第71話 解き放たれたスキル
「・・・とは言ったんですが、どうしましょう・・・。」
「インフィニートシュタール」を継続しているが、それでも小さくなる気配がない。同じ聖獣のナツメでも、原因が分からないようだ。
・・・とりあえず、「魔眼」を発動させましょうか。
私は、かつての「魔術」の訓練中に、ユリウスさんが言っていた言葉を思い出した。
(「魔眼」は、対象の速度を認識する能力を上げることになるんだけど、もっと慣れてくると、相手の魔力の流れが少し見えるようになるんだよ。)
ユリウスさんが語っていた、「魔眼」の真骨頂である魔力の流れを見抜くこと。これができれば、今の「玄武」がどのような状態なのか、少しでも分かるかもしれない。
「魔眼」は、私のクラウンスキル【遠望俯瞰】に似ているため、最近はかなり扱いに慣れている。今ならいけるかもしれない。
「よし、『魔眼』発動!」
〔レティシア・ミナージュ、解呪に成功しました。スキルの原状回復が行われます。〕
「えっ?」
私が「魔眼」を発動させた瞬間、急に頭の中に誰かの声が入ってきた。無機質で、感情が一切込められていない声だ。
・・・解呪?原状回復?
「ナツメ、今の声聞こえましたか?」
『ん?なんや、ワイには何も聞こえんかったで?』
ということは、私にしか聞こえていないのだろうか。一体、今のは何だったのか。
「そうですか・・・。」
『なんか聞こえたんか?』
「い、いえ、気にしないでください。」
『?』
とりあえず、よく分からない声は後回しにして、今は眼前の「玄武」に集中すべきだろう。
「・・・えっ・・・。な、なに・・・これ・・・。」
気を取り直して、私は「魔眼」を通して「玄武」を認識した。すると、今まで見たこともないような、凄まじい光景が広がっていた・・・。
「ま、魔力の流れって、こ、こんなにはっきりと見えるんですか・・・・・・。」
私の眼には、「玄武」の魔力の流れが、まるで毛細血管のように見える。体のどこに魔力が集中しているのか、魔力はどこからどこに循環しているのか、魔力が全身をめぐるスピードはどのくらいなのか、それが明瞭に認識できるのだ。
「な、ナツメ、知っていたら、教えてください・・・・・・。『魔眼』って、相手の魔力の流れが全て、明確に見えるんですか・・・?」
『なんや急に。「魔眼」って、魔術の一つのことやろ?』
「はい・・・。」
『いや、「魔眼」にそんな効果はないはずやで。魔力の扱い方に長けた奴なら、魔力の流れっぽいものが、薄っすらと見えるみたいな話は、聞いたことがあるけどな。ただ、魔力の流れが全部見えるなんて、それは「魔術」の域を超えとるわ。ユリウスでも、そこまでハッキリ見えてへんと思うで。ゴッドスキル以上やないと、無理ちゃうか。』
・・・えっ、じゃあ、私が見えているこの景色は一体何なのか。
今、ナツメの方に向いて話していたが、「玄武」と同様に、ナツメの魔力の流れもくっきりと見える。
・・・ん?「ゴッドスキル」?
私はナツメの言葉が引っ掛かり、懐に入れていたステータスカードを取り出した。そして、スキル名が記述されたところを見ると・・・
スキル:遠望俯瞰 ⇒ 天眼
そこで、私の思考回路は停止してしまった・・・。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『おい、レティシア、何寝ぼけてんねん!』
「あ、痛っ。」
ナツメの頭突きで、私の思考回路は無事に再稼働した。
『1分ぐらい固まってたから、ビックリしたで!』
「あっ、す、すみません、ナツメ。ありがとうございます。」
何が何だかよく分からないが、あとでユリウスさんに聞けば、きっと答えてくれるだろう。それよりも、まずは「玄武」の暴走を止めなければいけない。私は思いがけず、ゴッドスキルを使用できるようになったのだ。これをうまく利用しない手はない。
もう一度、魔眼?天眼?で、「玄武」を注視すると、甲羅の部分に魔力の大きな塊があるのを発見した。全身をめぐる魔力を遮っている腫瘍みたいなものだ。
・・・あの魔力塊が、魔力の放出を堰き止めているのかもしれませんね。
注意深く観察すると、魔力塊の周囲からは魔力が外に放出されず、どんどん魔力が溜まっていることに気づいた。つまり、すでに元のサイズに戻るまで魔力を削っていたが、魔力の澱みによってうまく全身に魔力が行き届かず、小さくなる途中で固定されている状態なのだ。
・・・ということは、このまま攻撃をし続けると、最終的には魔力塊を含め、全魔力を失ってしまうのでは!?
私は、急いで「インフィニートシュタール」を中止した。
『ちょっ、レティシア、何でやめるや!?』
「少し待ってください。」
そして、「玄武」が元の姿に戻らない原因である、甲羅の魔力塊に向けて魔法を放つことにした。
「ダークスラッシュ!」
私は、闇属性の初級魔法である「ダークスラッシュ」を、威力を落としつつ、魔力塊の中心に向けて撃った。闇属性を纏った斬撃は、そのまま甲羅まで飛んでいき、魔力塊に見事命中した。すると、「玄武」の魔力循環がスムーズに動き出し、巨大化かつ暴走状態だった「玄武」は、まるで風船が萎むように、ナツメと同じぐらいの大きさまで縮んだ。そして、柘榴湖にぷかぷかと浮き、ゆっくりと私たちの方まで近づいてきた。
『お嬢様、助けていただき、誠にありがとうございます。』
そう言って、「玄武」を構成している亀が深々と頭を下げた。巻き付いている蛇も申し訳なさそうに、ペコリと一礼した。
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