第62話 新しい仲間(仮)
「デセスペラシオン」が肉片と化したその後、俺と「麒麟」はダンジョン内で、しばらくの間、色々とお互いのことを話し合った。
まず、「デセスペラシオン」の体内から突然現れた「麒麟」は、「人魔戦争時代」に勇者のスキルで創造された「聖獣」と呼ばれる生物らしい。フィオナやレティシアなど、この世界の住人なら知っていて当然の知識なのかもしれないが、異世界人の俺には初耳の情報だ。女神作成の「説明書」にも、そのような記述は一切なかった。
「麒麟」を含め、「聖獣」は5体存在していたが、勇者と魔王の最終決戦の際、魔王の特殊な魔法によって、「聖獣」は各地に強制封印されたようだ。しかし、つい最近、その強制封印が突如として解かれ、再びこの世界に出現できたという。
「封印が解かれた理由として、何か思い当たることはないのか?」
『勇者様でも解除できんかった魔王の封印やからな。さっぱりやわ。』
封印の解除で、「麒麟」は復活を果たしたが、何万年と眠りにつかされていたため、自分自身をギリギリ保てるほどの魔力しか残っていなかったようだ。封印場所もこのダンジョン内であったため、「デセスペラシオン」に丸呑みされ、胃袋の中で消化されるのを何とか防いでいたそうだ。
『もうアカン、魔力が尽きて、存在ごと消滅してしまう・・・ってときに、お前が現れたねん。勇者様と同じ魔力波長やったから、魔力をどんどん吸収することができたっちゅうのに、まさか勇者様と違うとは・・・。驚きやわ。』
「麒麟」を含め、聖獣は勇者の魔力で構成された大きな魔力体らしく、勇者以外の魔力で自分自身を形成することができないそうだ。
また、「デセスペラシオン」が「魔術」に対して耐久性があったことや、アルカナスキル【神奪】が通用しなかったことは、すべて「麒麟」が原因のようだ。つまり、「麒麟」が体内にいたことで、「デセスペラシオン」は「聖獣」が持つ「魔術」に対する耐性の一部を獲得しており、さらに「聖獣」を取り込んだことで、勇者のみが使用できるアルカナスキルをはじくことができたという。
「聖獣」は、勇者が創り出した生物であるため、お互いに攻撃することはできず、もし攻撃をした場合、「魂の繋がり」によって、相互の魂に傷を負うらしい。なお、傷ついた魂は徐々に回復するが、限界まで魂を傷つけてしまうと、輪廻転生から外れ、二度と生まれ変わることができなくなるようだ。
ここまでの話を踏まえると、俺は「2代目勇者」ということになるのだろうか。絶対に襲名したくないんだが・・・。そもそも、アルカナスキルは女神が授けたものだ。となれば、あのアホ女神は確実に、俺を勇者にするつもりで転生させたのだろうか・・・。クソ、腹立つ!!
