第55話 打ち明け話
俺たちが泊っている宿は、食事がついていないため、夕食は近場の飲食店で済ませることにした。首都なので、やはり物価は高かったが、非常に美味しい肉料理やサラダだった。しかし、正直、モルガンさんの料理の方が何倍も美味しいと思ってしまう。また、早いうちに「幸福亭」に戻りたいところだ。
夕食後、俺は部屋に付いている簡易的なシャワー室で汗を流した。しばらくすると、フィオナとレティシアが緊張した面持ちで俺の部屋に入ってきた。ついに、俺の身の上話をするときが来たのだ・・・。
それぞれが部屋の中央にある丸机を囲むように、椅子に腰掛け、フィオナとレティシアは俺の方を向いた。
「今から話すことは、誰にも言わないと約束してくれ。」
「分かってる、ユリウスの秘密は絶対に漏らさないから。」
「私も、絶対に喋らないと誓います。」
2人の真剣な眼差しを見て、俺は「ふぅー」と大きく息を吐き、転生や俺の能力に関することを簡潔に話した。こことは違う異世界から来たこと、アルカナスキルのこと、異常な魔力量のことなど、細かなところは省略したが、嘘偽りなく、フィオナとレティシアに伝えた。
「「・・・・・・・・・。」」
2人とも、何も言わず、熱心に耳を傾けてくれていたが、徐々にその顔が引きつっているのが分かった。レティシアに至っては、めちゃくちゃ遠い目をしている。チベットスナギツネみたいだ。
30分ぐらい語ったところで、俺は実際に見てもらった方が良いだろうと思い、改ざん魔法を解いた「ステータスカード」を2人に見せた。
「レミントンの検問の時には、改ざん魔法『リューゲフィケイション』で数値とか色々変えていたんだけど、これが正真正銘の俺のガチのステータスだ。」
「ちょっと待って、今、サラッとヤバイこと言った?」
「へ?」
「いや、『へ?』じゃなくて・・・。」
「ユリウスさん、改ざん魔法も『禁忌魔法』なのはご存知ですよね・・・?」
「もちろん、それは知っているけど・・・。」
ルーカスが著した『魔法書』で、禁忌魔法に該当する魔法は一応覚えている。
「改ざん魔法は、拷問魔法よりも遥かに罪が重いの・・・。国家や人々の信用を、簡単に崩壊させてしまうから・・・。」
「そうなんです。見破ることができるのも、改ざん魔法を扱える人だけなので・・・。ユリウスさんは今、この世界を大混乱に陥れることも可能なんです・・・。」
・・・なるほど、確かにそれはヤバイわ。
「こ、これからは、気をつけます・・・。」
「そうして。」
「お願いしますよ。」
2人に鋭い目つきで睨まれ、俺は縮こまるしかなかった・・・。
「じゃあ、ステータスカードを見せてもらうけど、いいの?」
「もちろん。俺の話が、嘘じゃないと分かってもらいたいし。」
「嘘だとは思ってませんが、さすがに魔力量は・・・・・・。」
「私も魔力量はさすがに・・・・・・。」
2人とも、俺のステータスカードに記された「魔力量:220,000,000(2億2000万)」というところを見た瞬間、同時に失神した・・・。
20分ぐらい経った後、ようやく2人とも目を覚ました。
「ユリウスって・・・勇者?それとも魔王?」
「両方とも、違います。」
「伝説の勇者よりも高い魔力量なんて・・・。言葉では言い表せないですね・・・。」
フィオナとレティシアは、未だに信じられないという感じだったが、それでも俺に対する嫌悪感はない。
「アルカナスキルっていうスキル名も、初めて聞きましたが、ステータスカードにもそう書いてあるんですね・・・。」
「アルカナスキルは、異世界から来た人が持つスキルなのかもね・・・。」
フィオナとレティシアは、ブツブツと俺を見ながら、真剣な表情で語り合っている。
「これで俺の秘密は全部、話したんだけど・・・。それでも、仲間として受け入れてくれる・・・か?」
俺は少し震えながら、2人に尋ねた。もちろん、信頼はしている。だが、あまりにも強大な力をもつ異世界人の俺を、恐怖の対象を見てしまうのではないか。その不安がよぎる。
俺の言葉にフィオナとレティシアは目を合わせ、そして可憐な笑顔を向けた。
「何を言ってるの?ユリウスは前から、化け物だったんだから、今更すぎるわ。むしろ、ユリウスがあり得ないほど強い理由が分かって、スッキリした。」
「ユリウスさんは心配性ですね。私たちがこれぐらいで、ユリウスさんを怖がるはずないじゃないですか。」
「そ、そうか・・・。本当にありがとう。これからもよろしく。」
俺は涙を堪えながら、2人に感謝を伝え、深々と頭を下げた。この想いは、きっと俺の支えになるだろう。
「ユリウスが本気を出せば、『黒南風』なんて、すぐに壊滅させられるんじゃない?」
「確かに、明らかにこの世界で、最強ですよね。それこそ、ロイ=アダムズ卿やナターシャ様を遥かに超えていると思いますし。」
「実は、そうでもないんだよな・・・。」
「どういうこと?」
「この前、『黒南風』のエゼルと戦った時、ナターシャがいなかったら俺、確実に死んでたんだよ。」
「「えっ!?」」
俺の初めての敗北について、結構恥ずかしかったが、俺は2人に伝えることにした。自分の油断や未熟さが、2人を危険に巻き込みそうになってしまうかもしれない。そうならない戒めのためにも、話すべきだと思う。
「というわけで、何とか最後は勝ったけど、『最強』というわけではないと思う。それからは、アルカナスキルが使えない状況を想定しながら、戦うことにしてるんだ。」
「なるほど、だからギルドヘッドの特別試験では、アルカナスキルを使わなかったんですね。」
「そういうことだ。」
「でも、『魔術』か。師匠から教えてもらったけど、全然できなかったな。」
「俺の予想だけど、2人とも『魔術』が使えるようになると思うぞ。」
「「えっ!?」」
「『魔術』は、魔力運用の技術が必須なんだけど、魔力が多くあればあるほど、魔力運用のイメージが湧きやすい感じがする。逆に、少ないと魔力運用がより緻密になるから、難易度が上がると思う。つまり、俺の魔力量が付与されたブレスレットを着用した状態で、魔力運用のトレーニングを行うことで、『魔術』を習得できる可能性が高まるはず。」
もちろん、「魔術」は魔力運用のセンスも求められるので、絶対にできると断言はできない。しかし、フィオナとレティシアなら、何となく「魔術」を使えそうな気がする。知らんけど。
「そうなんだ!じゃあ、また教えてよ、ユリウス!」
「私も『魔術』が使えるようになれば、もっと2人の役に立てられると思います!是非、ご指導ください!」
フィオナとレティシアは、目をキラキラと輝かせながら、俺にぐぃっと近づいてきた。2人とも、めちゃくちゃ興奮して、鼻息がめっちゃ荒くなっている・・・。
「わ、分かったって!とりあえず、ブレスレットに魔力を付与しないといけないから、明日からな。」
俺はフィオナとレティシアからブレスレットを預かり、魔力付与の準備を始めた。「魔術」を扱えるようになったので、魔力運用のコツが分かり、以前よりも早く付与ができると思う。しかし、2つともなると、時間がかかってしまうので、2人は先に休むよう伝えた。
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