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スキルが1つで、何が悪い?  作者: あっつん
第1章 第3部
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第68話 柘榴湖へ

 「ナツメ、『玄武』の居場所は分かった?」

 『今、やっているところや。・・・・・・・・・ここから、南西に50㎞ぐらい行ったところに、大きな湖があるんちゃうか?』

 「俺に聞かれてもなぁ・・・。」

 「ここから南西にある湖・・・・・・あっ、もしかして『柘榴湖』じゃないですか?」


 加護に入っていることもあり、ナツメの念話はレティシアやフィオナにも使えるそうだ。つまり、今ナツメは俺とレティシアだけに聞こえるよう、念話を送っている。


 「そんな名前の湖があるのか?」

 「はい、確かレオンパルド剣王国で、最も大きい湖だったと思います。」

 「なるほど。」

 『その柘榴湖っちゅう湖の中にいるっぽいで。』

 「おいおい、大丈夫か、それ。」

 『「玄武」は、聖獣の中でも唯一、水中で息ができるんや。だから、溺れる心配はないやろうけど・・・、思った以上に魔力の消耗が結構激しいみたいやわ・・・。』


 ナツメの表情が徐々に険しくなった。やはり、魔力が尽きかけているのだろう。一刻も早く救出に向かわなければ、手遅れになってしまう。


 「よし、じゃあすぐにその柘榴湖に行くか!」

 「はい!」

 『頼むで!』

 「じゃあ、まずはそこの路地裏に入ろうか。」

 『「?」』


 俺は首をかしげるレティシアとナツメを横目に、すぐ近くの路地裏に進んだ。


 「ち、ちょっと、ユリウスさん、まさか・・・。」


 何かを察知したのだろうか、レティシアの顔が少しずつ引き攣り始めた。


 「大丈夫、ディランにちゃんと制限高度を聞いてるから。」

 「いや、高度の話ではな・・・キャァーー!!!!!!!」

 『ワイのことも考えてくれーーー!!!!!!!』


 俺は不可視魔法をレティシアと自分にかけ(もともとナツメにはかけている)、浮遊魔法で一気に飛び立った。いつもであれば、レティシアやフィオナに配慮して速度を落とすところだが、聖獣の命がかかっているのだ。レティシアには申し訳ないが、全速力で向かうことにする。ナツメは・・・まぁ、聖獣だから大丈夫だろ。


 俺の全力の浮遊魔法により、柘榴湖の畔までは数分で到着した。


 「ゆ、ゆ、ユリウス、さん・・・。ひ、ひどい、です・・・。」


 レティシアは、ゲッソリした顔で俺を恨めしそうに睨んでくる。


 「すまん、レティシア。でも、『玄武』の命がかかってるんだ。そこは勘弁してくれ。」

 「そ、それは、わ、分かっていますが、あ、あまりにも速すぎるので・・・。うぅっ・・・。」


 話している途中で、レティシアは突然口を両手で抑え、青ざめたナツメがいる茂みへと猛ダッシュしていった。なお、ナツメは到着次第、目にもとまらぬ速さで茂みの中へと消えていった。


 ・・・マジでごめん、レティシアとナツメ。今は仲良く、2人でリバースしてくれ。


 ナツメとレティシアのリバースタイムの間に、俺は「玄武」をいち早く見つけようと思い、柘榴湖の水面近くまで歩を進めた。すると、ナツメと初めて会ったときのように、突如として俺の魔力が湖の中へと、どんどん吸い取られていった。


 ・・・間違いない、聖獣はこの湖の中で復活している。


 聖獣の居場所が確信に変わったことに加え、魔力が吸われているという事実を受けて、俺は一安心した。魔力が枯渇寸前の聖獣に対して、俺の魔力が自動的に供給されているのだ。とりあえず、消滅の危機は免れたといえよう。


 「あとは、自力で水中から出てきてほしいんだけど・・・。」


 残念ながら、『説明書』にも『魔法書』にも、水中で呼吸ができたり、水の中を自由に闊歩できたりする魔法は載っていなかった。それに、生前から俺は泳ぐのが苦手である。水泳の授業では、どの学年でも居残りをさせられていた・・・。それらを踏まえると、何とか「玄武」には回復した魔力で、地上まで出てきてほしいのだが・・・。


 「浮かんでくる気配が全然ないな・・・。」

 『し、死ぬかと思ったわ・・・。』

 「おかえり。」


 まだ若干顔色が悪いナツメが、ゆっくりと俺の方に歩いてきた。そして、いつもの定位置である俺の右肩へと飛び乗った。


 「あれ、レティシアは?」

 『まだ向こうで、ぐったりしてるで・・・。一応、気休め程度に回復魔法をかけておいた。』

 「それは助かる。」


 良くも悪くも、この世界では、「酔い」は状態異常という扱いではないので、ナツメの加護も効かないのだ。回復魔法でも「酔い」は解消されないので、本当に気休めにしかならない・・・。レティシア、マジでごめん。


 『「玄武」の方はどうや?』

 「俺の魔力をしばらく吸収しているのに、全然湖から上がってこないんだけど・・・。」

 『それは変やな・・・。ユリウスの魔力で十分回復しているはずやで。ちょっと、魔力の糸を手繰ってみるわ。』


 ナツメは、不思議そうな顔を浮かべつつ、「玄武」の今の状態を確認し始めた。すると、徐々にナツメの顔が強張り、ロボットのようなぎこちない感じで、俺の方に首を動かした。


 『ユリウス、すぐに逃げた方がええかも・・・。』

 「えっ、それはどういう・・・」


 ザッバーーーーーン!!!!!!


 俺の言葉が最後まで紡がれることはなかった。なぜなら、唐突に、湖の中央から何十mもの水しぶきを上げながら、巨大な亀蛇合体の獣が眼前に姿を現したからだ・・・。


 ・・・うん、これはアカンわ。

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