第83話 宝物庫と魔剣
「ビートルさんは、これからどうするつもりですか?」
「とりあえず、剣王をぶっ飛ばしに行きます。」
「「えっ!?」」
俺は気絶させた衛兵の一人から剣を拝借し、救出した2人を連れて城外に出ようとしていた。もちろん、2人には不可視魔法をかけている。
「ケイレブ兄さん、現剣王は父上に匹敵する実力者です。さすがのビートルさんでも・・・。」
「まぁ、できるだけのことはやってみますよ。」
デイモンとロビンは心配そうに俺を見てくる。やはり、当代随一と謳われる現剣王は相当の強さなのだろう。ただ、俺もここまで来たからにはもう引くことはない。全力でぶつかるのみだ。
「ビートルさん、もしかしてその衛兵の武器で戦うつもりですか?」
「そうですね。自分の刀とか剣とかを持っていないので・・・。」
ロビンが「コイツマジかよ・・・。」といった顔で俺を凝視している。まぁ、言いたいことは分かる。
「ビートルさん、現剣王が所持している武器は、レオンパルド剣王国に代々伝わる国宝級の数々です。衛兵の装備品ごときでは、すぐに壊れてしまいます。」
・・・ですよね~。いや、何となく分かってはいましたよ。でも、お金がないんだもん!
「ビートルさんが良ければ、宝物庫に行きませんか?」
「宝物庫ですか?」
「はい、そこには現剣王が扱っていない武器がいくつか置いてあります。」
「私たちの武器もそこに保管されているはずです。」
「なるほど。」
これは朗報中の朗報である。デイモンたちの話から推測するに、現剣王の武器と対等にやり合うには、国宝級の武器が必要不可欠だろう。
「ぜひとも、連れて行ってください。」
「分かりました。こちらです。」
俺はデイモンとロビンのあとをつけていった。宝物庫は剣舞城の地下の一番奥にあり、数人の衛兵が厳重に守っていた。先程と同様、腹パンで全員を一瞬のうちに気絶させた。
「うわぁ・・・。」
「僕の動体視力でも全然見えなかったよ・・・。」
若干引き気味のデイモンとロビンとともに、俺は宝物庫へと入った。レオンパルド剣王国が所有する金銀財宝類が所狭しと並んである。少し進むと、多種多様な刀剣が丁寧に保管されてあった。デイモンとロビンはそれぞれ、自分の武器を手に取り、少し涙ぐんでいた。長期間にわたって幽閉されていたのだろう。
「あの~、俺も一つお借りしてもいいですか?」
「もちろんです。ビートルさんが気に入ったものを選んでください。ここにある武器なら、きっと現剣王の刀剣にも負けないはずです。」
「ありがとうございます。」
俺は並べてある刀剣を一つ一つ手に取り、持った感触や重さ、使いやすさなど確認していたが、正直よく分からなかった。
・・・何が良いのか、さっぱりだな。鑑定スキルのようなものがあれば良いんだけど。
「う~ん」と悩んでいると、何か奥の方から魔力の流れみたいなのが見えた。実は、「魔眼」をより極めるため、レオンパルド剣王国に入ってから「魔眼」を常時発動するようにしていたのだ。最初はえげつない疲労感に襲われていたが、ここ最近は慣れてきた。
俺はかすかな魔力の流れがする方に歩を進めると、そこには錆びついた、ボロボロの日本刀のような太刀がおいてあった。
「それは、私たちの父である先代剣王ヴィルヘルム・レオンパルドが使用していた太刀です。確か、名前は魔剣『巫覡之光芒』。」
「魔剣?」
「魔剣とは、使用者の魔力を吸収する刀剣のことです。魔力の吸収量が多い魔剣ほど、より強大な力を発揮します。ちなみに、現剣王も魔剣を所有しています。」
「私たちは魔力量が少ないので、魔剣を扱うことはできないんです。」
「なるほど。」
てっきり魔法を付与した刀剣を「魔剣」と呼ぶのかと思っていたが、どうやら違ったらしい。魔力を吸収する刀剣とか、リスクが大きすぎるような・・・。
「父上はウィザードだったので、もしもの際はこの魔剣を使用していました。ただ、吸収量が想像以上に大きいようで、父上が亡くなってからは現剣王でさえ使おうとしません。」
なるほど、だから誰も使用せず、手入れも雑になって錆びついているのか。
「この魔剣はもう使えないのですか?」
「いえ、魔剣は魔力を供給すれば、刀身が破壊されていない限り、綺麗に復元されます。ただ、ここまでボロボロになっているので、完全復元となると、英雄級のウィザードでも厳しいかと・・・。」
ロビンやデイモンの説明を聞く限り、この魔剣『巫覡之光芒』は使用しない方がいいのだろう。ただ、俺の勘というか、内なる何かがこの魔剣を手に取れと言っている気がするのだ。
「ナツメはどう思う?」
『ワイは、賛成やで。現剣王も魔剣使いなら、同じ魔剣で戦わんと無理やろ。』
「だよな・・・。」
俺はナツメと念話で話し、目の前の魔剣を扱うことに決めた。ナツメの言う通り、現剣王が魔剣を使用するのだ。魔剣ではない他の刀剣で何とかなるとは到底思えない・・・。
「すみません、先代剣王が大切にしていたこの魔剣をお借りしてもいいですか?」
「えっ!?正気ですか?」
「ビートルさんがどれだけの魔力量を持っているか分かりませんが、おそらく全魔力を吸収されますよ?」
ディランとロビンは必死に止めようとしてくる。だがしかし、俺の決意は固い。
「では、拝借します。・・・うぉっ。これは想定以上に吸われますね。」
俺が魔剣『巫覡之光芒』を手に取った瞬間、魔力をごっそり吸われた気がした。ざっと全魔力の5分の1ぐらいだろうか。しかし、俺の魔力の自然回復速度は、魔剣が吸収する速度よりも圧倒的に早いため、特に問題はない。そして、すぐに魔剣が白く輝き出し、『巫覡之光芒』がボロボロの状態から本来の姿に戻った。神々しい魔力のオーラを纏っており、ただの刀剣ではないことがすぐに分かった。
「う、うそだろ・・・。こんな姿、父上が生きているときでさえ見たことがない・・・。」
「び、ビートルさん・・・。あなたは一体、何者なんですか・・・?」
「通りすがりのただのヒーローですよ。」
「「いやいやいやいやいやいや・・・。」」
デイモンとロビンは未だに信じられないようだが、そんなことはどうでもいい。2人は、早くここから脱出することが重要だ。
「さぁ、早く城外へ避難してください。」
兄妹2人は俺の言葉を聞き、城の外へと向かった。




