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マリとマリン 2in1 さあ、歩こう

よろしくお願いします

    ピッピッピッピッ


 翔はマンションのエントランスにあるロビーインターホンのキーを押していく。しばらく,呼び出し音が続き、


『…………おっ、…………おはよう。翔え。早いなしな。どうしたなり』


 茉琳の寝ぼけた声がスピーカーから聞こえてくる。


「早くじゃないよ。昨日、するって決めたでしょ。朝にウォーキングをやるって」

『…………………』 


 すると、インターホンが無音になってしまった、


「茉琳?。どうかしたの。大丈夫か」


 翔は慌てた。茉琳は、いきなり意識不明になる障害を持っている。以前に一酸化炭素中毒になって後遺症が残ってしまった。その発作が出たんじゃないかと。

 心配のあまりバンバンとインターホンのパネルを叩いてしまう。そして辺りを見渡し中に入る方法がないかと探し始めた。


『しまったなり』


 いきなり、茉琳の大声がインターホンの筐体を揺るがす、


   ギィ、ドスン。


『痛っ! 痛たたたぁう』


 そして物が軋む音がするかと思えば,何かが床に落ちたような音と悲鳴がスピーカーから聞こえてきた。


「あいつ、いきなり起き上がったりしてベットから落ちたのか」


 翔は見たてを立てた。


『ぐぬうっ、ううぅ』

「やっぱり」


 苦悶する声まで入ってきて確信に至る。しばらくすると、


『かっ、翔。うう、用意するなりえ、うう、待っててなし』


 茉琳の苦悶混じりの声がインターホンから出てきた。


「しょうがないなあ。どっか打ったの」

『お尻から落ちたなし。痛いなりい』

「あ〜ぁ。さあ、ダイエットを始めるって言った初っ端の日から、これじゃ、先が思いやられるよ」


 呆れてしまい、翔の喋りも溜め息混じり。


『面目ないなり』


 茉琳の声も元気が感じられない。


「でっ、どうすんの。そんなんで、できるの? 明日からにしようか?」


 翔は諦め半分で一応、聞いてみた。


『やるなり。頑張ってスリムになってやるなしぃ。でも,痛いえ。もうちっと待っててなりえ』

「わかったよ。ところで起きがけでしょ。ご飯も,まだじゃないの」

『はいなり。お腹ペコペコなし。喉もカラカラえ』

「仕方がないなあ。コンビニで買ってきてあげるから、その間に支度して」

『おーきにな。翔』


 インターホンが切れ,翔はマンションのエントランスを出ていく。


「初日でこうだと、あとの事を考えると頭が痛くなるよ」


 自分の額を手でさえながら、翔は近くにコンビニを探して歩き出した。


⭐︎


 暫くして翔はコンビニから茉琳の朝食を買い込み、マンションまでやってきた。

 すると、どうだろう。既に茉琳はエントランスのソファに座って翔を待っている。


「どう言う心持ちなのかな、インターホンを鳴らす前に下に降りて来ているなんて」

「翔が朝を起こしてくれたなし、朝ご飯の買い物もしてくれたなりよ。部屋で待ってるなんてできないなり。ありがとうなし、翔」

「どう、いたしまして」


 すると、


   グウ


 お腹のなる音がエントランスに響く。


   ググウ


 更に,もう一回。


「ちっ、違うなりよ。お腹が空きすぎて、待ち切れずに降りて来たわけじゃないなしな」


 茉琳は顔を真っ赤に染めて手を振り回してアタフタしている。


「ハハん、そっちが本音と見たよ。いつもながら茉琳の体は正直だね」

「違う、違うなしよ。信じてなりぃ」


「ハハ、そう言うことにしておくよ。じゃあ早く食べよう。急がないと講義が始まる時間になるからね」


 翔は、コンビニ袋を茉琳に見せびらかすように掲げて茉琳の隣のソファに腰を下ろす。そして、ガサゴソと備え付けのサイドテーブルの上に並べていく。

 そのうちの一つを茉琳は取り上げて、


「これ、何のサラダなり?」


「ジャァーン。茉琳の好きなトリが降臨! 鳥の胸肉をほぐしたのが入ってるんだ。脂質が少なくてタンパク質が沢山入ってる。それに完全栄養食のゆで卵。レタスやブロッコリーも入っていて食物繊維も取れる優れもの。そして玉ねぎのソースをかけてヘルシーてんこ盛り。油もちょっぴりだよ」

