プロローグ④
お互いに息切れする中、俺はおもむろに口を開いた。
「はぁはぁ・・・。もう分かったよ。だったら、何か説明書みたいのがあったらくれよ。自分で読んで、理解するから。」
俺は説明書を熟読してから、ゲームを始めるタイプの人間だ。だからこそ、異世界転生やその異世界に関する解説書的なものがあれば、そっちの方がすごく助かる。
「はぁはぁ・・・。あっ、そういえば、異世界転生に関する説明書がありましたね。すっかり忘れてました。」
息を整えた女神は、今思い出したかのように淡々と言った。
「おい、それ大事なやつだろ、忘れるなよ。」
呆れている俺を横目に、女神は何もない空間からひょいと一冊の本を出した。
えっ、何それ、すごっ!めっちゃ、神っぽい!
「これが具体的な内容を詳述した説明書です。恐らく、知りたいことは、これに全部載ってますから。」
女神は、もう私に何も聞くなという圧をかけながら、文庫本と同じサイズの説明書を渡してきた。200頁ぐらいだろうか。だが、不思議と重さはあまり感じない。パラパラとめくると、転生する異世界の一般的知識や転生後の安全な暮らし方などについて、事細かに書かれていた。
「どうも。これで、何とか疑問は解決しそうかな。」
俺は素直に感謝の言葉を述べた。多々ムカつくところがある女神だが、ちゃんと説明してくれたことは確かだ。まぁ、良しとするか。
「いやいや、もっと感謝してもいいんですよ?跪いて首を垂れても、私は全然構いませんよ?さぁ、ほら!早く!さぁ!さぁ!!」
前言撤回、やっぱりこいつは大嫌いだ!感謝なんて絶対するか!
説明書をおもむろにめくりながら、俺は気になっていた疑問をさらっとぶつけた。
「そういえば、俺のスキルってどうなるんだ?自分で選べたりするのか?」
女神の説明によると、転生体である俺は1つしかスキルを持つことができない。じゃあ、そのたった1つのスキルはどのようにして与えられるのか。もっと言えば、自分で選ぶことはできるのだろうか。
俺の質問に、女神はニヤッと笑い答えた。
「転生者には、転生の女神であるこの私からスキルを付与します。もし希望があれば、どうぞ言ってください。何でも叶えて差し上げますよ。」
女神の不敵な笑みに、俺は何か嫌な予感を覚えた。だが、希望通りのスキルが手に入ると分かり、嫌な予感よりも高揚感でいっぱいだった。
「じゃあ・・・のんびり平和に暮らしたいから、その異世界のありふれた、平凡なスキルでお願いします!」
俺は正直、あまり目立つことなく、穏やかに暮らしたい。転生するのは魔法が発展した異世界。変に目をつけられると、あとあと厄介に違いない。あまり注目されず、悠々自適なスローライフを送ること。それが俺の願いだ。
・・・だが、俺のこの素敵な望みは、他でもない眼前のアホ女神によって打ち砕かれた。
俺が望むスキルを聞くや否や、女神は大魔王かと思うぐらいの悪い顔を浮かべた。そして、その瞬間、俺は自らの過ちを悟った。あぁ、終わったわ・・・。やっちまったぜ・・・。
「なるほど、なるほど!!では、私の神の力をもって、全くありふれていない、狂いまくったスキルを授けてあげましょう!!」
「あぁーーー!!!!!チクショーーーー!!!!!言うんじゃなかった~~!!!!!」
そう、俺はかつてないほどの高揚感に包まれていたことで、アホ女神のクソみたいな性格を失念していたのだ。
「おい、アホ女神、正気か?腐っても、お前女神だろ?そんなことしていいのか!?なぁ?」
四つん這いでうなだれている俺の悲痛な叫びを聞いた女神は、クスクスと愉快に笑いながら、
「あれれ~?私には、アグレッシブで血気盛んな疾風怒濤の暮らしがしたいと聞こえましたが?それを叶えて差し上げるだけなのに、何か問題でも???」
こいつーー!!さっきの拳骨とチョップの報復に出やがった!!こんなに早く仕返しされるとは・・・。油断した・・・。
いい気味と言わんばかりの満面の笑みを浮かべ、嬉々として喋る女神を横目に俺は、スローライフの夢を半ば諦めたのだった。腹を抱えてひとしきり笑った女神は、改めて俺の顔を見てゆっくりと言った。
「では、おバカさん、改め佐藤優紀さん。あなたには、転生を司る女神イリスの名において、アルカナスキル【神奪】を授けましょう。」
女神がスキルの名前を言うと、俺の眼前に「神奪」という神々しい光の文字が浮き出た。
「え、何この名前、絶対ヤバいスキルじゃん。」
名前から推測するに何かを奪えるんだろうけど、「神」の文字がついている時点ですでにおかしい。ありふれたスキルじゃないことは確かだな。もうやだ。
俺の言葉を「はいはい。」と聞き流し、女神は不敵な笑みで続ける。
「素晴らしく、感動的な異世界生活をお送りください。私はその生活を心から・・・・・・・フフッ。」
「おい、今笑ったろ。」
女神の言葉に反応したのか、俺を取り囲むように魔法陣のようなものが突如として出現した。古代文明で使用されていそうな不思議な文字が宙を舞い、俺の周囲が虹色に輝き始めた。
・・・あっ、これ、完全に転生する直前だわ。
「逡荳也阜縺ォ霆s逕溘繧後k閠譛ェ譚縺ォ逾晉ヲg上繧」
笑いを何とか堪えながら、呪文のような長文を唱える女神を思いっきり睨む。はぁ、俺の希望は叶わず、異常なスキルを保持して転生するんだろうな。もう嫌だ、このまま天国に行くか、土に還りたい。
「おい!せめて、高身長のダンディイケメンな男に転生させてくれよ!なぁ、頼むから!!」
全身を包み込む虹色の輝光に眩しさを感じながら、俺は女神に言い放った。転生の呪文を唱え終わったのか、女神はふぅっと息を吐き、そして、絶世の美女には似つかわしくない、悪魔のような笑みを浮かべた。
「お・こ・と・わ・り♥」
「クソがぁーーーー!!!!!!」
俺の恨みがこもった叫びを聞き、うずくまりながら腹を抱えて大笑いする女神を睨みつけながら、俺はついに転生を果たした・・・。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その男は、眩い虹色の輝きごと消失した。いや、転生したというのが正しいか。数百億年以上、転生を司る女神として君臨してきたが、あんな人間は初めてだった。
本来、勇者召喚などの特例を除いて、神は人間に特別な力を与えることはない。ただ、半分は嫌がらせとはいえ、あの不思議な人間の面白い可能性に賭けてみたかったのだ。
女神相手でも平気で拳骨やチョップをくらわせられる人間。女神相手でも遠慮なく、言いたいことを主張する人間。
「佐藤優紀。」
私は、もう一度そのおかしな人間の名をボソッと呼んだ。
「願わくば、あなたがあの歪んだ世界の救世主にならんことを。」
私の発した言葉は誰にも届かず、静かに消えていった・・・。
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