第53話 ナンパ
特別試験の後、俺とレティシアの冒険者登録がつつがなく行われた。登録時にその人の強さをチェックするために、「ステータスカード」を提示しなければならないそうだが、俺はギルドヘッドに勝利したことで、その手続きが省略された。「ステータスカード」は改ざんだらけなので、正直助かった・・・。
・・・また今日のうちに、「ステータスカード」の改ざん内容も変更しておくか。
「冒険者登録が完了しました。これが、ユリウスさんとレティシアさんの『冒険者カード』です。紛失しますと、再発行には時間とお金がかかりますので、ご注意ください。」
そう言うと、セリナは丁寧に俺たちに「冒険者カード」を渡した。だが・・・。
「あの、すみません。俺とレティシアでは、色が違うんですけど・・・。」
「レティシアさんは、最初のEランクですので、紫色のカードとなります。一方、ユリウスさんはナターシャ様の後継者候補であると同時に、本ギルドヘッドを倒して、特別試験を突破しました。このことを踏まえ、ギルドヘッドであるディラン様の権限で、Aランクからのスタートとなりましたので、赤色のカードとなっています。」
セリナは平然とした顔で伝えているが、それってある意味、超悪目立ちするんじゃ・・・。ほら、ギルド内がめちゃくちゃザワザワし始めてるもん・・・。絶対、あとから変な輩に絡まれるやつじゃん・・・。
「まぁ、ユリウスさんならAランクと言わず、Sランクからでも良いと思いますけどね。」
「もうユリウスに抜かれるとはね。まぁ、当然だけど。」
・・・なぜ、2人がそんなに誇らしげなんだ。
ちなみに、フィオナによると、冒険者カードの色はAランクから順に、赤色、黄色、緑色、青色、紫色らしい。そして、Sランクは金色、SSランクは黒色となっているようだ。
「とりあえず、これからしばらくの間泊まる宿を見つけようか。」
ブレスレットの付与も早めにしたいので、冒険者登録を済ませた俺たちはギルドから立ち去ろうとしたが、案の定、ガラの悪い冒険者たちが邪魔してきた。
「おい、そこのガキ。ちょっと止まれや。」
頑強な鎧を纏った30代前半ぐらいの男が、俺を睨んできた。取り巻きには、背の小さい小太りのおっさんと、キツネ目で痩身のノッポ野郎がいる。
「あの、そこ、どいてもらえます?」
「あぁ?生意気だな、てめぇ。」
「どいてほしい」と言っただけで、生意気とは。何とも悲しい会話のキャッチボールだ。
「おいおい、この方を知らねぇのか?このギルドで、数少ないAランク冒険者のヤーコン様だぞ。」
「知りませんけど、それが何か?」
小太りのおっさんの言葉に、俺は冷たく返した。
「ヤーコン様、コイツ調子に乗ってますよ!痛い目に遭わせないと、分からないんじゃないですかね~?」
ノッポ野郎が気持ち悪い笑みを浮かべながら、俺を・・・ん、コイツらもしかして・・・。
「汚い手を使って、いきなりAランクとはな。反吐が出るぜ。おい、ガキ。俺と勝負しろ。Aランクまで進めることができる、本当の強者の実力を叩き込んでやるよ。そして、もし俺が勝てば、その綺麗な女2人は、俺に渡すんだな。」
・・・やはり、コイツらの狙いは、俺をボコボコにした上で、フィオナとレティシアを奪おうってことか。やばいな、レミントンの検問所よりも、ぶちギレそう。
「ちょっと、ヤーコンさん、ギルド内で不要な争いはやめてください!」
「うるせぇ、このガキには、Aランクの実力を分からせてやらねぇとな!」
セリナが止めに入ったが、ヤーコンは聞く耳を持っていないようだ。
「ユリウスさんのこんな表情、初めて見ました・・・。」
「めちゃくちゃ怒ってくれているのは、分かるんだけど、さすがに殺さないでね?ね?」
「あぁ、もちろん。殺さない。ただ・・・精神を破壊させてもらう。」
「「えっ!?」」
フィオナとレティシアが心配そうに見守る中、俺はヤーコンに鋭い視線を向けた。
「おい、何だ、その生意気な視線は!!俺の魔法で、貴様の顔をぐちゃぐちゃにして・・・」
「ヴァサニスティリオ」
「「「は!?」」」
俺は、レティシアたちにも聞こえないような小さな声で、「禁忌魔法」の1つである拷問魔法を唱えた。もちろん、対象者は眼前の男たち3人だ。使用したことがバレると、後々、非常に面倒なので、魔法の威力は弱くなるが、あえて小声で詠唱してみた。
二度と俺たちの前に現れてほしくないので、精神を破壊するつもりで、1分間、拷問魔法を継続した。当然、その1分間、3人は苦しそうに嘔吐し、鼻水や涙を垂れ流しながら、のたうち回っていた。周囲からすると、突然3人が狂乱したように見えるだろう。
1分後、3人は完全に失禁しながら、気絶した。恐らく、精神ないし人格は破壊されたと思う。俺に喧嘩を売るだけなら、麻痺魔法で済ませていたが、俺が大事にしている仲間を下卑た目を見る奴らに容赦する必要はない。
「セレナさん、すみません。自分たちは、宿を見つけないといけないので、この辺で失礼します。」
「・・・え、あ、はい・・・。お、お気をつけて・・・。」
ギルド内の人間は、何が起こったのか、全く理解できていないようだった。いや、螺旋階段の上からこっちを楽しそうな眼で見ている、あのギルドヘッド以外と言うべきか。
ディランは、笑いながら口パクで「やり過ぎた、馬鹿野郎。」と伝えてきたので、俺も口パクで「本当にすみませんでした。後の処理はお願いします。」と言い、ギルドを後にした。
ギルドを出た直後、凄い剣幕でフィオナたちに色々と説教をされた・・・。うん、理不尽!
「面白い!」「続きが読みたい!」など思った方は、ぜひブックマークと評価をよろしくお願いします!
ブックマークや評価していただければ、作者のモチベーションが爆上がりします!