「凄いなり。これならいいなりよ」


 茉琳は目を輝かせて手元のサラダと翔の顔を交互に見ていく。


「そして,昆布が混ざって食物繊維が沢山入った玄米おにぎり。そしてトマトジュース」

「うん、ありがと。翔くん」

「?」

「でねえ、聞いていいなしか? 食べてすぐに運動してもいいなしか?」

「本当は、30分くらい経ってからの方がいいらしいけど、今日はしょうがないよ。誰かさん,寝坊するし」

「走るわけじゃないから、大丈夫だよ」

「そうなしか。なら、翔。いただきますなり」

「どうぞ、召し上がれ」


 茉琳は、先ずはおにぎりを取り包装を解くと口元に運び、翔をチラッチラッと覗き見しながら啄むように唇に含んでいく。


「茉琳さん。何でしょ。視線が気になるのですが?」

「別に何でもないなり。翔は、もう食べたのかなって思っただけなし」

「俺は、もう、マリンの所に来る前に食べたよ」

「そうなしか…………」

「何? その含みのある喋りは」

「別に何にもないあるよ。じゃあ、お次は翔、お勧めのサラダなしな。楽しみなり」


 彼女はサラダの入ったパックを開ける。ドレッシングを取り出し、早速、封を開けてサラダにかけて、フォークを解された鳥の胸肉に刺して口に入れた。


「美味しいなり。チョッチ酸っぱいドレッシングが鳥さっぱりして鳥さんに合うなりよ」


 よっぽど,気に入ったのだろう。サッサっと口に運び入れ、モグモグと食べていった。


「茉琳、慌てて食べちゃダメだよ。ゆっくりと噛んで食べないといけない」


 茉琳は白い頬を膨らませ、


「んっ,なあに、カケル」


 そして顔を綻ばせ、むぐむぐ言いながら答える茉琳に翔は、何も言えなくなってしまった。


「…………。まあ、気に入ってもらえて良かったよ」

「うん」


 おにぎりを少し食べ,サラダを口に放り、トマトジュースを口に含むを繰り返し、茉琳は翔の揃えたものを完食。


「ふぅ、満足なり。余は幸せであるぞ。良きに計らえなし」

「ははあ」


 幸せそうな笑顔を翔に向ける。


「じゃあ、行こうか」


 茉琳の笑顔に釣られて翔も微笑みつつ、外へ向かおうとする。


「えっー、もっと、この幸せに浸りたいなし、一服するなり」


 茉琳は翔の服の袖をグイグイと引っ張って不満を露わにするのだけれど、


「気持ちがはわかるけど、早くウォーキング始めないと時間がないの。行くよ」


 未だ、袖を握った手を離さない茉琳を引き連れて、翔はマンションのエントランスを出ていく。

 ふたりは、茉琳のマンションに程近いところにある階段を昇り門を潜る。そこは2人が通う大学の入り口の一つ、東門。


「この時間じゃ、ほとんど人気ないね」

「そうなりね。だから周りを気にせずに歩けるなり」

「確かに、大学の中の歩道なら車とかも気にせずに歩けるし、整備もされていよ」


 2人は,門を入り歩道を連れなって歩いていく。道の端には生垣で仕切られた芝生の広場もあり、花壇も作られていて歩いていると目も和ませてくれる。


「でね、この歩道は大学の敷地に沿って囲うようになっているなり、ジョギングしてる学生もいるなしよ」

「へえ、よく知ってるね」

「ちょっと前に、この歩道を走っている、あきホンに会ったなり」

「あの人もここを走ってるんだね」

「あきホンのいる寮がここの大学の敷地に隣接しているから、使っているなりね」

「彼女は、そうやって,あのスラッとしたスタイルを維持してるんだ」

「だから、ウチも頑張って痩せてやるなしよ」

「その意気だね」

「うん」


 今日の茉琳の出立は、オフホワイトのフード付きのフリースシャツにブラックのシェイブアップレギンス。

 クッション性の高いラウンドした厚底のウォーキングシューズを履いて、頭にはNとYのイニシャルが入ったキャップを被っている。そこから染められた黄色い髪が一纏めに垂らされてポニーテールとなっていた。

 そして、両手にトレッキングボールを持っている。杖として使い。もし、気を失って倒れたとしても怪我とかし辛くするためだったりする。


「じゃあ、茉琳。始めようか。始めたばかりなんだから焦らず,のんびり歩こうよ」

「はいなり!」


 茉琳は、杖を振り出し、それに合わせて足を前に出していく。肘が直角を描き、不思議と歩く姿勢が綺麗に様となっていった。


「このトレッキングボールは正解だったね。知ってるか。これを使うと背筋がピンッとして姿勢も良くなるんだって」

「そうなりな。なんか、シャンとした感じなるなりね」


 実際のところ、普段から猫背なりがちだった茉琳の姿勢が良くなり、ふくよかなバストが前に張り出し、上下に揺れる様を翔はツイツイ見がちとなっていた。


「翔、どうしたなり。顔がほんのりと赤くなっるえ」

「別に何でもないよ」


 と、目を泳がしてしまっている。

 フッ、フッと息をしてテンポ良く茉琳は翔と連れ立って歩いていった。暫くすると、敷地に造られた紅葉樹の林の中へ歩道が続くようになる。深緑の清々しい空気の中を2人は進んで行った。


