第57話 Aランクのクエストへ
1階に降りるとすぐに、こちらに向かって全速力で走って来る女性2人が目に入った。
・・・うん、間違いなく、俺の仲間ですね。
「ちょっと、ユリウス!これに、どれだけの魔力を付与したの!?」
「ユリウスさんのせいで、依頼失敗したじゃないですか!!」
めちゃくちゃ興奮した状態で、フィオナとレティシアに詰め寄られた。昨日の一件もあり、ギルド内にいる冒険者から、俺たちは色々と奇異の目で見られている。膨大な魔力が込められたブレスレットの存在が、周囲に知れると厄介だ。ここで話し込むのはやめておこう。
「ちょ、ちょっと、待ってくれ!ここじゃあ、あれだから、外で話そう!」
俺は2人を宥めながら、ギルドの外に出て、路地裏で話を聞くことにした。
フィオナたちの話をまとめるとこうだ。
レティシアがEランクなので、フィオナと同じBランクの依頼はできない。そこで、2人でEランクの依頼を受けることにした。2人が選んだのは、とある廃墟に住まう下等種の魔物「レッサー・フロッグ」5匹の討伐。ブレスレットの効果も試すため、早速、廃墟に向かい、それぞれが最小限の威力で下級魔法「ウォータースピア」と「ダークスラッシュ」を唱えた。すると、眼前の2匹の「レッサー・フロッグ」が跡形もなく消し飛び、さらには、廃墟も粉々に崩れたそうだ。結果、廃墟を巣にしていた「レッサー・フロッグ」が全滅したと・・・。
「討伐系は倒した魔獣や魔物の一部をギルドに納品して、鑑定を受けることで、依頼達成になるのに・・・。」
「『レッサー・フロッグ』は、剥ぎ取ることができないほど、見るも無残に潰れてましたよ・・・。」
「結局、廃墟ごと「レッサー・フロッグ」を消滅させたから、依頼自体は失敗だって・・・。」
「無許可で廃墟を木っ端微塵にしてしまったので、倍の違約金を払うことになりました・・・。」
フィオナとレティシアは、どこか遠い目をしていた・・・。余程、衝撃的だったのだろう。
「なるほど・・・。それは、ドンマイ!!・・痛っ!!」
俺は、満面の笑みでグッと親指を立てたが、無言で2人にしばかれた。理不尽!
「何がドンマイよ!前の時より、すごく扱いにくいんだけど!!」
「ユリウスさん、一体、どれほどの魔力を込められたんですか!!この前言っていた200万よりも、明らかに多い気がするんですけど!!」
「実は、付与魔力が50万を超えたあたりから、ブレスレットが壊れそうな気がして・・・。」
「えっ!?このブレスレットには、50万しか入っていないってこと?・・・いや、50万でも十分狂っているんだけど・・・。」
「いや、だからそのブレスレットに『天鋼』を混ぜてみたんだ。」
「ち、ちょ、ちょっと、ま、ま、待ってください。ど、どうしてユリウスさんは、『天鋼』を所持しているんですか?」
「パメラのスキルの残骸を収納魔法に入れて置いたんだよ。」
「いつの間に・・・。でも、だから、少しブレスレットの色が以前よりも濃くなったのね。」
「全然知らなかったです・・・。それで、『天鋼』を融合させた後は、どれぐらいまで魔力を付与されたんですか?」
「予定通り、200万でも良かったんだけど・・・。限界まで挑戦してみたくなって・・・。」
ここで俺は一度、深く息を吸い、フィオナとレティシアをしっかり見つめ、一言一句丁寧に伝えた。
「結果・・・500万まで込めてみました!」
俺の予想通り、フィオナとレティシアは、卒倒した・・・。
近くのベンチまで運び、数十分後、2人はようやく目を覚ました。そして、俺をジト目で睨んで言った。
「「やり過ぎ!!!!!!」」
「すみません・・・。」
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「私たち、これじゃあ、まともに依頼が達成できないんだけど・・・。」
「ユリウスさんの御厚意は嬉しいんですが、さすがに500万は・・・。」
2人も顔を引き攣らせて、俺を見てくる。だがしかし、俺には名案があるのだ。
「ちょっと待て2人とも。俺が何も考えず、膨大な魔力を付与したと思うか?」
「うん。」
「思います。」
・・・あれ、おかしいな。俺たち仲間なのに。どうして、こんなに冷たいのかしら。まぁ、付与した後に思いついたことなので、2人とも合ってはいるんだけど。
「い、いやいや、そ、そんなわけないでしょ!俺は、2人に『魔術』を体得してもらうために、あえて限界まで魔力を付与したんだよ!」
「怪しい。」
「本当ですか?」
「も、も、もちろん!」
フィオナとレティシアは、めちゃくちゃ疑いの目を向けてくるが、知ったことではない。押し通すまでだ。
「というわけで、今から大森林アルゲンティムに行って、俺と一緒に『ジャイアント・マンティス』を討伐しようぜ!実戦こそが、『魔術』のコツを掴む良い方法だからな!」
「その魔獣、業魔種の中でも結構強い部類でしょ?不安なんだけど・・・。」
「どうして、『ジャイアント・マンティス』なんですか?」
「そ、それは、まぁ・・・『魔術』の練習に、ぴ、ピッタリだからか、かな・・・。」
口が裂けても、「俺が依頼されたクエストを、楽に終わらせるためだよ!」なんて言えない・・・。
「大丈夫!俺がついているし、もしもの時は初級魔法で木っ端微塵にすればいいから!」
俺は、訝しんでいる2人を何とか丸め込み(?)、大森林アルゲンティムに向かうことにした。
2人とも浮遊魔法をめちゃくちゃ嫌がっていたが、俺のクエストは日没までに達成しないといけないので、悠長にしている時間はない。この前よりも、ゆっくり飛ぶことを約束し、2人には妥協してもらった。
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