第65話 聖獣は可愛い(?)
天魔種の討伐が早々に終わったこともあり、俺はいったん宿に帰ることにした。
「ここが今、俺たちが借りている宿だ。」
『思ったよりも、安っぽい宿や。』
「おい、口を慎め。」
ナツメの暴言を諫め、俺は自分の部屋に上がった。食事付きの宿ではないため、どこかに昼食でも食べに行きたいところだが、まずはナツメから他の聖獣の位置情報を聞くことにした。昼食をとりながらナツメと話す方が効率的なのだが、街の中でそんなことをしてしまうと、ブツブツと独り言を言っているヤバイ奴にしかならない。変に目立つのを避けるためにも、ここは効率性を犠牲にしよう。
「他の聖獣たちの居場所は、どこまでなら分かるんだ?」
『そうやな・・・。魔力反応が徐々に薄くなっとるから、正確な場所までは特定できんけど・・・。全員、このセルスヴォルタ大陸にいるのは間違いないで。』
「それは、不幸中の幸いだな。」
もし、全大陸に散らばっていたら、全聖獣を助けるのは難しかっただろう。何という奇跡!
『ここから一番遠いところにおるんが・・・これは・・・『玄武』の魔力やな。』
「どこら辺か分かるか?」
『う~ん・・・・・・この大陸の一番西側の方やな。そっちに行ってみたら、より具体的な場所が分かるかもしれん。』
「セルスヴォルタ大陸の最西端ということは・・・・・・レオンパルド剣王国か。』
俺はここ最近、『魔獣図鑑』と一緒に、ギルドに置いてあった世界地図や歴史書を少しずつ読んでいる。その書籍によると、セルスヴォルタ大陸の最西端に位置するレオンパルド剣王国は、この大陸で最も歴史が古い国らしい。また、プロメシア連邦国と長年友好関係を築いており、国家間の交流が盛んに行われているということだ。
「よし、さすがに今日は無理かもしれないが、今週中にはレオンパルド剣王国に行ってみよう。」
「ホンマにありがとうな、ユリウス。」
ナツメは満面の笑みでお礼を言った。やはり、聖獣同士の絆は深いのだろう。何としてでも、聖獣が消滅する前に救出したいところだ。
・・・レオンパルド剣王国がどんな国か、どうやったら行けるのか、ディランやフィオナたちにも聞いてみるか。
その後、俺とナツメは昼食を食べに、街中へと繰り出した。ナツメは、街の風景にめちゃくちゃ感動し、何時間もずっと喋っていた。昼食のパスタとパンは、俺が2人前を注文し、ナツメは喜んでそれを頬張っていた。
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その日の夜、俺はブレスレットのメンテナンスをしながら、俺の部屋でくつろぐフィオナとレティシアに「聖獣」のことについて聞いてみた。
「なぁ、2人とも『聖獣』って知ってるか?」
「せいじゅう?何それ?」
「初めて聞きましたが、魔獣とは違うのですか?」
この2人が知らないということは、人魔戦争以降の歴史に大きな改竄があった可能性が高い。きな臭いな。
「そうか、知らないのなら全然大丈夫だ。」
「いや、そこまで言ったら、普通気になるでしょ。」
「教えてくださいよ、ユリウスさん。」
「おい、やめろ、メンテナンスに集中できない。」
フィオナとレティシアがムスッとした顔で近づいてくる。最近は少しずつ慣れてきたが、それでも内心バクバクだ。
・・・美少女がホイホイ男に近づくんじゃありません!勘違いさせちゃうでしょ!もう!・・・ちょ、マジで近いっす。
「聖獣は、人魔戦争時代に伝説の勇者のスキルで創造された生物、正確には『魔力体』だ。」
「へぇ~、知らなかった。」
「私も初耳です。」
「どこでそんな情報手に入れたの?」
「え、いや、まぁ・・・・・・色んなところから・・・?」
「これは明らかに何か隠してますね。」
「ユリウスって、嘘つくの下手よね。」
・・・だって、2人が「聖獣」を知らないとは思わなかったんだもん!そりゃ、動揺しますよ!
