第47話 長い1日が終わる
「さて、リベンジ戦といきますか。」
「この若造が・・・!ナターシャならともかく、貧弱なお前の『魔術』など、取るに足らん!【霍技】!」
エゼルは立ち上がり、回復魔法を使用した。そして、再びゴッドスキル【霍技】で、俺に連撃を加え始めた。
「『魔眼』!『魔装』!」
俺はナターシャから教わった「魔術」を早速使い、エゼルの猛攻を何とか防ぐ。初めての「魔術」の成功や、先程まで手も足も出なかったエゼルと互角に戦えていることに喜びを感じつつ、魔力運用の難しさを痛感した。
・・・「魔眼」を維持したまま、「魔装」を展開するのは、めちゃくちゃしんどい・・・。
ナターシャは、余裕でその2つを同時に行っていたが、実際にやってみると、凄まじいほどの集中力が必要だ。少しでも気を抜けば、「魔術」が簡単に解けてしまう・・・。
「『魔術』は、何とかできているようだが、所詮は経験の浅い若造。もうそろそろ、維持できないんじゃないのか?」
「それはどうかな・・・。」
エゼルは不敵に笑いながら、本気の猛撃を仕掛けてくる。「魔眼」のおかげで、連続攻撃も遅く感じることはできるが、「魔装」と同時展開なので、かなり疲労が蓄積している。このままでは、完全に押し切られるだろう。
アルカナスキル【神奪】を使用できないことはないが、それは本当の最後に取っておこう。「魔術」という新たな技を会得したのだ。この実戦を通して、もっとうまく扱えるようにならなければいけないと思う。
・・・長期戦になれば、確実に俺が負けてしまう・・・。う~ん、どうすれば・・・。
俺はエゼルの猛攻をいなしながら、次の一手を考えた。そして、エゼルの攻撃パターンがある程度、予測でき始めたため、俺は一つの大きな「賭け」に出ることにした。
「なっ!?私の攻撃が当たらないだと・・・!?」
そう、俺は「魔装」を解除し、「魔眼」だけに魔力運用を集中させたのだ。「魔眼」だけであれば、魔力の操作もしやすい。それに、「魔眼」のみに集中できるので、エゼルの凄まじい連撃も、先程より非常に遅く感じる。ただ、「魔装」を解いたため、エゼルの攻撃がクリーンヒットすれば、俺は即死だろう。運が良くても、全身複雑骨折は免れない。
「これで終わりだ、エゼル。『トニトルスグローム』!!」
「トニトルスグローム」は、雷属性の究極魔法の1つで、超高電圧の稲妻を相手に落とすことができる魔法だ。一般人に使えば、消し炭になってしまうが、ゴッドスキル【霍技】を有するエゼルなら、大丈夫だろう。まぁ、もちろん、加減はするけど。
「バカなっ…!!この私がこんな若造なんかに・・・グアッーーー!!!」
大きな雷鳴を轟かせながら、エゼルの脳天に、一直線に巨大な雷が落ちた。エゼルは、致命傷になってはいないが、全身に大きな火傷を負い、その場に倒れ込んだ。
「何とか・・・勝った・・・。」
俺は力が抜けたように、ヘタッと座り込んだ。「魔術」にかなり集中したため、どっと疲れが出てきたようだ。
少し休んだ後、俺は気絶しているエゼルに麻痺魔法「エタンセルパラリシス」をかけた。だが、宮殿での戦闘と同じように、麻痺魔法が一切かからない。となれば、恐らく、これはエゼルのスキルだろう。
「まぁ、どのみち、スキルを使えなくするんだけど。アルカナスキル【神奪】。・・・からの『エタンセルパラリシス』、『エクセレンテクラーレ』。」
俺は、エゼルの全魔力を奪ったうえで、麻痺魔法をかけた。案の定、痺れさせることに成功した。次いで、エゼルに死んでもらっては困るので、最低限の回復魔法だけはかけておいた。
「さてと・・・俺の魔力総量はどうなったかな。」
俺は懐からステータスカードを取り出し、自分の魔力量を確認してみた。ちなみに、この前のザハール戦で分かったが、【神奪】で奪った相手の魔力量分だけ、俺の魔力総量が増えるわけではない。このチートスキルは、相手の魔力量を全て奪うと同時に、その相手の魔力量の数十倍の魔力を俺に付加するのだ。相手の魔力量が多ければ多いほど、俺に与えられる魔力も増加し、魔力総量が一気に増える。
