第48話 宮殿を去る
ナターシャのおかげだが、エゼルを捕まえることができたため、プロメシア連邦国に対する俺の借金が白金貨100枚に、大きく減額された。借金が半額になったことは非常に喜ばしいが、それでも借金が1000万円あると考えると、この先が不安で仕方ない・・・。
宮殿生活最後の朝食を済ませると、俺とフィオナとレティシアの3人は、国王ドロテオに呼ばれ、執務室へと向かった。ちなみに、俺の朝食は、女性陣のような豪華な食事ではなく、一口サイズのふかし芋だけだった・・・。
ノックして執務室に入ると、国王ドロテオと宰相マリアーノが高級なソファーに腰掛けていた。俺は、宮殿に来てから、執務室で話し合う機会が多かったので、あまり緊張していないが、俺以外の2人はガチガチに固まっていた。
「おぉ、ユリウス殿、フィオナ殿、レティシア殿。さぁ、遠慮せず、座ってくれ。」
「失礼します。」
「「し、失礼、い、いたします・・・。」」
俺たち全員が腰掛けたところで、宰相マリアーノが口を開いた。
「褒賞金の授与から大森林アルゲンティムの調査、『黒南風』のスパイ捕縛と、ここ数日、本当に色んなことがありましたが、この国のためにご尽力くださり、心より感謝申し上げます。」
「国王としても、お礼を言わせてくれ。本当にありがとう。」
「い、いえいえ。頭をあげてください。」
「そ、そうです。それに、そのほとんどは、ユリウスが頑張りましたから。」
「フィオナの言う通りでございます。私なんて、むしろ皆様に助けていただいている身ですから。」
マリアーノとドロテオの深いお辞儀に、俺たちは戸惑いながらも、何とか言葉を紡いだ。それに、俺の場合、この国の地形を変えてしまったヤバイ奴だからな。あまり感謝されると、複雑な気持ちになってしまう。
「ユリウス殿らは、これからどうされるのですか?」
「とりあえず、近くのギルドに行って、俺とレティシアの冒険者登録をする予定です。」
「宿はどうするのだ?」
「私のオススメの宿屋がギルドの近くにあるので、そこにしばらく滞在しようかと考えています。」
やるべきことは全て片付いたので、これ以上、宮殿に残ることはできない。朝食の際に、フィオナとレティシアと相談した結果、さしあたっては冒険者として生計を立てていくことになった。ナターシャから提示された、俺の執行猶予の条件をクリアするためにも、絶対に必要なことなので、ちょうどいい。宿泊に関しては、フィオナがかつて、キングヴァネスに来た際に滞在していた宿屋に泊まることにした。
正直、冒険者なんて危険な仕事はしたくないが、これも執行猶予のためだ。我慢するしかない。それに、すでにBランク冒険者であるフィオナに感化されたのか、レティシアも冒険者になる気満々なのだ。まぁ、ナターシャからレティシアの護衛を託された以上、一緒に行動するのが一番安全なので、非常にありがたいと言える。
「なるほど、分かりました。では、餞別として、微々たるものですが、受け取ってください。」
マリアーノは、俺たち3人それぞれに小綺麗な布袋を渡した。ただ、明らかに俺のだけめちゃくちゃ小さい。
・・・うん、まぁ、理由は分かりますよ。
「え、こ、こんなに貰っていいんですか・・・?」
「わ、私にも、いただけるなんて・・・。ほ、本当によろしいのでしょうか・・・?」
フィオナとレティシアの袋には、金貨20枚入っていたようだ。すごく、すごく、すごく、うらやましい。それに比べ、俺は・・・。
「ユ、ユリウス殿、申し訳ない。」
「い、いえ、全然構いませんよ。むしろ、国家に莫大な借金をしている自分が貰えること自体、奇跡と思いますので・・・。本当に感謝しかありません・・・。」
俺は、涙を必死に堪えながら、金貨1枚だけが入った小袋を大事に両手で握った・・・。
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俺たちは、お世話になった執事やメイドさんたちに挨拶を済ませ、プロメシア連邦国が誇る宮殿『エルダグラード』を後にした。フィオナ曰く、キングヴァネスで最も大きなギルドがこの周辺にあるそうなので、俺たちは物見遊山をしつつ、徒歩で向かうことにした。やはり、首都というだけあって、すごく活気に溢れている。ウェグザムで見たことのない商品や食べ物がいたるところに存在し、幼い頃のように、心が躍った。また、大きな建造物や店舗が所狭しと並んでおり、長期的に滞在してもいい気がしてきた。
「そういえば、ユリウス。」
「どうした?」