「なんか、空気が澄んでて気持ちいいなり。朝って、こうなりね」

「確か、森の中にあるマイナスイオンが体に良いらしいね」

「この,早い時間でよかったなり」

「だね」


 暫く、続けて歩いていくと、湿り気が増し、靄が立ち始める。


「翔、なんか空気が変わってきたなり、道の前が見えづらくなって来たなしよ」

「本当だね。森に入った時はお日様も見えて天気がよかったのにね」

「こんぐらいの事、気にはしないなし、頑張るなりよ」

「茉琳、そう気張らなくてもいいよ。もう少ししたら休憩しよう。運動も長く続けるには休憩も必要だって言うよ」

「もう、ちっと頑張るなしな。理想のスタイルに戻る為にも張り切っていくなり」


 翔に注意されているのに構わずに鼻息荒く、茉琳は歩を進めていく。


「ま、り、んっ」

「もうっちっとなり。もうちっとなり。ウチの体の中の脂肪が燃えるのを感じるなし」

「まさか」


そうこうしているうちに、辺りの雰囲気が更に変わっていく。湿り気を帯びた風が強くなり始め、とうとう,2人は林から流れてきた靄に包まれた。


「靄って,粒が流れるの見えるなし」


 自分の周りのを細かい粒が動いているの茉琳の目が追う。


「翔も分かるえ。翔? 翔⁈」


 靄が濃くなり、茉琳は翔を見失う。


「翔、何処なり。何処いったなりに行ったなり」


 茉琳は,心細くなって辺りを見渡して翔を探した。すると、彼女の見る視界の端にキラッと瞬くものが入ってきた。


「何なし? 何か光ったなりここは森の中なり。一体何なしな」


 茉琳は、辺りを見渡し、光るものに興味を持ってしまい探し始める。


「全然、見つからない。何なんなの? それにここは何処なり。分からんしー、翔ぅ」


 更に彼女は靄の中を無闇に進んで行くと、茉琳を取り囲むように漂う靄の中から、


「よう! マリンじゃないか。久しぶりだなあ。元気にしてた?」


 茉琳を呼ぶ声がかけられた。



「ひーくん? ひーくんなりか」


 茉琳は,飛び上がるように驚いた。自分が以前付き合っていた彼氏の声が聞こえたのだ。


「おぅ、俺だよ。茉琳、お前のダーリンの聖だよ」

「ひーくん! ヒーくん、会いたかったなり。ウチを置いて、何処に行ってなし。ウチ,寂しかったなりよ」


 声の出所を探る茉琳の目から玉のような涙の雫が流れ落ちていく。


「ヒーくん。何処にいるなしか。声は聞こえるけど分からへんよう」


 茉琳は靄の中、キョロキョロと辺りを身わたし,聞き耳を立てる。


「何処って、お前の真ん前にいるじゃないか」


 彼女の前の靄が濃くなり,背の高い男を映し出す。