<ステータスカード>
魔力量:220,000,000(2億2000万)
・・・エゼルの魔力量、ザハールよりも、めちゃくちゃあったんだな・・・。
ちなみに、【神奪】による魔力総量の増え方は少し特殊で、相手の全魔力量に数倍から数十倍かけた値が加わるようだ。規則性はあまり分からないが、魔力量が多ければ多いほど、かける数値が大きくなるようだ。まさにチートスキル。
「クソが・・・!」
俺の回復魔法のおかげで、意識を回復し、喋れるようになったエゼルが俺をギロッと睨む。もちろん、麻痺魔法がかかっているため、仰向けの状態から起き上がることはできない。さらに、魔力もゼロになったので、魔法やスキルも一切使えない。
「それじゃあ、連れていくか。」
俺は、自分とエゼルに浮遊魔法をかけ、急いで宮殿に戻った。
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宮殿に戻ると、オズヴァルドとナターシャがじっと見張る中、エゼルの部下10人を近衛騎士団が連行するところだった。そして、その2人ともに、エゼルを連行し、国王の執務室に入った。
「まさか・・・『ギオン』が『黒南風』のスパイだったとは・・・。」
「本当に恐ろしいですね・・・。」
「ナターシャ様からお聞きしていたとはいえ、私もユリウス殿が連れて来た時は、目を疑いました・・・。」
執務室には、夕飯前と同じメンバーには加え、「黒南風」のスパイであった執事長「ギオン」、改めエゼルが捕縛された状態でいる。
「『ギオン』いや、エゼル。プロメシア連邦国に関する機密情報を『黒南風』に漏洩していたのか。」
ドロテオは、かなり怒り心頭のようだったが、怒鳴ることはなく、静かにエゼルに尋ねた。
「今更気づいても遅い!30年前に執事として雇われて以来、この私は常に『黒南風』のためだけに行動してきたのだ!」
エゼルの言葉に、ドロテオたちは絶句した。「ギオン」ことエゼルは、長い間、プロメシア連邦国の宮殿「エルダグラード」で執事を務め、5年前からは執事長にも昇格した人物だ。国王もその重臣たちも、相当の信頼を置いていたのだろう。それが一瞬にして崩れ去ったショックは計り知れない・・・。
「もういい・・・。二度とその面を見せるな・・・。」
ドロテオの中では、怒りや憎しみ、悲しみ、悔しさなど、様々な感情が渦巻いていることだろう。
「ナターシャ様、エゼルのことについてですが・・・」
「に、ニコラス様・・・!?」
宰相マリアーノがエゼルの身柄について相談しようとしたその時、突然エゼルが大きな声をあげた。
「何事じゃ?」
「ま、待ってください・・・!私はまだ・・・!」
「おい、儂が質問しているじゃろ。」
「か、か、会長がですか・・・!そんな、わ、私は諜報部統括として・・・・・・」
「ギ、いや、エゼル?おい、どうした?返事しろ?」
ナターシャに応答することなく、エゼルは独り言のように喋り出した。ただ、その独り言は誰かと会話しているようにも聞こえた。しかし、すぐにエゼルは喋るのをやめ、急に動かなくなった。まるで、魂が抜けたような、抜け殻になったような感じだ。オズヴァルドもこの異変に驚き、エゼルの肩を何度も叩いたが、一切返事をしない。
「ふむ・・・、コイツの心臓が完全に停まっておるのぅ。」
「「「「えっ!?」」」」
ナターシャがエゼルの体に触れることなく、心停止だと言い放った。それを聞いたオズヴァルドが、エゼルの心臓に耳をあてると、「本当です・・・。心拍がありません・・・。」と驚いた表情で言った。
「パメラと同じ状況ですかね・・・?」
「多分そうだと思います・・・。」
俺の言葉をマリアーノが戸惑いながらも肯定した。
「ナターシャ様、これは一体・・・?」