『お前は、勇者様の生まれ変わりなんか?』
「絶対違う。俺は、この世界とは別の世界から転生してきたんだよ。」
俺は、「麒麟」に異世界転生のことを簡潔に伝えた。自分でもよく分からないが、コイツというか「聖獣」には伝えても、全然問題ない気がした。
『ん?そういえば、勇者様も転生者って言よった気がするなぁ・・・。あんまり昔のこと過ぎて、覚えてへんけど・・・。』
「おいおい、そこ結構大事なところだろ。」
もし、勇者が異世界転生者だった場合、俺は確実に「2代目勇者」ということになる。いや、魔王なんて、今いないんですけど・・・。
「そういえば、アルカナスキルっていう名称、俺が知り合った人たちは誰も知らなかったんだけど。」
『それはおかしな話やな・・・。人魔戦争時代の資料とか残ってるんやったら、間違いなく、勇者様だけが扱えるスキル名として登場するはずやで。・・・う~ん、もしかしたら、ワイたちが封印されている間に何かが起きたのかもしれんな・・・。』
確かに、「麒麟」の言う通りだ。勇者のみが扱えるスキルなど、「英雄の伝説」の1つとして、ずっと語り継がれているはずだ。それが全くないということは、明らかに過去に何かしらの作為があったに違いない。
『お前は、これからどうするんや?』
「どうするも何も、『2代目の勇者です』なんて言うつもりは毛頭ないし、たとえ言ったとしても、仲間以外は全然信じてくれないと思うからな。これまで通り、生きていくことにするよ。魔王もいないし。逆に、お前は?」
『ワイは・・・・・・分からん。けど、他の聖獣たちが心配や。』
「封印されていた場所が分かるのか?」
『聖獣はお互いに、魔力の糸で繋がっとるから、何となくは分かる。ただ、魔力が弱くなりすぎて、正確な場所までは掴めん。』
「お前みたいに、天魔種とか、他の魔獣に取り込まれている可能性もあるんだろ?お前だけで大丈夫か?」
『そうやけど・・・。まぁ、やるしかないわ。』
「はぁ・・・。」
「麒麟」の表情が徐々に険しくなっているのが分かる。他の「聖獣」を窮地から救いたい気持ちがあるが、自分にできることが少ないということを理解しているのだろう。「聖獣」1体だけで、天魔種を倒すことは容易ではない。仮に打ち倒すことができても、「麒麟」では、他の「聖獣」に魔力を分け与えることができない。
・・・なんだか、「聖獣」を放っておけないんだよな。これも「魂の繋がり」の影響なのか・・・。
「・・・・・・じゃあ、俺が協力してやるよ。」
『・・・ホンマか?ワイ、お前に結構強い口調で罵ったんやで?』
「それはお互い様だろ。それに、お前の場合、数万年ぶりに勇者と再会できると思った喜びが大きかったからこそ、失望がより増して、俺に対する態度がきつくなったんだろ?まぁ、初めはめちゃくちゃムカついたけど、お前の気持ちも分からなくはないから。」
「麒麟」と話せば話すほど、悪い奴じゃないってことがよく分かる。勇者が創造した「聖獣」だけあって、心根はきっと良いのだろう。
『・・・ありがとうな。』
「とりあえず、他の聖獣4体を助けるまでは、一緒に行動するか。そこから先は、お前たちに任せるよ。俺についてきても、別の場所でゆっくり暮しても、他の誰かに仕えてもいい。」
俺個人としては、「聖獣」が傍にいてくれる方が何かと安全で、もしもの時にはサポートしてくれそうなので、ずっと仕えてほしい。だが、それを口に出すのは控えておこう。俺が創造したわけでもないし、「聖獣」は自我をもっている。自分が生きる道は、自分で決めてもらいたい。
「そういえば、お前の名前を聞いてなかったな。俺の住んでいた世界の『麒麟』っていう伝説の生物に似てるけど、こっちの世界でも『麒麟』と呼ばれているのか?」
『確かに、勇者様は、ワイに『麒麟』って名前をつけてくれたわ。お前は何て言うんや?』
「前の世界の俺の名前は、佐藤優紀。でも、この世界ではユリウスと名乗っているから、呼ぶならそっちの名前で。」
『分かった、ほなこれからユリウスと呼ばせてもらうわ。』
「おう、じゃあ俺も『麒麟』って呼ぶことに・・・」
『それなんやけどな・・・。』
「麒麟」が食い気味に、俺の言葉を遮った。「麒麟」は、少しバツが悪そうな表情を浮かべている。
