第52話 試験終了
「今こそ、切り札を使うときだと思うんだが?」
ディランは、怒濤の連撃を続けながら、俺にスキルを使うよう促した。確かに、一瞬の隙をついて、【神奪】を使用すれば、間違いなく勝てる。ただ、特別試験はきっと不合格となるだろう。それを踏まえての、ディランの発言なのかもしれない。知らんけど。
「いや、まだ使いませんよ。ディランさんのトリックも、見破りましたから。」
「ほぅ、ならこの連撃を止めて見せろ!」
ずっと攻撃を受け続けていたこともあり、ディランのラッシュに、ある程度目が慣れてきた。そして、ディランの右拳を躱すと同時に、反撃のカウンターを食らわせた。ディランは、それを左腕一本で防いだが、俺の狙いは攻撃を当てることではない。魔法を詠唱できる、ほんの少しの隙が作りたかったのだ。
「『レイジングブーラスク』!!」
俺はウェグザムの時よりも、より練り上げられた魔力量で、驟雨を闘技場全体に降らせた。もちろん、フィオナたちには、かからないようにしている。
・・・俺の仮説が正しければ、きっと!
「『レイジングブーラスク』は、雨が降り続けている間、ずっと魔力量を消費する魔法だ。意味のないことは、さっさとやめた方が身のためだぞ。」
「意味がないかどうかは、まだ分かりませんよ。では、行きます!」
「くっ!!」
俺は激しく降る雨の中、ディランに強烈な回し蹴りをぶち込んだ。ディランも反撃し、鋭い連続攻撃を仕掛けてくるが、明らかに先程よりもスピードが落ちている。スキルの発動前と、ほとんど同じだ。
「どうしました、さっきよりも攻撃速度が落ちてますよ?」
「ハッハハハ!!!まさか、俺のゴッドスキル【荷電】が攻略されるとはな!!どうして分かった?」
激しい攻防を繰り広げながら、俺とディランは思わず笑みをこぼした。
「不可避の『トニトルスグローム』を躱したことと、それ以降の間合いに違和感を覚えたんです。ディランさんの攻撃速度が上がっているのであれば、間合いは変わらないはず。しかし、間合いが近づいているように思えたんです。そして、連撃を防いでいるときに、ディランさんの周囲で、青白い光が輝いているのを、何度か見ました。それで分かったんです。ディランさんの攻撃速度が上がっているのではなく、自分がディランさんに引き寄せられているのを。」
「なるほど、『魔眼』を通して、一瞬の静電気が見えたのか。」
「はい。ディランさんのスキルは、対象を正電荷や負電荷に変えることができる、というものですね。」
「その通り!『トニトルスグローム』の時は、地面の電荷をいじることで、斥力を働かせ、ギリギリで回避したというわけだ。・・・というか、俺以外に電荷を理解している奴とはな。どこで教わった?」
「そ、それは・・・な、内緒です。」
・・・「高校の化学基礎で習いました!」なんて言えるわけがない。ありがとう、津川先生。ありがとう、日本の教育。さしあたっては、死刑を免れそうです。
「それは残念。それで、この俄雨を降らせた理由は、放電させるためか。」
「そうです。正電荷や負電荷に変えていると予想していたので、湿度を上げれば、自然に放電され、電気的に中性になると考えたんです。」
「アッハハハ!!これは、俺の完敗だな。降参だ。」
「えっ!?」
ディランは突然、攻撃をやめ、両手を上げて降参した。
「・・・・・・え、あ、ギ、ギルドヘッドが降参したため、ユリウスさん、特別試験、合格です!!」
セリナが驚愕の表情を浮かべながら、特別試験の合格を大きな声で響かせた。
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「魔力を奪うスキルを使えば、すぐに不合格にしていたところだが、俺のゴッドスキルを完全に見破り、『魔術』まで扱えるときた。それに、このまま勝負しても、魔力量で劣る俺が最終的に負けるだろう。」
「はぁ、なるほど・・・。」
「あのナターシャ様が後継者に選ぶだけのことはある。ユリウス、俺はお前と会えたことを誇りに思うぞ。これから宜しくな。」
「あっ、いえ、こちらこそ、宜しくお願いします。」
ディランは意外にも、あっさりと負けを認め、俺に握手を求めてきた。初めは、覇気のないおっさんだと思ったが、下馬評通り、相当な実力者だった。正直、ディランのスキルを見破ることができたのは、「トニトルスグローム」を使ったからだ。もし、他の属性の魔法を使っていれば、電荷を扱えるスキルとは気付かなかっただろう。本当に、間一髪と言ったところだ。
「ギ、ギルドヘッドが、負けを認めるなんて、初めて見ました・・・。それに、速すぎて、お二人の姿がほとんど見えなかったんですが・・・。」
「私もです・・・。ユリウスさんって、やっぱり凄すぎますね・・・。」
「ユリウスがギルドマスターになっている未来が、何となく想像できるかも・・・。」
俺とディランの握手を見ながら、セリナ、レティシア、フィオナは茫然自失していた。
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