「発言から察するに、『ニコラス』という奴が、スキルでコイツの心臓を停めたんじゃろ。やれやれ・・・。このスキルは、結構疲れるから、あまり使いたくないんじゃが・・・。」
ナターシャは、気乗りしない様子でエゼルの胸に両手を当てた。
「ゴッドスキル【刀圭】。」
ナターシャがスキル名を唱えると、エゼルの全身が淡い青緑色の光に包まれた。その直後、
「ガハッ!!」
エゼルが大きく咳き込み、息を吹き返した。眼前で広がる神秘的な光景に、俺は目を奪われてしまった。
「どうじゃ、死の淵からギリギリで生き返った気分は?まぁ、まだ喋れんか。」
エゼルは短時間とはいえ、心臓の機能が停止していたこともあり、目の焦点が合っていない。回復までには、もう少し時間を要するかもしれない。
「あのナターシャ様・・・。」
「なんじゃ、ユリウス?」
「今の御業は?」
「なんじゃ、ユリウスは儂のスキルを初めて見たのか。」
「はい・・・。」
「やれやれ、めんどくさいのぅ。おい、オズヴァルド、ユリウスに説明してやってくれ。」
「は、はい・・・!」
ナターシャは【刀圭】を使って、かなり疲れたのだろう、めちゃくちゃ気怠そうに、ソファーに倒れ込んだ。急に振られたオズヴァルドはビクッと驚いていたが、俺にやさしく説明してくれた。
「ナターシャ様が有しておられるゴッドスキルは2つあります。一つは、【千世】。もう一つは、先程見せていただいた【刀圭】です。【刀圭】は、あらゆる医術を使用することができ、人体の改造すら可能と言われるスキルです。」
・・・うん、転生特典もらってる俺よりチートじゃね?やっぱり世界最強じゃん。
「な、なるほど・・・。すごいですね・・・。」
俺はナターシャの恐ろしい実力に、引き攣った笑みを浮かべることしかできなかった・・・。今になって、初対面のときに言われた「内臓を全部ぐちゃぐちゃにかき混ぜて殺すところじゃったぞ。」っていう言葉の真意が理解でき、余計に恐怖を覚えた。
・・・ナターシャに喧嘩売ったら、即死だろうな。
「ところで、マリアーノ、コイツの身柄についてじゃが、儂というか『ギルド本局』が預かってよいか?」
「えっ、『本局』がですか?」
「ユリウスから聞いておったが、コイツは『黒南風』の諜報部のトップらしいからのぅ。さっきも、自分でそう言っておったし。ギルドとしても、『黒南風』に関する情報をできる限り引き出しておきたいのじゃ。あのクソ組織の極端な思想は、ギルドにとって看過できるものではないからのぅ。」
「なるほど・・・。」
「ドロテオもそれで構わんか?」
「はい、もちろんです。よろしくお願いします。」
結果、エゼルはナターシャの預かりとなった。だが、俺には気になることが一つだけある。
「ナターシャ様、さっきのエゼルの独り言ですが、あれは誰かと会話しているようにも見えたのですが・・・。」
「ユリウス、鋭いのぅ。さすが、儂の後継者候補じゃ。」
「あ、ありがとうございます。」
ナターシャは「よくぞ気づいた」という歓喜の目で、俺を見てきた。
「あれも恐らく、『ニコラス』とかいう奴のスキルじゃろ。儂らに聞こえていないことを踏まえると、特定の相手と精神を通じて、コミュニケーションを取ることができるものかのぅ。」
「なるほど。」
俺もナターシャと同意見だ。所謂「テレパシー」のようなスキルなのだろう。パメラとの会話で、ニコラスが「黒南風」の最高幹部の一人だということは分かっている。「亜空間」・「心停止」・「テレパシー」、非常に強力なスキルばっかりだ。【霍技】を有するエゼルが「様」をつけるだけのことはある。
夜もだいぶ更けてきたため、今後の様々な対応については明日の午前中に話し合うことになった。俺は、へとへとになりながら、自分の部屋のベッドにダイブした。シャワーを浴びる気力がなく、そのまま眠りについた。
本当に長い長い1日が終わった・・・。
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