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スキルが1つで、何が悪い?  作者: あっつん
第1章 第3部
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第70話 甘さからの脱却

 理性を失っている「玄武」は、ついに柘榴湖から都市の方に向かって歩き始めた。一歩一歩は非常に遅いが、巨大化しているため、歩く度に湖水が津波のように襲ってくる。ナツメの防御魔法で何とか周囲への被害を抑えているが、このまま陸に上がり、都市まで進行してしまうと、類を見ない大災害が生じてしまう。


 「・・・というわけで、レティシア、あとは頼んだ。」

 「ユリウスさんの期待に応えられるか不安ですが、全力で頑張ってみます!」


 俺とナツメは、レティシアに作戦内容を簡潔に説明した。作戦といっても、非常にシンプルなものだが。


 お互いに魂が傷つくのを防ぐため、俺はあえて柘榴湖から離れることにした。具体的には、巨大化した「玄武」を正面に見据えながら、柘榴湖とすぐ近くの都市の中間地点あたりに移動した。


 ・・・もしものときは、俺がここで食い止めないとな。


 「もしも」というのは、レティシアの作戦が失敗したときだ。だが、俺はそのときが訪れないことを確信している。


 「レティシア、信じてるぞ。」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 『何や緊張しとんか?』

 「そりゃそうですよ!こんな重大な仕事、生まれて初めてなんですから!」


 ナツメの冗談めかした発言に、レティシアは語気を強めながら答えた。こんな大役、緊張しない方がおかしい。


 『大丈夫や、ユリウスの言葉に嘘はない。レティシアなら、やり遂げられるで!』

 「ありがとうございます、一生懸命頑張ってみます!」

 『アイツを救ってやってくれ。』


 ユリウスさんとナツメの言葉を胸に、私は眼前の巨大化した聖獣と対峙した。


 ・・・ユリウスさん、見ててくださいね!


 「ふぅ・・・・・・。よし!」


 私は右手首に付けている、ユリウスさん特製のブレスレットに意識を集中させた。そして、ブレスレットから大量の魔力を全身に巡らせ、魔力量を底上げした。


 ・・・何度やっても、不思議な感覚。


 500万もの魔力など、架空の話としか言いようがない。しかし、実際に私はそのおかしな魔力量を手に入れた。未だ信じられない魔力量だが、ユリウスさんのおかげで、私は自分の運命と戦うことができる。


 「ユリウスさん、私に戦う力を与えてくれて、ありがとうございます。」


 尊敬するユリウスさんの顔を浮かべながら、私は全力で魔法詠唱を行った。


 「インフィニートシュタール!!!」


「インフィニートシュタール」は、土属性の究極魔法の一つであり、土属性の中で最も威力が大きい魔法だ。詠唱後、私の周囲に無数の鋭い玉鋼の塊が出現した。「玉鋼」は、「天鋼」より劣るが、「極鋼」よりも強い硬度をもち、非常に攻撃力が高い。その玉鋼塊が、使用者の魔力が尽きるまで、対象物に高速でぶつかっていくのだ。


 『ええで、確実にダメージを与えとる!!』


 無数の玉鋼片が「玄武」に衝突するのを見ながら、ナツメが大きな声を出した。


 「こんな感じで、大丈夫でしょうか?」

 『バッチリや!あとは、巨大化がとけるのを待つだけやで!』


 ユリウスさんとナツメによる作戦は、とてもシンプルだ。魔力体である聖獣は攻撃を防御する際、自分自身の魔力を使って、攻撃力を著しく低下させる。つまり、聖獣に攻撃を与え続ければ、自ずと魔力が減少していくのだ。そこで、私が「玄武」に最大火力の攻撃を加え続け、「玄武」の吸収しすぎた魔力を削り、「玄武」の巨大化を解消しようという作戦が提案された。


 もちろん、聖獣に攻撃を与えるのは気が引ける。できることならしたくない。ただ、「玄武」とレオンパルド剣王国を救えるのは、この場にいる私にしかできない。ユリウスさんの期待に応えるためにも、成功しなくては。