「ヒーくん」

「わかったか。俺だよ。しっかし、茉琳、暫く会わなかった間に服のセンス悪くなってないか、フリースシャツにレギンスたあ。俺の横で傅く男たちをブイブイ言わせていたおまえはどうした?」

「ウチ、ウチ」

「俺の側に来いよ。そんなボロじゃなくて、最っと良い服着せてやる。美味しいもの食べさせてやる。なっ」

「ウチ、ヒーくんが居なくて淋しくて、紛らわすのに食べすぎたなり。それでスタイル崩してもうて、痩せなあかんってダイエット始めたなしよ」

「そんな事しなくていぃ。俺が専属トレーナーを雇ってやる。コーディネーターもつける。シェイブアップしたお前の素晴らしいボディを見せてくれればいいんだよ。だから来い! 俺と一緒になろうぜ」

「ひーくん。ウチ」


 彼の話を聞いて茉琳が困惑をしていると,再び靄の奥から、


「茉琳、茉琳⁉︎。どこだ? どこに行ったの? 隠れたってしょうがないよ。茉琳?」


 翔の声がいきなり、聞こえでくる。


「翔! ウチはここなり。翔こそ何処,隠れているなりよ」


 思わず茉琳が口に出すと、


「茉琳! 翔って誰だ?」

「翔は、ひーくんがいなくなってから出来た友達なり」

「俺が居なくなって,すぐ他の男を咥え込んだのか。この尻軽女!」

「違うなり! ウチには、ひーくんだけなり、一筋なりよ。信じてえ」

「信じられるか。親しげに呼ばれやがって。お前、見かけ通りの阿婆擦れなんだな」

「酷いなりい。ひーくん。ひーくん」


 茉琳の目から涙が溢れー頬を使い滴り落ちていく。膝から力が抜けてしゃがみ込んでしまった。


「お前みたいなのは、金輪際ごめんだ。 俺は、あの世で、もっといい女探すぜ。じゃあな茉琳」


 男の形をした影は踵を返して森の奥に去って行こうとした。実際のところ、この男は茉琳を巻き込んで自殺を図り、鬼籍に入ってい。


「だめぇ、ひーくん! ひーくん、ウチも連れてってなしぃ」


 去り行く彼の影に茉琳は手を差し向けてしまう。だが、自分の声が届かないと悟ると項垂れ、地面に涙を落とした。


「ひーくん………」


 その時、


「茉琳さん。そこにいるのは茉琳さんですね」


 若い女性の声が茉琳を呼ぶ。


   パリン


 するとガラスが割れるような音が響き、辺りを曇らせていた靄が一気に晴れた。視界かクリアになり紅葉樹の幹が立ち並ぶ歩道にいるのは、三人。

 しゃがみ込み、涙を流す茉琳。呆然と立ち尽くす翔。そして、ジップアップシャツにハーレムパンツのスポーツウェアに身を包み、手入れ行き届いた長い黒髪を高い位置でまとめて後ろに流している涼しい目を持つ、


