第64話 Sランク昇格
「デセスペラシオン」の肉片の一部を回収し、俺は早々に「ダンジョン」を脱出した。
「そういえば、『聖獣』って、魔法とかスキルを使えるのか?」
浮遊魔法を使ってギルドに帰還する途中、俺は肩に乗ったナツメと会話し、情報収集することにした。
『ワイら聖獣は、勇者の魔力量に応じて、使える魔法も決まるんや。勇者の魔力を借りて、魔法を使用する感じやな。さっきの名付けで、聖獣契約が完了したっぽいから、ワイはいつでもユリウスの魔力を使えるで。」
「名前を付けただけで契約完了とか、緩すぎだろ。」
『ユリウスの魔力量やと・・・、えっ、ユリウス、お前の魔力量どうなってんねん!!』
案の定、ナツメは俺の魔力量を測定し、両目が飛び出そうなほど驚いている。顎も外れそうだな。
「伝説の勇者よりも多いらしいぞ。」
『この魔力量は、ありえへんレベルやで・・・。これなら、ワイら聖獣は全魔法が使えるで!!』
「それは助かる、味方は強いに越したことはないからな。」
俺の魔力量が桁違いなおかげで、聖獣たちの力が大幅に向上したということだ。アホ女神には、一応感謝しておこう。
『あと、ワイら聖獣は、一切スキルをもってへんで。ただ、その代わりに『加護』を勇者とその勇者が認めた仲間に与えることができるんや。』
「『加護』?」
『まぁ、ある意味スキルみたいなもんや。ちなみにワイの加護は【不変】で、全状態変化と状態異常を無効化できるで。』
「ほぼゴッドスキルだろ、それ。」
状態変化が無効、つまり自動で体温調節をしてくれるこのネックレスと同じ効果があると言える。暑さや寒さにも大きな耐性がつくのは、正直かなりありがたい。
『ちなみに、ユリウスの魔力量のおかげで、ワイの【不変】は即死攻撃を受けても1回だけなら無効化できるで!』
「マジか。」
聖獣の加護がここまでのチート能力だったとは・・・。伝説の勇者には感謝しかない。
・・・全聖獣を味方につけられたら、世界最強じゃね?
俺はできる限り早く、残りの聖獣を救出しようと改めて決意した。
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俺は冒険者ギルドに戻ってすぐ、2階のディランが待つ部屋に向かった。
「あれ、ユリウス?もう帰ってきたのか?」
「はい、ちょっと色々ありまして・・・。」
「さすがのユリウスでも天魔種には歯が立たなかったか・・・。」
「いえ、そういうわけではないんですが・・・。」
「?」
俺は、首をかしげるディランの眼前に、収納魔法「エノルムストレージ」に入れていた「デセスペラシオン」の肉片をドンッと置いた。
「おいおい・・・、まさかこれって・・・」
「はい、天魔種の『デセスペラシオン』の肉体の一部です・・・。」
「いや、もうこれ、判別できねぇだろ・・・。」
呆れ顔のディランは、肉片をゆっくり掴みながら、俺の方をジッと見つめてくる。
「これ・・・ユリウスがやったのか?」
「・・・へい。」
「お前なぁ・・・。」
「マジですみません。でも、これには深い事情が・・・。」
俺は流れるような土下座をしながら、事の顛末をディランに話した。もちろん、ナツメのことは一切伏せた状態で。
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「なるほど、『デセスペラシオン』の皮膚が『魔装』でもなかなか貫けないほど、硬かったのか・・・。」
「はい、恐らく突然変異の類いかと・・・。」
「天魔種の亜種は聞いたことがないが・・・。まぁ、まだまだ謎の多い魔獣だ。そんなこともあるのだろう。」
・・・よし、何とか切り抜けられそうだな!
俺は、「デセスペラシオン」の表皮が突然変異で硬くなり、手加減した「魔装」では全くダメージを与えられなかったので、本気の「魔装」で連続殴打したら肉片と化してしまった、という話にすり替えた。まぁ、あながち間違いではない。突然変異か、聖獣の効果かの違い程度だ。
「まぁ、そういうことなら、今回は仕方ない。この肉片で勘弁してやろう。ただし、次からは気をつけろよ。天魔種の素材は、国家レベルでの研究対象になるんだから。」
「あ、はい、肝に銘じます。」
「そういえば、他のAランク冒険者やウィザードたちには会えたのか?」
「いや・・・残念ながら、冒険者やウィザードと思しき骸骨がたくさん散らばっていました・・・。全員『デセスペラシオン』に殺されてしまったと思います。」
「そうか・・・。ある程度予想はしていたが、全滅とは・・・。やはり、天魔種は人類にとって、大きな厄災の一つと言えるな。」
ディランは、苦虫を食い潰したような表情を浮かべ、そっと手を合わせて、冒険者たちの冥福を祈った。俺もそれに続いて合掌し、哀悼の意を表した。
「・・・・・・よし、ユリウスが無事に天魔種を討伐したこと、俺からナターシャ様や宰相に報告しておくよ。」
「ありがとうございます。」
「それと・・・」
「?」
ディランは不敵に笑うと、収納魔法の空間から金色に輝く冒険者カードを取り出した。
「おめでとう、ユリウス。見事、Sランク昇格だ!」
「えぇ~!!ちょっと早すぎませんか!?」
案の定、それはSランク冒険者のカードで、しっかりと俺の名前が記載されてある。
「確かに、ギルド史上最速のSランク昇格だ。しかし、天魔種をたった1人で討伐したんだ。むしろ、Sランクになっていない方がおかしいだろ。」
「はぁ、なるほど・・・。」
「それに、実はナターシャ様から『ユリウスなら、天魔種を一人で倒せるだろうから、Sランクに昇格させる手続きを済ませておけ。』と言われてたんだよ。」
・・・なるほど、ディランはナターシャの言葉を信用し、俺が天魔種を討伐することを見越して、準備していたのか。
「まぁ、まさかこんな短時間で倒すとは夢にも思わなかったが・・・。」
「あはは・・・・・・。」
「じゃあ、また明日からはSランクの依頼をこなしてもらうぞ。」
「えっ!?」
「覚悟しておけよ。」
そう言うと、ディランは足早に部屋を出ていった・・・。
・・・チクショー!Sランクのクエストなんて絶対面倒くさいやつばっかりだろ!
ちなみに、本来天魔種の討伐には褒賞金がたんまり出るのだが、俺は国への借金があるため、宰相マリアーノの言葉通り、褒賞金は全て借金の返済に充てられることとなった。結果、俺の借金は残り白金貨50枚である。
・・・よし、あと少しだ。あと少しで、この借金地獄から抜け出せる!
Sランクのクエストを受け続ける絶望と、借金返済の目途が立ったことへの歓喜で、俺の感情はよく分からないことになっていた・・・。
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