 私が魔法を使用してから数分経った頃、徐々に「玄武」の大きさが小さくなっているのが、目に見えて分かり始めた。やはり、自分の魔力を防御に充てているのだろう。


 『魔力は大丈夫かいな?』

 「余裕です!」


 魔力量500万は伊達じゃない。魔法学では、「究極魔法を1分以上使用することなど不可能」というのが常識だが、その「当たり前」がいとも簡単に覆ってしまった。


 しかし、その後は数十分が経過しているにも関わらず、大きさがあまり変わっていないように感じた。


 『魔力は確実に減っているはずや!なんで大きさが変わらへんねん!』


 ナツメも私と同じことを思っているようだ。


 ・・・このままじゃ、先に私の魔力が尽きてしまう。


 私は非常に焦り始めた。この状態が続けば、ユリウスさんとナツメの作戦は失敗し、レオンパルド剣王国に甚大な被害が生じてしまう。そうなれば、「玄武」を無事に救出できない可能性も出てくる。


 ・・・どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう。


 私は「インフィニートシュタール」を使用し続けながら、頭をグルグルと回転させた。しかし、パニック状態に陥っており、何も考えられない。「頭が真っ白になる」とはまさにこのことだろう。


 『レティシア、ユリウスから伝言や。』


 ナツメがおもむろに、血の気が引いていく私の肩に乗った。


 「え、ユリウスさんからですか・・・?」


 何だろう。作戦が上手く行っていないことを咎められるのだろうか。いや、ユリウスさんは、本当に心の根の優しい人物だ。たとえ、心の中で私を咎めたくても、それを口に出すことはしない。


 「・・・ユリウスさんは、なんと?」

 

 ユリウスさんは、私に何というのだろうか。


 『「あとは俺がやる、場所を交代しよう」やって。』


 なるほど、私は失敗したのか。情けない・・・。

 

 ユリウスさんは作戦の失敗を悟り、自分の魂が傷つくことを選択したのだろう。たとえ、今後生まれ変わることがなくなったとしても・・・。そして、死ぬ覚悟も・・・。


 「・・・分かりました。『今からすぐに向かいます』と、伝えてください。」

 


 私はポロポロと溢れる涙を拭きながら、ナツメに伝言を頼んだ。ただ、ナツメは私の言葉を聞くと、しばらく間をあけ、真剣な表情で私を見つめた。


 『・・・・・・おい、ホンマにそれでええんか?』

 「えっ?」

 『ユリウスは優しい奴や。ただ、優しすぎる!ワイから言わせれば、過保護やで!』


 ナツメは少し怒っているようだ。非常に珍しい。というか、私は初めて見た。


 『そいつ自身が乗り越えんとあかん壁がいくつもあるっちゅうのに、ユリウスはそれまでも代わりにやってしまうんや!それが気に食わん!』

 「な、なるほど・・・。」

 『今もや!レティシアが踏ん張らなあかんのに、ユリウスはレティシアを壁から遠ざけようとしとる!それに、レティシアもそれをすんなりと受け入れて・・・。おかしいやろ!』


 その瞬間、私の中で何かが外れる音がした。まるで、私を縛っていた大きな鎖が一つとけたような。


 『レティシアは、ホンマにこれでええんか?ここでユリウスに頼ったら、もう手遅れになるで!』


 ナツメの心の叫びが真っすぐと、私の心に届いた。そして、自分の大きな過ちに気づいた。


 「・・・・・・ナツメ、ありがとうございます。私が間違っていました。私はずっとユリウスさんの力になりたいと思っていました。もちろん、今も思っています。ユリウスから魔力量を上昇させるブレスレットをもらい、『魔術』もある程度習得しました。これでユリウスさんを助けられると、自分自身の身を守れると、そう確信していました。ただ、結局私はユリウスさんに頼りっぱなしだったんですね。ユリウスさんの優しさに甘えていたんですね。」

 『・・・・・・。』

 「ナツメ、私の矛盾に気づかせてくれて、本当にありがとうございます。私は今ここで、本当の弱い自分を断ち切ります。ユリウスさんには、『大丈夫です、私が絶対に何とかしてみせます。』と伝えてください。」

 『ええ眼をするようになったな。分かった、そっちの言葉を伝えとくわ!』


 私は大きく深呼吸し、眼前の「玄武」に本当の意味で対峙した。

 それと同時に、あの鎖が外れるような音が一つ一つ増えていくように感じた・・・。

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