第63話 最高幹部会
ベテルスピカは、北部のグレーセハイト大陸、中央部のセルスヴォルタ大陸、南部のライノザーナ大陸の3大陸と、イリゼオセアン、セラスオセアン、ネブラオセアン、エルデオセアンの4海洋から構成されている。
そして、ユリウスがAランクのクエストをこなしている頃、セルスヴォルタ大陸とライノザーナ大陸の間にあるネブラオセアンに浮かぶ孤島で、「黒南風」の最高幹部会が開催されていた・・・。
孤島にある漆黒の舘にて・・・
「随分と遅かったな~、メイベル。」
緋色の2本の剣が描かれた漆黒の仮面をつけた男 ―ニコラス― が、ゆっくりと円卓が置かれた部屋に入ってきた女に言った。
「ニコラスと違って、私はグレーセハイト大陸でしっかりと職務をこなしているから。あんたみたいに、暇じゃないの。」
「あぁ?」
「それに、いつまでその仮面つけてんの?この部屋に入ったんだから、取ればいいのに。」
「気に入ってんだよ。」
「あっ、そう。」
菖蒲色の薔薇が描かれた漆黒の仮面をつけた女 ―メイベル― は、ニコラスの言動を意に介さず、淡々と仮面を外し、自らの席に座った。
「『カルティア』の皆さん、お揃いのようですね。」
メイベルが着席するや否や、ニコラスとメイベルの間に、『一つの存在』 ―「ローズヴェルト」と名乗っている― が出現した。人なのか、獣なのか、その以外の何かなのか、ニコラスたちには一切分からないものだ。声がするその存在は、常に黒い靄がかかっており、正体が何一つ掴めない。ただ、唯一分かっていることがある。それは、「黒南風」の会長の右腕であるということ。すなわち、最高幹部「カルティア」を凌ぐ実力の持ち主ということだ。
「いや、グリフィスがまだ来てないわよ。」
「彼は急遽、諜報部統括を兼任することになりましたので、今回の会議には不参加です。」
「「えっ!?」」
「黒南風」の最高幹部「カルティア」は、3名の人物から構成されている。具体的には、「ヴァレス」の名を冠するニコラス、「ダマ」の名を冠するメイベル、「バシレウス」の名を冠するグリフィスだ。そして、この3名にはそれぞれ、「ニュメロ」と呼ばれる「カルティア」に次ぐ実力を持った構成員たちが部下につき、その「ニュメロ」も部下を多数抱えている。ちなみに、ザハールとパメラは、ニコラスの「ニュメロ」にあたる。
また、黒南風の会長直属の組織として、諜報部や粛清部などが存在しており、ローズヴェルトは粛清部統括に就いている。
「あの好々爺が引退するのには、まだ早いと思うんだけど?」
ローズヴェルトから出た言葉に、メイベルの眉が少し上がり、驚いたような表情を見せた。
「つい先日の話です。エゼルが『とある人物』に敗北し、ギルドマスターのナターシャの管轄下に置かれました。」
「『とある人物』?」
「ユリウスと名乗る人物です。加えて、ナターシャが次期ギルドマスターの後継者候補に選んだようです。」
「それだとしても、あのエゼルが負けるなんて、信じがたいけど・・・。」
「メイベルの言いたいことは分かるけど、事実だよ。」
ニコラスが、おもむろに口を開いた。
「俺のもとに、粛清部の構成員がやってきて、エゼルを【夜凪】で処分するように言ってきてな。ユリウスっていう奴に負けて捕まったから、情報を吐く前に殺してほしいと。会長命令だったから、すぐに【精神感応】で位置を確かめて、【夜凪】を使ったんだけど・・・。生きてるのか?」
「ナターシャの【刀圭】で、心肺蘇生に成功したようです。」
「マジかよ・・・。【精神感応】を使っても返答がなかったから、確実に死んだと思ってたんだけど。」
「蘇生してしばらくした後、ナターシャの【刀圭】によって、一時的に昏睡状態にしているようです。また、【刀圭】を応用し、エゼルの心臓がナターシャ以外のスキルによって停止しないようになっています。」
「さすが、生きる伝説。」
「歴代最強と謳われるギルドマスターは、伊達じゃないってことか。」
メイベルとニコラスは、ローズヴェルトの話を聞き、改めてナターシャの強さを痛感した。しかし、それでも2人はナターシャに負けるとは微塵も思っていない。さすがに、「黒南風」の会長には瞬殺されてしまうだろうが、ギルドマスターと同等以上の実力を有していると自負している。
