扱うことはできないんです。」

 「なるほど。」


 てっきり魔法を付与した刀剣を「魔剣」と呼ぶのかと思っていたが、どうやら違ったらしい。魔力を吸収する刀剣とか、リスクが大きすぎるような・・・。


 「父上はウィザードだったので、もしもの際はこの魔剣を使用していました。ただ、吸収量が想像以上に大きいようで、父上が亡くなってからは現剣王でさえ使おうとしません。」


 なるほど、だから誰も使用せず、手入れも雑になって錆びついているのか。


 「この魔剣はもう使えないのですか?」

 「いえ、魔剣は魔力を供給すれば、刀身が破壊されていない限り、綺麗に復元されます。ただ、ここまでボロボロになっているので、完全復元となると、英雄級のウィザードでも厳しいかと・・・。」


 ロビンやデイモンの説明を聞く限り、この魔剣『巫覡之光芒』は使用しない方がいいのだろう。ただ、俺の勘というか、内なる何かがこの魔剣を手に取れと言っている気がするのだ。


 「ナツメはどう思う?」

 『ワイは、賛成やで。現剣王も魔剣使いなら、同じ魔剣で戦わんと無理やろ。』

 「だよな・・・。」


 俺はナツメと念話で話し、目の前の魔剣を扱うことに決めた。ナツメの言う通り、現剣王が魔剣を使用するのだ。魔剣ではない他の刀剣で何とかなるとは到底思えない・・・。


 「すみません、先代剣王が大切にしていたこの魔剣をお借りしてもいいですか?」

 「えっ!?正気ですか?」

 「ビートルさんがどれだけの魔力量を持っているか分かりませんが、おそらく全魔力を吸収されますよ?」


 ディランとロビンは必死に止めようとしてくる。だがしかし、俺の決意は固い。


 「では、拝借します。・・・うぉっ。これは想定以上に吸われますね。」


 俺が魔剣『巫覡之光芒』を手に取った瞬間、魔力をごっそり吸われた気がした。ざっと全魔力の5分の1ぐらいだろうか。しかし、俺の魔力の自然回復速度は、魔剣が吸収する速度よりも圧倒的に早いため、特に問題はない。そして、すぐに魔剣が白く輝き出し、『巫覡之光芒』がボロボロの状態から本来の姿に戻った。神々しい魔力のオーラを纏っており、ただの刀剣ではないことがすぐに分かった。


 「う、うそだろ・・・。こんな姿、父上が生きているときでさえ見たことがない・・・。」

 「び、ビートルさん・・・。あなたは一体、何者なんですか・・・?」

 「通りすがりのただのヒーローですよ。」

 「「いやいやいやいやいやいや・・・。」」


 デイモンとロビンは未だに信じられないようだが、そんなことはどうでもいい。2人は、早くここから脱出することが重要だ。


 「さぁ、早く城外へ避難してください。」


 兄妹2人は俺の言葉を聞き、城の外へと向かった。

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