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スキルが1つで、何が悪い?  作者: あっつん
第1章 第2部
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第46話 ナターシャの実技講習

 「痛ぇ・・・・・・。えっ!?」


 エゼルの強烈な踵落としを食らい、まだ鈍痛が頭の中に響いている感じだ。そして、眼前に広がる驚きの光景に、俺は絶句した。


 「おぉ、ようやく目を覚ましたか、小僧。意識を取り戻すのが遅いぞ。」


 そこには、エゼルのゴッドスキル【霍技】によって繰り出される、目にも留まらぬ連撃を全て、軽やかにいなすナターシャの姿があった。


 ・・・「お楽しみ」とは、これのことだったのか。


 「な、ナターシャ様、ど、どうしてここに?」


 俺はよろめきながら立ち、ナターシャに尋ねた。彼女は、「仕事がある」と言って、宮殿から出ていったはずだ。


 「小僧ならコイツを倒せると思っていたんじゃが、何か嫌な予感がしてのぅ。宮殿から出ていくフリをして、オズヴァルドの部屋に隠れておったのじゃ。」


 オズヴァルドがビビり散らしていたのが、容易に想像できるな。


 「たまたま、外の景色を眺めていたら、アルゲンティムの方に飛ばされていくお主が見えてのぅ。オズヴァルドに、近衛騎士団を使って、宮殿におったコイツの部下たちを拘束するよう言い、ここまで、移動してきたというわけじゃ。」


 何という偶然。ナターシャが図らずも、窓の外を見ていたことで、俺の危機的状況に気づいたというわけだ。俺にとっては、奇跡のような話である。


 「ギルドマスターであるお前は、私たちの行動を表立って邪魔することはできない!これは、ギルド憲章に大きく違反する行為だろ!」

 「やれやれ、何を言うかと思えば・・・。儂は今、ギルドマスターとして、貴様と対峙しているわけではないぞ。」

 「何?」


 エゼルの猛攻を、ナターシャは涼しげな顔をして避けている。しかも、俺が手も足も出なかったエゼルと、会話までする余裕さえあるようだ。正直、レベルが違いすぎる・・・。これがギルドマスターの力なのか・・・。


 「この小僧は、史上初の儂の後継者候補なのじゃ。その命を奪おうとする輩から守るのは、至極当然じゃろ?それに、儂の弟子も宮殿にいる。弟子を危険から守るのは、師匠の務めというものじゃ。」

 「屁理屈を・・・!!」


 俺の予想通り、ナターシャは俺の次期ギルドマスターの候補にするようだ。改めて、言葉にされると、めちゃくちゃ嫌だな・・・。だが、「なりたくない」という気持ちよりも、今は「そもそも、なれない」という思いの方が強い。エゼルに敗北しているような俺が、ナターシャと同じレベルに立つことなんて・・・。


 「じゃが、貴様をぶちのめすことができないのも事実だからのぅ。儂が完全に倒してしまうと、ギルドマスターによる民事介入及び内政干渉になってしまうんじゃ・・・。どうしたものかのぅ。」


 ナターシャは言いながら、俺を一瞥してくる。もちろん、その意図は推察できるが・・・。


 「ナターシャ様、俺には・・・。」

 「できるぞ。」

 「えっ・・・。」

 「この儂が保証しよう。小僧なら、コイツを倒すことができる。」


 ナターシャは力強い眼で、俺を見てきた。どうして、そこまで言い切ることができるのか・・・。


 「小僧よ、儂がどうしてコイツの攻撃を躱せているか分かるか?」

 「い、いえ・・・。」

 

 エゼルの目にも止まらぬ速さで繰り出される猛攻を、俺の方を振り返りながら、いなしている姿は異様すぎる・・・。なぜ、それが可能なのか。もし、俺にもそれができるのなら、教えてほしい。


 「小僧は、まだ魔力の使い方を知らないだけじゃ。」

 「魔力の使い方ですか?」

 「そうじゃ。魔力を練り上げ、魔力の質を高めることはできるじゃろ?」

 「はい。」

 「即答とは面白いのぅ。本来であれば、その領域に達せず、死んでいく者が圧倒的に多いのじゃが。」


 エゼルも、幻影魔法の話をしているときに、そのようなことを言っていたな。


 「魔力を練り上げられるのであれば、話が早い。その練り上げた魔力を、自分自身に纏うのじゃ。」

 「『纏う』ですか?」


 魔力は、自分の全身を巡る血液のような感じだ。それに意識を集中させ、流れる魔力の質を高めることはできるのだが・・・。「纏う」の意味がよく分からない。


 「小僧には、コイツを倒してもらわんと困るのじゃ。今からこの儂が、特別に教えてやるから、よ~く聞くのじゃぞ。」

 「は、はい!」


 ナターシャのおかげで、俺はさらなる高みにいけるかもしれない。守りたい人たちを守り、倒すべき敵を葬り去る。そんな力を何としても会得したい。


 「まずは、練り上げた質の高い魔力を、自分の片方の眼に集めるのじゃ。全身を流れる魔力を、一点に集中させるイメージでやってみるといい。」

 「魔力を眼に集中させる・・・。」


 俺はナターシャの言われた通り、全身を巡る膨大な魔力を右眼に集めた。一点に集めようとすると、魔力が体のあちこちに逃げようとするため、非常に難しい・・・。だが、魔力調整の要領で、何とか右眼に魔力を集中させ、留めることができた。すると・・・。