『もうええで、ユリウス。』
フィオナたちに詰め寄られ、どうしようかと周章狼狽していると、ナツメが突然話しかけてきた。脳に直接話しかけているようで、ちょっと気持ち悪い。「念話」や「テレパシー」の一種だろうか。
・・・というか、念話が使えるんなら先に言っておけよ。昼食食べながらでも、情報共有できたやん。
「お前、念話できるなら、先に言ってくれよ。」
『すまんすまん、すっかり忘れとったわ。』
「おい。」
『それで、ワイの加護、この2人にも適用されているみたいやわ。』
「えっ、どういうことだ?」
『ユリウスが認めた本当の仲間ってことや。簡単に言えば、ユリウスという勇者が、正式な仲間として選んだ人物やな。』
「そうなのか。」
言われてみれば、転生のことを話しているのはこの2人だけだ。それぐらい、俺はフィオナたちを信頼している。それが「聖獣」の加護にも影響を及ぼしたのだろうか。
『ワイは、この2人を信用するで。ユリウス、不可視魔法解いてくれ。』
「本当にいいのか?」
『大丈夫や。ユリウスが仲間と認めた相手なんやろ?なら安心やで。』
「そうか。」
「ちょっとユリウス、何で空気に向かってブツブツ話しているの・・・?」
「ユリウスさん、ついに壊れてしまったんですか・・・?」
フィオナとレティシアには、俺が空中に話しかけているように見えているのだろう。2人とも、めちゃくちゃ引いている。
「おい、俺を勝手にヤバイ奴認定するな。・・・今から見せること、起こったことは他言無用で頼むぞ。」
「・・・分かったわ。」
「・・・もちろんです。」
俺の真剣な眼差しと言葉に応えるように、フィオナとレティシアも力強く頷いて了承してくれた。そして、俺はナツメの「インビジブルザラーム」を解除した。
「・・・コイツが今言っていた『聖獣』だ。」
俺は右肩に乗っているナツメを指差した。
『どうも、ワイは勇者様によってつくられた『聖獣』の1体のナツメや。今度とも宜しく頼むで。』
ナツメは自己紹介をしながら、ペコリと頭を下げた。フィオナとレティシアは、その様子をジッと見ていたが・・・
「「か・・・」」
『か?』
「「可愛い~!!!!!!!」」
「『えっ!?』」
俺とナツメの声が見事にハモった。
・・・えっ、ナツメが可愛い?2人とも、魔獣に眼球でも溶かされたの?
『おい、ユリウス。今、失礼なこと考えたやろ?』
「そ、そんなわけ。」
『ホンマかいな・・・って、ちょっと、やめ、やめろ~!!』
うっかり心の声が漏れていたのか、ナツメは俺に文句を言いたそうだったが、フィオナとレティシアによってもみくちゃにされている。
「なにこの生き物!!」
「めちゃくちゃ可愛いですよ!!」
「ユリウス、何で早く見せなかったのよ!!」
「そうですよ、ズルいです!!」
「いや、俺は可愛いとは思ってないし・・・。」
「「なんで!?」」
フィオナとレティシアは、「お前の感性がよく分からない」といった様子で鋭い目線を向けてくるが、俺からしたら2人の感性の方が100倍おかしいと思う。
『そういえば、勇者様と戦っていた時も、勇者様の奥さんたちにこんな感じで、めちゃくちゃにされてたわ!他の聖獣たちも皆ゲッソリしてたで・・・。』
ナツメは遠い目をしながら、どうすることもできずに、2人に触られまくっていた・・・。ナツメ、強く生きろよ。
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数分後、満足したのか、フィオナとレティシアはナツメをもみくちゃにするのをやめ、再び俺の方に向き直った。
「もう満足ですか?」
「とりあえず今日はね。」
「また続きは明日です。」
『えっ・・・。』
・・・どんまい、ナツメ。これから毎日、このお嬢さんたちの癒しとなってくれ。
「もう勘弁してくれ」と言わんばかりの表情を浮かべるナツメに、俺は優しくナツメの頭を撫でた。
「・・・で、本題に戻るとコイツが『聖獣』で、他にも4体いるらしいんだよ。」
俺は、今日の天魔種討伐、「聖獣」の秘密、Sランク昇格まで、一通りフィオナたちに説明した。2人は「聖獣」よりも、天魔種を俺が一人で倒したことにすごく驚いていた・・・。いや、そこかよ。
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