第56話 容赦なし
俺は夜通し、ブレスレットに魔力を付与し続けた。壊さないように徐々に魔力を溜めていったが、50万を超えたあたりから、嫌な予感がしたので、対策を色々と考えた。そして、収納魔法「エノルムストレージ」に入れておいた「天鋼」を、ブレスレットの素材にブレンドしようと閃いた。
実は、パメラとの戦いが終わった後、比較的大きく砕けた「天鋼」を奪っておいたのだ。早速、それが役に立つとは・・・さすが俺、略して「さす俺」だ。
「メルヴェイユフュージョン。」
俺は、土属性の究極魔法で、異なる物質を融合させることのできる「メルヴェイユフュージョン」を使用し、フィオナとレティシアのブレスレット、それぞれに「天鋼」を混ぜ合わせることに成功した。多少、ブレスレットの色が暗めになったが、金属製特有の艶が出て、非常に良いビジュアルになったと思う。
「さてと・・・頑張りますか。」
俺は気合を入れ直し、改めてブレスレットに魔力を込め始めた。「天鋼」が耐えられる限界まで付与してみたいという好奇心もあり、最終的には500万もの魔力を付与することができた。しかし、気が付くと、もう朝になっており、徹夜で作業した俺は、ブレスレットを丸机に置くと、そのまま寝落ちしてしまった・・・。
パッと目を覚ますと、紅鏡輪―生前の世界で言うところの太陽― の昇っている位置が高くなっており、すでに昼時ということが分かった。そして、その瞬間、一気に青ざめた・・・。
「ヤバイ!!ディランに殺される!!」
俺は昨日、ディランに朝の9時頃にギルドまで来るよう言われていたのだ。明らかに、3時間以上の大遅刻である。俺は急いで起き上がると、目の前にひらひらと、丸机から紙切れが一枚落ちてきた。その紙には、
『ユリウスへ。ブレスレット、本当にありがとう。起こしたら悪いから、先にギルドに行って、依頼をこなしてくる。ギルドヘッドには、私の方からうまく伝えておくから、安心して。』
『ユリウスさんへ。ブレスレットに貴重な魔力を付与してくださり、本当にありがとうございます。フィオナと先にギルドに行って、早速ユリウスさんの魔力を使って、魔物や魔獣を倒したいと思います。』
と書かれていた。フィオナとレティシアが、寝落ちした俺の姿を見て、気を遣ってくれたのだろう。何とも、ありがたいことだ。その優しさが心に沁みる。
「でも、遅刻しているのに変わりはないからな。急がないと!」
俺は急いで身支度を整え、全速力でギルドまで向かった。ただ、一つだけ心配なことがある。それは・・・
「あの2人、俺がどれぐらいの魔力を付与したのか、知らないよな・・・。」
フィオナとレティシアが「付与された魔力は200万」と、勘違いしたままであれば、やり過ぎてしまう可能性がある・・・。
・・・どうか、変なことになりませんように・・・!
俺は、一抹の不安を抱えながら、ギルドに到着した。
すぐに螺旋階段を上り、昨日と同じ部屋の前に立つと、恐る恐るノックをした。
「入って良いぞ。」
ディランの返答が聞こえた後、俺は覚悟を決めて入室した。そして・・・
「大変申し訳ございません!!」
華麗なる土下座を披露した。それはもう、流れるような美しい土下座である。
「・・・はぁ。フィオナとレティシアから話は聞いている。昨晩、ずっと2人のために作業してたんだろ?」
ディランは大きくため息をつき、俺に尋ねた。
「そうですね・・・。でも、寝坊したのも事実なので・・・。何卒、ご容赦ください。」
「2人からは責めないでほしいって言われているからな・・・。本当だったら、誰もやりたがらない、めちゃくちゃキツイ依頼ばかり押しつけてやろうと思ったんだが・・・。」
・・・旦那、それは過労死しちゃいますって。労基に訴えますぜ。
「まぁ、あの2人に免じて、今回だけは許してやる。ただ、次遅れたら、分かってるだろうな?」
「も、もちろんです・・・。」
ディランにギロっと睨まれたため、反射的に背筋を伸ばした。ギルドヘッドだけあって、怒るとめちゃくちゃ怖いタイプだな・・・。
「良い仲間を持ったな。大事にしろよ。」
「はい・・・。」
「さてと、時間ももうないし、早速Aランクの依頼を受けてもらうぞ。」
俺は、まずディランからAランクの依頼 ―日雇いと分けるため、以降は「クエスト」と呼ぶことにする―について説明を受けた。Aランクは、大森林アルゲンティムやそれ以外の様々な地域に生息する魔獣・魔物の討伐がメインになるそうだ。たまに、「ダンジョン」の調査も行うが、それはAランク冒険者を5人以上召集する大規模なクエストになるらしい。
「まぁ、ユリウスなら、一人でも余裕でいけるだろ。5人以上集めるのも面倒だし。」
・・・おい、万が一のことがあったら、どうしてくれるんだ。
ディランの変な冗談(?)はさておき、俺は今後当分の間、魔獣や魔物の討伐を行うことになった。ちなみに、「説明書」によると、人魔戦争時代の魔族が使役していた生物のうち、知能が高いものを「魔獣」、知能が低いものを「魔物」と呼ぶそうだ。なお、その強さによって、魔獣は妖魔種、業魔種、閻魔種、天魔種に、魔物は下等種、中等種、上等種に分けられている。Aランクでは、業魔種以下の魔獣・魔物が多いらしい。
「じゃあ、最初は大森林アルゲンティムの南東部のあるエリアで大量発生している『ジャイアント・マンティス』を30匹ほど討伐してきてほしい。」
「・・・はい?」
「『ジャイアント・マンティス』を30匹。ちなみに、コイツは業魔種だから、結構強い。」
「???????」
俺の思考回路がショートした。
・・・あれ?今日の寝坊は、一応許されたんじゃなかったっけ?あれれ~、おかしいぞ~?
「当然、浮遊魔法は使えるだろ?」
「・・・・・・あっ、はい。」
「収納魔法はどうだ?」
「・・・一応、使えます。」
「よし、なら今日の日没までには、行って帰って来ることができるな。頼んだぞ。」
ディランは俺の右肩を強く叩き、満面の笑みで俺を送り出した。
・・・チクショー!!ブラックすぎるだろー!!!誰か、労基に通報してくださ~い!!
半泣きになりながら、俺は螺旋階段を1段ずつ静かに降りた。
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