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マリとマリン 2in1 風の悪戯

よろしくお願いします


挿絵(By みてみん)

 履修している講義が臨時休講になり、行く宛を考えあぐねていた茉琳は東門近くの通路脇にあるベンチにひとり座っている。

 彼女は膝の上に置いたトートバッグから黄色の長財布を取り出した。それを開けて、中からカラフルな絵が印刷されていたチケットを取り出す。

 それを頭上に翳し仰ぎ見る。うっとりと目を細めてそれを眺めて、唇は綻び弧を描いて行く。


「そんなに眺めて当選金が増えるとでもするなりか?」

「違うの。嬉しいっていうのかな。楽しいってっていうのかな。とにかくね!」


 チケットを翻し、表と裏を何度も凝視していく。


「くふ、うふ、ふふ」

「やめてくれるなしか。気持ち悪いなり」


 嬉しすぎて、体の中の熱がにじみ出るかというように赤く染まってしまった頬を手で覆い、吐息を吐いていく。


「そんな掲げて、大きくなるって言うなら、いくらでも掲げるなり、違うなしよ」

「そうじゃないの。翔と一緒に寄って、一緒に選んで、一緒に買うって言うのがいいのよ。楽しいの。嬉しいの」

「そんなもん、なりか?」


 茉琳の口調に皮肉が混じる。

「そう言うもんよ。たとえ石ころだって、そうよ」

「ウチはダイヤとかならうれしいえ」


 出た言葉は呆れて何も言いたくなさそう。


「たとえ、それが………、スクラッチくじの末等500円だとしてもよ。私の宝物」

「情けなっ。そんなじゃランチも食べられないシー。ハンバーガーがせいぜいなり」

「牛さん、豚さん、鳥さん、丼なら食べられるよ。そう、一杯を2人で分けて、箸でアーン」

「っんとにしょうもないなし。茉莉! あんた、あの翔のどこがいいなり? ひょろっとして頼りない」

「私はね、翔の手が好き。ほっそりしているけど私の手をギュッと握ってくれるの」

「ウチのひーくんは、逞しい腕で抱き締めてくれたし甘ーい言葉でウチに囁いたなり」

「でね」


 茉琳は当選したチケットを財布に戻そうと手を引き戻す。


「翔の目も好き。まっすぐで優しく私を見てくれる」

「そう え。そうなりな」


 茉琳の唇は綻んていた。あくまでも1人なはずなのに、


するといきなり、


「も〜しぃ」


 呼び止められる。茉琳は慌ててしまう。手元が疎かになりチケットも指先から外れて舞ってしまった。


   あわわわわ


「きさん、なんばしよぉーと?」


 茉琳の前には変わり映えしないカットソーといつものデニムのスキニーパンツにスニーカーを履いた女性が訝しんだ表情で立っていた。


「お誾さん」


 現れたのは茉琳の友人だったりする。


「茉琳しゃん、徳島の人間ちゃう? 手ば振り回して阿波踊りかと思うたね」

「ウチは海挟んだ反対ね」

「関西いん人間かね」

「そうなりな」

「へえ」


 そんな話を2人でしていると一陣の風が吹く。茉琳の手元の長財布に入れ損なっていたチケットが舞い上がり、東門の方へ吹き流れていく。


「ウチの宝モンが、いっちゃう」


 茉琳はベンチから立ち上がって、舞い上がったチケットを追う。手を挙げて掴もうとするけど、風に翻弄されているチケットに触ることさえできなかった。

そして、チケットを注視するがため、足元も疎かになる。そして、そのまま東門を出て行こうとしていた。


「茉琳、茉琳シャン」


 お誾さんが叫んだ。


「そっちはダメばい。堕ちるとよ!」





 その頃、翔は次の講義のために大学に向かっていた。地下鉄の駅の出口を出て東門へ向かって歩いていた。


「よう、日向か。お前も次の講義か?」

「そっ、堂島くんも同じ講義だったよね」

「じゃあ、一緒にいこか」

「おう」


 2人は大学に向かって歩いていく。


「大学に入ったは、いいのだけどなあ。彼女ぐらいすぐできるかと思ってたよ」

「現実は厳しいね。近づくことさえできないよ」


 途中、キャンパスにある伝説のような話を信じる者たちの妄想ではあるのだがどうしても話題にはなってしまう話ではある。


「なに、いってるの。日向。お前にはいるだろう。あの黄色に髪染めてる子がぁ」

「えっ、茉琳のこと? うーん。彼女は、彼女じゃないよ」

「じゃあ、なんだっていうんだよ」


 堂島に言われて、翔は考えてしまう。腕を組み片手で頬をささえて考え込んでしまった。



 始めてあったのは総合病院のロビーだった。いきなり呼び止められたんだ。


『翔? 日向翔だよね』


 未だ、耳に残る呼ばれ方。今でこそ 'なしー‘’なりー'と変な語尾になれてしまったけど、あの時の呼び方は違っていた。まるで同士と思っていた亡き彼女かと錯覚してしまいそうな呼び方だったんだ。

 そんな娘が他人にいじめられ、転ばされ、階段を堕ちるわ、いろんなところで倒れまわるわ。


「手のかかる犬かなあ」

「なんだとぉ」


 堂島は驚愕しているようだが、あれを体験してみなけりゃわからないと翔は思っている。

 反面、あのつぶらな目でまっすぐ見つめてきてお願いされると断るのは容易ではない。

女性恐怖症の症状も出てこないし、なぜか心がざわついてくる。


「あの子の円らな目は好きなんですよね。つい、色々と言うことを聞いてしまう。だからですよ」

「そんなもんかよ」


 と、堂島くんと話をしてきると東門前の階段下まで来てしまっていた。



 その時、一陣の風が翔の前髪を吹き上げる。


「茉琳、そっちはダメばい。堕ちるとよ!」


 いきなり、お誾さんの絶叫が上から聞こえてきた。頭上を見ると


 茉琳は既に空を飛んでいた。階段には足がついていない。手を伸ばした格好のまま落ちてくる。

 翔は階段を駆け上がり、落ちてくる茉琳の体の下に自分を滑り込ませた。


   ぽふん


 柔らかい感触が翔の顔を包む。しかし茉琳の全体重が翔にかかる。一緒に堕ちると翔が覚悟を決めた時、背中を支えるものがいた。


「おう」


 堂島くんであった。翔の後から駆け上がってきたのだろう。


「堂島ぁ、はなさないで! 茉琳も俺を離すなあ」


 堂島くんは茉琳ごと翔を抱きしめる。茉琳は翔の頭を抱きしめた。


  ぐぬぬぬぬっ


 落下の衝撃に耐え、治ると3人は階段の上に崩れ落ちる。


   ふええええーん


 怖かったんだろう。茉琳が泣き出す。


  ふう、


 力が抜けて肺から息を吐き出すと翔は堂島くんに告げた、


「毎回、こんなの茶番時なんですよ。こんな彼女、要りますか?」


 彼は言葉を絞り出す。


「これじゃなあ。心臓がいくつあっても足りないや」


 流石に堂島くんも茉琳は扱えきれないと実感したようだ。


「茉琳しゃん、死んだかで思ったとよ」


 階上から、お誾さんが駆け降りてする。茉琳に駆け寄り泣きじゃくる彼女を宥めていく。


「良かった。生きとーよ」

「うん」


 彼女たちは無事を確認している。よく見ると茉琳の片手はチケットを握っていた。もう片方は翔が優しく手で包んでいたりした。

ありがとうございました。

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