いつの間に買ったのだろう、フィオナの右手には串焼きが数本、左手にはジュースがある。チラッと、レティシアを一瞥すると、フィオナと全く同じ状態だった・・・。おいおい、やっぱり小金持ちは羨ましいぜ、ちくしょー。
「特別任務が終わったら、打ち明けるって言ってくれたけど、やっぱり話すのは難しいそう?」
「あぁ、そのことか・・・。」
フィオナは、俺が打ち明けるのを待ってくれていたのだろう。エゼルの件があって、すっかり忘れていた。
「色々あって話すのが遅くなったけど、今日の夜にでも伝えるよ。それでいい?」
「もちろん。まぁでも、どうしても言いたくないことまでは言わなくていいから。」
フィオナは優しく笑うと、串焼きの肉を一つ、美味しそうに頬張った。
「あの・・・!」
フィオナが食べている横顔を見ていると、突然、俺の左足がグッと力強く踏まれた。
「れ、レティシアさん、痛いんですけど・・・。」
「私は、ユリウスさんを全面的に信用しています。」
「は、はい、どうも、ありがとうございます・・・。」
「ユリウスさんは、私のこと、信用していますか?」
レティシアが可憐な上目遣いで、俺に聞いてくる。もちろん、左足は現在進行形でグリグリと、思いっきり踏まれているが・・・。
レティシアがどうしてそんなことを尋ねてくるのか、あまり分からない。しかし、俺は、レティシアに対して邪悪な印象を抱いたことが一度もない。天の声(自称)と話した時にも、レティシアは俺を本気で心配してくれていたし。というわけで、ここは本心を伝えるべきだろう。
「もちろん。俺もレティシアを信用している。」
「本当ですか?」
「本当。」
「絶対に?」
「絶対に。」
「でしたら、ユリウスさん、私にもその話を聞かせてくれませんか?」
・・・なるほど、そういうことか。
レティシアは、俺がフィオナだけに打ち明けると思っていたのだろう。だから、同じ仲間であるのに、フィオナは信用していて、私は信用されていないと考えて、今の言動になっているのだ。
「もちろん。というか、もともと、フィオナとレティシアの2人に、打ち明けるつもりだったし。」
「言いたくないことは全て言わなくても構いませんが、それでも私はユリウスさんの・・・、えっ、今何と?」
「だから、レティシアにも話す予定だったよ。」
「・・・本当ですか!?とっても嬉しいです、ありがとうございます!!」
レティシアは急に上機嫌になり、めちゃくちゃ素敵な笑顔を浮かべた。
・・・あぶねぇ、もう少しで昇天しそうだったぜ。
美少女の破壊力抜群のスマイルに、もう少しで意識が飛びそうだったが、何とか耐えた。
「ユリウスさん、これ一つあげます。」
「えっ、いいのか?」
「どうぞ、遠慮せずに、食べてください。」
「分かった、ありがとう。・・・うん、美味いな、これ!!」
レティシアはご機嫌なまま、右手の串焼きを俺に差し出した。何の肉がよく分からないが、フィオナが美味しそうに頬張っていたので、俺はありがたく、串焼きの一番上の肉を1つだけいただいた。しっとりとした舌触りが実に心地よく、噛むと、上品な脂がさらりと湧き出してきた。生前の焼き鳥、それも鶏ももに近い感じだ。
「・・・ん、どうした?」
俺が舌鼓打っていると、レティシアは真剣な眼差しで、俺が食らった串焼きを見ている。
・・・あぁ、そういうことか。本当にごめんなさい。全力で土下座したい気分です。
俺はレティシアの表情を見て、すぐにピンときた。俺が、串焼きの一番上を食べてしまったため、これからレティシアが食べようと思うと、毎回、俺が口をつけたところに肉が来てしまうのだ。すでに「気持ち悪い」と思われているだろうが、ここは耐えるしかない。例え、罵詈雑言を浴びせられても、俺は屈しない・・・!
「レ、レティシアさん、その串焼きは自分が貰いますので、新しい串焼きを、これで買ってください・・・。すみません、レティシアさんが1つだけ残した肉を食べれば良かったですね・・・。」
俺は震えながら、なけなしのお金を渡し、レティシアが注視する串焼きを掴もうとした。
「え、何ですか、やめてください。この串焼きは私のものなので、勝手に奪わないでください。ユリウスさんでも、容赦しませんよ。分かりましたか?」
レティシアに、めちゃくちゃ早口で怒られてしまった・・・。うん、何でぇ~!?
その後、なぜかレティシアとフィオナが揉めていたが、俺にはよく分からなかったので、話題を変えることにした。
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