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スキルが1つで、何が悪い?  作者: あっつん
第1章 第3部
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第72話 レティシアの相棒

 ナツメからレティシアの伝言を聞いたとき、俺はかつてないほどハラハラした。レティシアが自分一人の力で何とかしようとしている。それは、俺の魂が傷つくのを憂慮してなのか、それとも誰かに守られる自分自身から脱却したかったのか、真意は分からない。ただ、俺の大切な仲間が最悪の結末を迎えるのは、何としてでも避けたい。そのため、俺は伝言を聞き、数分の葛藤の末、レティシアの方に全力で向かった。


 向かう途中、「玄武」が縮小するのが目に見えて分かった。全然サイズが小さくならず、ナツメに伝言を頼んだ際、俺の「魔眼」で「玄武」を注視すると、何となく魔力の流れが悪いように思えた。ただ、その原因や解決策までは分からなかったが、レティシアは自分自身の力で、俺でも理解できなかった状況を打破したのだ。


 ・・・すごいな、レティシア。


 レティシアは今日、本当の意味で誰かから守られる存在ではなくなったと言える。そして、柘榴湖の畔に到着すると、俺は眼前に広がる光景に言葉を失った・・・。


 「え、何、それ、どういうこと?」

 『お、ユリウス、もう来たんか。ワイもビックリやわ・・・。まさかここまで気に入るとは・・・。』


 そこには、ナツメの今のサイズまで縮んだ「玄武」がレティシアの左肩に乗り、レティシアと談笑している姿があった。初めて会ったとは思えないくらいの意気投合具合だ。


 ・・・えっ、なに、レティシアって、ウェイ系陽キャに近いコミュ力持ってんの?


 俺は、高校時代の喧しい陽キャ集団のことを想起した。コミュニケーション能力の化け物たちで、俺みたいな日陰者にもグイグイ来て、めちゃくちゃしんどかった気持ちを思い出した。


 「あっ、ユリウスさん!」


 俺に気づいたレティシアが、パッと表情を明るくさせ、俺の方に近づいてきた。なにそれ、かわいい。


 『お初にお目にかかります、2代目勇者ユリウス様。私は聖獣の「玄武」と申します。』


 レティシアの肩から降りた「玄武」は、通常サイズまで大きくなり、俺に恭しく頭を下げた。気品のあるイケメン執事のような雰囲気を醸し出している。しかも、めちゃくちゃイケボだ。


 『麒麟、もといナツメからお話は伺っております。』

 「そ、そうか。ただ、勇者扱いされるのはあまり好きじゃないから、普通に名前で呼んでくれたらいいよ。」

 『かしこまりました。』

 「ナツメ、説明しておいてくれてありがとう。」

 『おう、気にせんでええで。』


 ナツメと「玄武」の口調が全然違うので驚いた。聖獣にも自我があるため、それぞれ異なる話し方になるのだろうか。


 「ユリウスさん、「玄武」からお願いがあるようで・・・。」

 「お願い?」

 『はい、大変お手数をおかけしますが、私もナツメと同様に、名前をいただきたいのです。』

 「なるほど。」


 ナツメがかつて、聖獣全員が今の名前を気に入っていないと言っていたので、もちろんその準備はしてある。確か、玄武に対応する五果は・・・


 「それなら、『リツ』っていうのはどう?」

 『リツ・・・・・・』


 玄武に対応する五果は「栗」だが、「クリ」という名前はあまりに似合わないように感じた。完璧な執事を想像させる雰囲気なので、ここはあえて音読みの「リツ」にしてみたのが・・・。


 『素晴らしい響きですね、大変感服いたしました。今後、私のことは「リツ」とお呼びください。』


 「玄武」もとい「リツ」は、非常に嬉しそうな表情を浮かべながら、俺に再び一礼した。


 『ユリウス様、実はあと一つお願いしたいことがございます。』

 「なに?」

 『私を魔力暴走から救っていただいた、レティシア嬢にお仕えしたいと考えております。もちろん、聖獣という身でありますし、レティシア嬢がお慕いしているユリウス様にお仕えすることに異論などありません。しかし、私を苦しみから解放してくださったレティシア嬢の傍でお仕えし、有事の際にはレティシア嬢に力をお貸ししたいと思うのです。どうか、ご容赦いただけないでしょうか。』


 落ち着いた口調のリツは、俺の目をしっかりと見つめ、深々と頭を下げた。


 「ユリウスさん、私からもお願いします!」


 リツに続いて、レティシアもお辞儀した。俺としては、レティシアの身の安全が確保されるので、断る理由がない。それに先程、レティシアとリツが仲良く談笑している姿を見ている。良い相棒に違いない。


 「むしろ、そっちの方が俺としてもありがたい。これからもよろしくな、リツ。」

 『感謝申し上げます、ユリウス様。』

 「ユリウスさん、ありがとうございます!」


 レティシアとリツは俺に感謝を伝え、もう一度リツがレティシアの肩に乗った。


 『ユリウス、残りの聖獣もこうなるかもやで。』

 「えっ?」


 突如、ナツメが俺だけに念話を飛ばしてきた。残りの聖獣も、レティシアとリツのような関係になるとは、どういうことだろうか。


 『勇者様がワイたちを創り出したあと、一応全員が勇者様に仕える形やったんやけど、実質的にはワイだけが勇者様に仕えたんや。』

 「というと?」

 『残りの聖獣はみな、それぞれ勇者様の奥さんに仕えたんや。それは、勇者様の要望もあったんやけど、主に聖獣たちが奥さんを気に入ってな。』

 「おい、ちょっと待て、勇者って奥さんが複数人いたのか?」

 『そうやで、4人おった。』


 ・・・おいおい、羨ましすぎだろ。ちょっとそこの席変われよ。


 「マジかよ・・・。」

 『今もそうやと思うけど、貴族にやったら、正室と側室で複数人と婚姻できるんや。勇者様は、爵位をもらってたから、それができたんやと思うで。』

 「なるほどな・・・。」

 『やから、ユリウスも4人の奥さんができるんちゃうかな思て。』

 「いや、それはないだろ。」


 俺のことを好きになってくれる人など、1人存在するかどうか怪しい。たとえ、ありがたいことに、俺に恋愛感情を抱く人がいたとしても、それが4人もいるとは到底考えられない。


 『ワイはあると思うけどなぁ。』

 「万が一、それが本当なら、俺はレティシアと結婚するってことか?」

 『そうやな。』


 お世辞抜きで、レティシアは誰もが憧れるほどの美少女で、心根もめちゃくちゃ優しい。そんな人と結婚できたら、人生において最大の幸福を手に入れられるだろう。だがしかし、そんな上手くいくわけがない。そもそも、レティシアは俺に対して恋愛感情すら抱いていないはずだ。これからも抱く予定はないだろう。


 「ないない。レティシアは、俺よりもずっと良い人と結ばれるはずだからな。それに、レティシアは俺に対して恋愛感情を抱いていないと思うぞ。」


 俺はナツメの冗談をサラッと流し、レティシアがリツの魔力暴走を止められた理由を聞くことにした。


 ・・・『コイツ、鈍感すぎやろ・・・。はぁ、勇者様もこんな感じやったっけ・・・。色々と苦労した記憶が蘇ってきたわ・・・。』


 ナツメの心の声は誰にも届かずに消えていった。


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