『勇者様が付けてくれた名前なんやけど、どうもワイにはしっくりこんくてな・・・。勇者様と同じ、『アルカナ』の名を冠するスキルを持ってて、魔力の波長も酷似しとるユリウスなら、ワイも文句はない。ワイに新しい名前を付けてくれんか?』
「麒麟」は縋るように俺にグイっと近づき、両眼をキラキラと輝かせながら、俺をじっと見てくる。「麒麟」という名前が相当嫌だったのだろう・・・。
「本当に俺が付けていいのか?」
『かまへん!ただ、「聖獣」が了承した上で、一度名前を刻むと、名付けた者が死ぬまで、「聖獣」はその名前をずっと背負うことになるからな!ワイが気に入るような名前にしてくれへんと、許さんで!』
・・・いや、もうハードル上げんといて。
俺は「麒麟」の期待に何とか応えるべく、色んな名前を思い浮かべた。
「ちなみに、他の『聖獣』の名前って、『青龍』『朱雀』『白虎』『玄武』だったりする?」
『何で知ってんねん!?』
案の定だ。「聖獣」は、「麒麟」を含め5体存在している。「麒麟」の名前・特徴と、全部で5体という情報から、勇者が俺と同じ世界からの転生者であれば、間違いなく、中国神話の霊獣である「五獣(五神)」をモチーフにしていると思ったのだ。
「合ってるということは、俺が勇者と同じ世界から転生したってことだ。」
『そうなんか・・・。でも、あいつら全員、ワイと同じで、その名前をあんまり気に入ってなかったで。』
・・・おい、マジか。俺がいた世界だと、まぁまぁカッコいい名前だと思うんだが。
「五獣」の本来の名称を、「聖獣」全員が嫌がっているということは、今後5体すべて命名をしなければならない可能性があるということだ。
・・・確か、五行思想の中に「五果」があったよな。それぞれ「五獣」と対応していたっけ。
俺は五行思想など、様々な中二病を患っていたあの黒歴史の知識を思い出し、「麒麟」の新たな名前をひねり出した。
「棗っていうのは、どうだ?」
『ナツメ・・・。』
「カッコイイかは分からないけど、響きとしては結構良いんじゃないか?」
『おう!確かに、よく分からんけど、ワイに合ってそうな名前や!ほんなら、ワイはこれから『ナツメ』として生きていくで!ユリウス、ありがとう!』
「麒麟」改め「ナツメ」は、喜びの感情を爆発させ、俺の周囲をグルグルと回り始めた。五獣の「麒麟」に対応する「五果」が「棗」なのだが、この世界でもそれが上手く適応されているのだろう。
「よし、それじゃあ、とりあえず『デセスペラシオン』の残骸をギルドに持っていって、討伐報告するか。ただ、『ナツメ』の存在をオープンにするわけにはいけないよな?」
『間違いなく、この世界は大パニックに陥るやろな。ただ、ユリウスが『2代目勇者』って大々的に宣言すれば、聖獣が復活しても不思議ではないで?どうする?』
「いや、それだと、今度は俺が色々と面倒なことになるだろ。まぁ、とりあえずは秘密にしておくか。」
『ワイもそれがいいわ。他の聖獣を先に見つけて、力ずくで従わせようとする輩もおるかもしれんし。』
「ナツメ」と相談し、さしあたっては「聖獣」の復活を隠すことにした。そして、心は痛むが、フィオナやレティシアにも内緒にしておくつもりだ。ただ、フィオナたちに「聖獣」のことが、現在どう伝わっているのかを聞く必要はあると思う。
「俺がギルドに行っている間、『ナツメ』はどうするんだ?」
『ギルドなんてもん、あの頃にはなかったから、見てみたいわ!ワイも連れて行ってくれ!』
「いや、その姿だと、明らかに聖獣か新種の魔獣に認定されるだろ。」
『わかっとる。だから、こうするんや!』
そう言うと、「ナツメ」の全身が急に淡く光り始め、みるみるうちにサイズが小さくなった。そして、そのまま空中を闊歩し、俺の右肩へと乗った。
『これで、目立たんくなったやろ?後は、ユリウスがワイに不可視魔法をかけるだけや。』
「なるほどな。」
俺は右肩に乗っているミニカーぐらいの大きさになった「ナツメ」に「インビジブルザラーム」をかけ、ダンジョンを抜け出した。
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