第58話 「魔術」の特訓
大森林アルゲンティムの南東部に到着した俺たちは、すぐに「ジャイアント・マンティス」の群れに遭遇した。体長は、閻魔種「インペリアル・エイプ」の半分ぐらいだが、その巨大な禍々しい2つの鎌は、一撃で相手を真っ二つにできるだろう。閻魔種まではいかないにしても、業魔種の中でも屈指の強力な魔獣と言える。そして、ディランの言っていた通り、大量発生しているようだ。
「よし、早速こいつらで『魔術』の練習をしようか。」
「えっ、ユリウス、本気?」
「最低でも・・・10匹はいますよ・・・。」
10匹程度の「ジャイアント・マンティス」が、俺たちを取り囲んでいる。すでに興奮しており、臨戦態勢に入っているようだ。
「大丈夫だって。まずは、手本を見せるから、よく見ててくれ。」
俺は1匹の「ジャイアント・マンティス」の前にゆっくりと進み、そして「魔装」を纏った右手で、頭部を思いっきりぶん殴った。すると、頭部が綺麗に破裂し、青緑色の体液が四方八方に飛び散った。そして、「ジャイアント・マンティス」はその場に倒れ、息絶えた。
「今のが『魔装』。『魔術』を習得して、自分の魔力をコントロールできるようになれば、魔力量に関係なく、自分の好きな加減で魔法とかもできるようになるよ。」
俺は振り向いて、フィオナとレティシアに伝えたのだが、2人とも目が点になっていた。
「えっ、どうした?」
「ユ、ユリウス。今、何したの?」
「ユリウスさんが話し終えたと同時に『ジャイアント・マンティス』の頭部が破裂したんですが・・・。」
「あぁ、そうか。『魔眼』なしだと、今のでも速すぎるのか。」
俺の中では、少しゆっくり攻撃したつもりだったが、それは「魔眼」で見たときの話だ。「魔眼」をまだ使えない2人にとっては、何が起きたのか分からなかったのだろう。
「ごめんごめん。先に『魔眼』を習得してから、『魔装』を教えた方が良かったな。それじゃあ、『魔眼』の練習から始めようか。」
「それは良いんだけど、この数の『ジャイアント・マンティス』はどうするの?」
「私たちが練習している間に襲ってきたら、どう対処したらいいのか・・・。」
「あぁ、それなら全然問題ないよ。『エタンセルパラリシス』!」
俺はここから半径2㎞を対象に、麻痺魔法を使用した。これなら、安心して「魔眼」のトレーニングに集中できるだろう。
「これで、襲ってくる心配はないだろ?とりあえず、『魔眼』を使えるように訓練して、習得できたら、麻痺で動かない『ジャイアント・マンティス』を相手に、『魔装』の練習をしよう。」
「私、こいつらが少しだけ可哀想に思えてきたんだけど・・・。」
「私もです・・・。業魔種って、Bランクの冒険者が複数人いても苦戦する魔獣だと聞いていたのですが、ただの私たちの練習道具になるなんて・・・。」
フィオナとレティシアは、若干引いていたが、気にしない。俺は何としてでも30匹を倒して、日没までに素材を納品しなければならないのだ。
こうして、「ジャイアント・マンティス」を使った「魔術トレーニング」が始まったのだった・・・。
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2時間ほど経っただろうか、ようやく2人とも「魔術」のコツを掴んだようだ。正直、フィオナとレティシアは、俺よりも遥かに、魔力操作が得意なのかもしれない。
当然だが、俺は自分の全身を流れる膨大な魔力量をコントロールすることで、「魔術」を使ったり、魔法の威力を調整したりしている。しかし、フィオナとレティシアは、自分の魔力と、ブレスレットを通して流れ込んだ俺の膨大な魔力が混ざったものを、上手くコントロールしなければならないのだ。俺には経験がないので想像になるが、他人の魔力と自分の魔力は恐らく性質が異なるはずだ。混合された魔力、それも500万という膨大な量のものをコントロールするとなれば、相当難しいと言える。
その尋常ではない困難性を2人は2時間でクリアしたのだ。天賦の才としか言いようがない。
「『魔眼』と『魔装』は、習得できたっぽいな。」
「何とかね・・・。」
「これ、めちゃくちゃ疲れますね・・・。」
フィオナとレティシアの顔には、かなりの疲労が見える。日没も近いし、そろそろクエストを終わらせるか。
「よし、じゃあ、最後は動く『ジャイアント・マンティス』で実戦だ!」
「「えっ!!!!!?????」」
俺はフィオナとレティシアの眼前にいた、「ジャイアント・マンティス」4匹の麻痺を解除した。
「2人なら大丈夫!『魔眼』で動きを捉え、『魔装』を纏った攻撃を一発食らわせれば、倒せる!」
俺はそう言うと、クエストをクリアするため、麻痺で動けなくなった「ジャイアント・マンティス」を次々に、風属性の初級魔法「ウィンドアロー」で討伐しまくった。もちろん、「ウィンドアロー」で真っ二つにした胴体の片方を、納品用の素材として収納魔法に入れていく。
ディランには30匹と言われていたが、思った以上に数がいたので、50匹以上討伐した。そこまで強くなかったので、討伐は3分もかからずに終わった。
「さて、2人はどんな感じかな。」
俺は、フィオナとレティシアの方に向くと、すでに討伐は完了しており、4匹とも頭部や腹部が大きく破裂して、死骸となっていた。
「これで、『魔術』が実戦でも使えるようになったな!おめでとう!」
「何が『おめでとう!』よ!死ぬかと思ったんだけど!」
「そうですよ!いきなり4匹の『ジャイアント・マンティス』を倒せだなんて、鬼畜すぎます!」
フィオナとレティシアは、少し怒っていたが、それでもどこか嬉しそうな表情をしていた。
「まぁ、でもこれで『黒南風』の幹部クラス相手でも、戦えるようになったわ。ユリウス、本当にありがとう。」
「私も、これで『黒南風』の刺客に怯えないで良くなりました。ユリウスさん、本当にありがとうございます。
フィオナとレティシアは、ドキッとするほどの可憐な笑顔を見せ、俺の手をそれぞれ掴んだ。
・・・うん、控えめに言って最高だぜ。
「でも、ユリウス・・・。どうして、大森林アルゲンティムの南東部に『ジャイアント・マンティス』が大量発生しているって分かったの?」
「おかしいですよね?そんな情報、ギルドの人間ぐらいしか知らないはずですけど?」
「ちょっ、痛い痛い!!!ふ、2人とも、落ち着くんだ!」
2人の俺の手を掴む力が、めちゃくちゃ強くなってきた。
・・・間違いなく、「魔装」を使ってますね。俺も「魔装」してなかったら、確実に折れてますわよ、お嬢さんたち。
「しかもさっき、収納魔法で『ジャイアント・マンティス』の素材を集めてるところを見たんだけど、あれはどういうこと?」
「何十匹もの素材を回収する必要なんて、依頼以外にあり得ないですよね?何か隠してますよね、ユリウスさん?」
・・・あぁ、詰んだわ、これ。
その後、俺はディランから受けたクエスト内容と、それを「魔術」の練習に利用したことを正直に話した。そして、案の定、「魔装」を纏った拳で一発ずつ殴られたのだった・・・。
俺は何とか、日没までにギルドに戻り、初のクエストは無事にクリアした。合計56匹の「ジャイアント・マンティス」を討伐したことで、クエスト報酬が増額され、金貨5枚も獲得することができた。Aランクということもあり、非常に良い稼ぎになりそうだ。
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