 「なっ・・・!?」

 「おぉ、小僧。もうできたのか。この儂に匹敵するぐらいの天才じゃな。あの生意気なロイでも丸1日はかかっておったぞ。」


 俺は魔力を溜めた右眼で、エゼルとナターシャの攻防を見た瞬間、驚愕した・・・。


 「こ、これは、一体・・・?」

 「小僧、それは『魔眼』と呼ばれるものじゃ。コイツの攻撃の見え方が、一気に変わったじゃろ?」

 「『魔眼』・・・。」


 俺がほとんど捉えることのできなかった、エゼルのゴッドスキル【霍技】がまるで遅く見えている。スローモーションまでは行かないが、それでもエゼルがどういう動きをしているのか、はっきりと認識できるのだ。身体強化の影響も多少あるのだろうが、ここまで見え方が変わるとは・・・。


 「『魔眼』は、魔力を有する相手の攻撃をより詳細に、より正確に捉えることができるのじゃ。」

 「な、ま、『魔眼』だと・・・!その若造に、そこまでの才能があるわけがない・・・!」


 エゼルは、驚愕の表情を浮かべている。先程まで、俺はエゼルに恐怖を抱いていたが、今では嘘のように、そんな感情がない。むしろ、エゼルが閻魔種と対峙した時のように、非常に弱く感じてしまう・・・。


 「儂と肩を並べるぐらいの天賦の才を持っておる小僧じゃからな。よし、特別にもう1つ、教えてやろう。儂がコイツの攻撃を・・・このように受け止められる理由をな。」

 「なんだと・・・!?」


 ナターシャは平然とした顔で、エゼルの渾身の右ストレートを片手で受け止めた。確かに、それはおかしい・・・。身体強化をしている俺でさえ、ここまで吹き飛ばされたのだ。それを幼女の体で、なおかつ片手で止めるなど、あり得ない・・・。


 「次は、身体の内部を流れる魔力を、できる限り体表面に出し、魔力で全身を覆うのじゃ。魔力でできた衣裳を身に纏うイメージでやってみるといい。イメージは、鎧でもいいぞ。」


 俺はナターシャの説明通り、体の内部を巡る魔力を体表面に少しずつ出そうとした。しかし、魔力を体表面に留めるのが非常に難しく、空気中に魔力を放出してしまい、うまくいかない。


 ・・・魔力でできた衣や鎧を纏うか。


 そこで、俺は、ローブのような服をイメージしながら、魔力を衣服に変換しようと試みた。すると、魔力が体外へ放出しなくなり、体表面に留まるようになった。ナターシャの言う通り、まるで魔力の衣裳を纏っているようだ。


 「苦戦しているようじゃが、できたかのぅ?」

 「・・・はい、全身を自分の魔力で覆うことができました!」

 「アッハハハ!まさか、これもこの数分で習得してしまうとはのぅ!儂も驚きじゃ!」


 ナターシャは、楽しそうに、そしてとても嬉しそうに笑い始めた。


 「それは、『魔装』と呼ばれるものじゃ。魔力の衣を纏うことで、大抵の物理攻撃を防ぐことができる。そして、『魔眼』と違い、『魔装』の防御力は本人の魔力量に比例するのじゃ。」

 「そんなバカな・・・・・・。ま、『魔装』すら可能だと・・・。あり得ん・・・。カルティアの皆様に匹敵する実力者なわけが・・・。」


 ナターシャの言葉通り、「魔眼」も「魔装」も、まさしく「魔力の使い方」だ。本当にすごい・・・。


 「小僧、覚えておくといい。己のスキルや魔法だけに頼っていては、いつまで経っても二流なんじゃ。魔力の本質を理解し、内なる魔力を自由自在に操ることができて、初めて一流となる。よいか。」

 「はい!」

 「良い返事じゃ。・・・そして、人魔戦争時代から続く、この魔力を操る技術をこう呼ぶ。『魔術』と。」

 「『魔術』・・・。」


 「説明書」に「魔術」のことは記載されていたが、そう呼ばれるものがあるという内容だけで、具体的なことは、一切分からなかった。だが、ナターシャのおかげで、「魔法」と「魔術」の違いに触れることができた。


 「魔法」は、全身を巡る魔力を外に放出することで、様々な現象を引き起こすことができるものだ。逆に、「魔術」は全身を巡る魔力を、身体内部で自由自在に操ることで、自己の様々な能力を引き上げることができるものだ。


 「『魔眼』や『魔装』以外にも、『魔術』は存在する。それらは、自分で見つけ、習得してみるのじゃ。」

 「はい、分かりました。ナターシャ様、本当にありがとうございます。」

 「ここ百数年ですっかり意味が変わってしまったが、『ウィザード』とは本来、この『魔術』を習得した人物を指すのじゃ。小僧も真の意味での『ウィザード』になるんじゃぞ。」

 「はい、精進します!」


 俺は、ナターシャに深々と頭を下げた。彼女は、素晴らしい人格者であり、俺にとって最高の先生だ。これからも、ずっと尊敬し続けよう。ただ、正直、彼女の後継者になりたくはないが・・・。


 「気にするでない。儂の大事な後継者候補なんじゃ。こんなところで、立ち止まっていては困るからのぅ。じゃあ、儂は先に宮殿に戻っておくから、コイツの相手は頼んだぞ小僧、いや・・・ユリウス。」

 「え、あ、は、はい!」


 そう言うと、ナターシャはエゼルを鋭い上段蹴りを受け止めると同時に、左手でエゼルの腹部を突いた。すると、「ガハッ・・・!」と胃液を出したエゼルが、数十m後ろへと飛んでいった。


 ・・・ナターシャが本気出せば、エゼルなんて一撃でノックアウトなんだろうな。ヤバすぎる・・・。


 エゼルを後方にぶっ飛ばした後、ナターシャは俺にグッと親指を立てて、「健闘を祈る」と言った。そして、静かに宮殿の方に歩いていった。

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