「以上のことがあったため、会長の命により、次期諜報部統括にはグリフィスが就任することになったのです。」
「なるほどね。」
「それは分かったけど、今回は何の召集なんだ?俺はさっさと、ユリウスっていう奴と戦いたいんだけど。」
「今回は、そのユリウスという人物についてです。ニコラス、ザハールから何か情報を得ていますよね?」
「一応。」
「諜報部からの情報があまりにも少ないので、ニコラス、共有してください。会長からのご命令です。」
「はいはい、分かったよ。」
ニコラスは、情報を隠すつもりも毛頭ないので、殺す前にザハールから吐き出させた情報を詳らかに話した。メイベルは、先程ユリウスという人物がエゼルを倒したことに少し驚いてはいたが、別大陸のことであり、ニコラスならすぐに処分できると考えているので、真剣に聞いてはいかなった。
「以上が、俺が今知っている、ユリウスに関する情報の全てだ。・・・って、おい、メイベル。寝るなよ。」
「・・・ふぁ~。だって、ニコラスが処分する相手なんでしょ?私には関係ないし。」
「いや、まぁ、確かにそうだけど。」
「・・・・・・ニコラス。一つ確認してもいいですか?」
「えっ、あ、はい・・・。」
ローズヴェルトは、非常に重たい声で、ニコラスに尋ねた。靄も一気に大きくなり、ニコラスやメイベルがゾッとするような、恐怖を覚えるようなものに変わった。
「ザハールは『アルカナスキル』と言ったんですね?」
「あ、はい、そうです・・・。ただ、そんなスキル名を聞いたことがないので、ザハールの聞き間違いではないかと・・・。」
「・・・・・・いえ、聞き間違いではないでしょう。」
「えっ?それは一体・・・。」
「あなたたちは、知らなくていいことです。余計な詮索もやめておきなさい。」
そう言うと、ローズヴェルトの雰囲気は最初の状態に戻り、ニコラスやメイベルの緊張も少し緩和された。
「ニコラス、ユリウスという人物と接触するのは、やめてください。会長からの指示を仰がないといけません。」
「はぁ!?いやいや、俺ならユリウスなん・・・。く、くるし・・・・・・。」
「まだ、何か言いますか?」
「・・・・・・い、・・・いえ・・・。」
「それなら安心です。」
「・・・・・・うっ、はぁ、はぁ、はぁ。」
ローズヴェルトのスキルなのだろうか、突如として、ニコラスは自身の首が途轍もない強い力で、締め上げられるような感覚に陥った。そして、その状態の時には、自分のスキルや魔法が一切使えなくなっていた。
「あの会長の右腕に口答えするなんて、命知らずにも程があるでしょ。そもそも、私は別大陸のことに首を突っ込む気はないから。まぁ、万が一、そのユリウスがグレーセハイト大陸に来た時には、会長の指示があるまで、接触しないようにすればいいんでしょ?」
「メイベル、その通りです。さすが、聡明ですね。」
「それはどうも、ありがたいお言葉です。会議はこれで終わり?」
「はい、またユリウスに関する件については、個別に指示があると思いますので、それまでは接触を控えてください。」
「了解、それじゃあ、私はこれで。」
「不本意だが、ローズヴェルトに逆らうほど、俺も馬鹿じゃない。ユリウスには近づかないでおくよ。ただ、情報収集は構わないだろ?」
「もちろんです。むしろ、接触しない範囲で、諜報部とは別に情報を集めていただければ、会長もお喜びになると思いますよ。」
「じゃあ、そうさせてもらうよ。」
こうして、メイベルとニコラスは、それぞれ孤島から自分の担当する大陸へと戻っていった。
「フフフ、まさか勇者の再来とは・・・。いち早く会長にお伝えしなければ・・・!あぁ、あと少しでお会いできますね、我が主!もう一度、世界を魔族たちで埋め尽くしましょう!!」
そして、誰もいなくなった漆黒の舘にて、ローズヴェルトのかすかな独り言が響くのだった・・・。
「面白い!」「続きが読みたい!」など思った方は、ぜひブックマークと評価をよろしくお願いします!
ブックマークや評価していただければ、作者のモチベーションが爆上がりします!




