第51話 試験開始
アルカナスキル【神奪】は、最後の最後まで取っておこう。ナターシャも、俺が相手の魔力を奪えるスキルを持っていることは当然知っているが、「全魔力」を奪えるということまでは知らない。もちろん、俺もまだ誰にも教えていない。ここで、それを披露するのは、できる限り避けたい。
「ナターシャ様からの手紙には、お前が相手の魔力を奪えるスキルを持っていると書いてあった。どうした、使わないのか？」
「それは、とっておきの切り札なんですよ。すぐに使うことはしません。」
「なるほど、スキルに依存しないことは良いことだ。ただ、切り札を温存しすぎて、すぐに負けては興ざめだから・・・な！」
「ぐっ・・・！？」
ディランは、一気に加速し、俺に渾身の前蹴りを浴びせた。エゼルの【霍技】ほどのスピードではないが、それよりも重たい一撃だった。俺は何とか、その場に踏ん張ることができたが、あと少し「魔装」が遅れていれば、俺の両腕の骨は砕け散っていただろう。
「ほぅ、当然のように『魔装』を使うとはな。さすが、ナターシャ様の秘蔵っ子だな。」
「ディランさんの今の一撃も、『魔装』ですか？」
「もちろん、『魔装』は攻防一体の『魔術』だからな。」
なるほど、それはとても勉強になる。俺は、「魔装」は防御にしか使わないという固定概念に縛られていたようだ。「魔装」は、魔力の外套を着る感じだが、それは防御のイメージに過ぎない。魔力で全身を武装するイメージで「魔装」を展開すれば、物理攻撃の威力がグッと上がりそうだ。そういえば、ナターシャが「鎧」のイメージでもいいと言っていたな。
「勉強になります・・・ね！」
「おっと！」
俺は早速、「魔装」で強化した右拳をディランの顔面にぶつけようとしたが、紙一重で避けられてしまった。恐らく、ディランの「魔眼」が発動しているのだろう。ギルドヘッドというだけあって、余裕で「魔眼」と「魔装」を同時に使用している。
「お返しに・・・死ぬなよ？」
「！？」
ディランは一つギアを上げたのか、先程よりもさらにスピードを上げ、重撃のラッシュを繰り出した。俺は、エゼルとの戦闘で鍛えた「魔眼」と「魔装」の同時展開で何とか回避したり、受け止めたりしているが、少しずつダメージが蓄積している。このままいくと、ジリ貧になるだろう。
「『エタンセルパラリシス』！」
「よっと・・・！」
俺は連撃の隙をついて、麻痺魔法をかけようとした。だが、それに一早く気付いたディランは、すぐに俺から大きく距離を取った。だが、むしろ俺はこの瞬間を狙っていたのだ。
「『トニトルスグローム』！」
俺は、ディランが着地するところを狙い、エゼルを倒した超強力な雷撃を食らわせた・・・はずだった。
「は？」
なぜか、ディランはその雷撃を華麗に躱していたのだ。回避することは、不可能なタイミングだ。しかも、俺の練り上げた魔力の雷撃である。速さも尋常ではない。【霍技】を使えるエゼルでさえ、全く回避できなかったのだから。ただ、雷撃の轟音で聞こえなかったが、ディランの唇がかすかに動き、何かを唱えているような気がした。
「いや、今の一撃は、危なかった・・・。少し油断したな・・・。ナターシャ様が書いてたように、お前は凄まじい魔力量を持っているようだ。」
初めて焦りの表情を見せたディランだったが、すぐに元通りになった。ただ、「これからは、一切油断しない」というような、力強い覚悟をそのオーラから感じる。
「回避不可能な攻撃だったと思うんですけど・・・。何か、特殊な魔法でも使いました？」
「さぁ、それは、どうだろうな。・・・『グラキエースカノーネ』！」
「『デウスプロテクシオン』！」
ディランは、水属性の究極魔法「グラキエースカノーネ」を詠唱した。しかし、俺は最強の防御魔法である「デウスプロテクシオン」を使用し、その攻撃を防いだ。
「さっきの『トニトルスグローム』といい、今の『デウスプロテクシオン』といい、自分自身の膨大な魔力量で、魔法の本来の性能を底上げしているのか。あのロイ・アダムズ卿に匹敵する天才だな・・・！」
さすが、元Sランク冒険者だ。冷静に俺の魔法を分析している。それに、むしろ、めちゃくちゃ嬉しそうだ。ちょっと気持ち悪いけど・・・。
「究極魔法まで防がれるとなると、俺も厳しいな。そろそろ、本気でいかせてもらうぞ。」
「・・・なっ！！？？」
ディランの言葉を聞いた瞬間、なぜか、俺は闘技場の壁に吹っ飛ばされていた。元々の身体強化と「魔装」で、大きなダメージには至っていないが、もしどちらか一つでも欠けていれば、恐らく瀕死の重傷を負っていただろう。
「これも耐えるのか！なら、連続で行くぞ！！」
「ちょっ！？」
明らかに、ディランの攻撃速度が桁違いに上がっている。正直、エゼルのゴッドスキル【霍技】を超えていると思う。「魔眼」で、ギリギリ視認できるスピードだが、その連撃が凄まじく、俺は闘技場のあちこちに吹き飛ばされながら、防戦一方となった。また、「魔装」と同時展開なので、緻密な魔力操作が必要になる。このままでは、残り数分ぐらいで集中が途切れてしまい、強烈な連続技が直撃するだろう。
「どうした、こんなものか？」
ディランは余裕の笑みを浮かべながら、攻撃の手を一切緩めることなく、追撃する。間違いなく、これはディランのスキルによるものだろう。
恐らく、「トニトルスグローム」を回避した時から、スキルを発動していたのだ。ただ、ディランの、このスピードでは、あの雷撃を完全に躱すことなど、不可能である。【霍技】を超える速度ではあるが、俺の魔力を練り上げた究極の稲妻を避けるほどのものではない。
・・・雷撃を躱したトリックは何だ・・・。それに、この違和感・・・。俺とディランの間合いが、スキル発動前と違うような・・・・・・・・・。あっ、そういうことか！！！
俺は、ディランのスキルについて、一つの仮説を打ち立てた。そして、それを検証していく。
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