「あっ、あきホンさん」


 その女性が誰か分かった翔が彼女に声を掛けた。


「まあ、翔さんまでいらっしゃったのですね。一体全体どうされたのですか? こんなところで」

「いや,あのですね。茉琳とウォーキングをすることになりまして、ここを歩いていたんですよ。そうしたら、なんか霧見たいのに包まれて迷ったみたいで」

「そうだったんですね」


 あきホンと呼ばれた女性は、苦笑いをし、後ろ手に何かを隠す仕草をしながら翔に近づいて行った。


「この歩道は、いつも私くしが朝のランニングで使わさせていただいているのですが、何やら辺りが曇って雲行きか怪しく思われたところに茉琳さんの泣き声が聞こえて来まして」

「え、茉琳の泣き声ですか。彼女,泣いていたんですか?」

「はい,そのようで。声をお掛けしたら、いきなり視界が晴れてお二人をお見かけしたのですよ」

「一体、どうしたんですかね」

「本当にどうしたのでしょうね」


 翔は狐につままれたような顔をしながらも、しゃがみ込んだ茉琳に近づき、腰を落とし跪いて彼女の顔色を伺う。


「茉琳、どうしたの。周りがいきなり見えなくなっって怖くなったの?」


 翔に問われて茉琳は涙でくしゃくしゃになった顔を彼に向けた。


「うわあぁぁーん。翔るぅ」


 茉琳は大声で叫び、翔に抱きついた。


「翔! かける! カケルゥ!」

「ちょっと茉琳、抱きつかないで、俺がどうなるか知ってるでしょ」


 翔の願い空く茉琳は彼を抱きつく強さを増していく。


「ヒィー! ………、あれ? 発作が出ないや」


 翔は女性恐怖症の障害を持っている。抱きつかれたり、触られたりするだけで過呼吸の発作が出てしまう。そのはずだったのだけれど、


「おかしいなぁ。此奴だけは出なかったりするんだよな」


 彼は頭を捻ってしまった。


「まっ、お熱いこと。翔さん、私くし見なかったことにしておきますから、そのまま茉琳さんを慰めてあげてくださいな。フフフ」


 あきホンと呼ばれた女性は,コロコロと笑いながら回れ右をして、翔と茉琳たちに背を向けてしまう。背中に隠していたものを2人には見えないようにして、


「あきホン、見ていないて、茉琳を宥めるの手伝ってくださいよお」

「何を仰います。お二人の睦まじいところへ、ちょっかいなど掛けようものなら暴れ馬に蹴られて、何処が飛ばされますわ。フフ」


 そう言って、再びランニングを始めて、2人から離れてしまった。


「あきホン、見捨てないでよぅ………,ああっー行っちゃったよ。酷いなあ」


 仕方なく、嗚咽を流して泣きじゃくる茉琳の頭をヨシヨシと撫でて、彼女が落ち着くまでそうするしかなかった。


⭐︎


 翔と茉琳から離れた、あきホンは、誰に言うわけでなく呟く。


「この古より茂る森に悪戯好きなピクシーもいたのですね。矮小な妖精風情が私くしの友人を誑かすとは万死に値します」


 と言って手に持っていたものを握り潰した。


   ピギャ


 小さい悲鳴が上がり、彼女の前から銀色に輝く羽が飛び散り、光の粒となって消えていった。赤いもの散っているようだが彼女は気にすることなく走り去ってしまった。


⭐︎


 暫くして泣き止み、翔から離れた茉琳は、


「ごめんね。翔。無闇に抱きついちゃって」

「本当にどうしたの」

「起きていたはずなのに、変な夢見たなし、なんであんなの見たなりか、わからせん」

「本当に狐にでもばかされた気分だよ」

「ウチもそんだ気がするなりな」

「でっ、どうしよう。時間も結構、過ぎたし,ここで帰ろうか」

「そうするなり」

 

 2人はと連れ立って、歩道をとって返した。帰っている最中、徐に茉琳は翔に語りかける。


「翔。お願いあるなり」

「いきなり、何を」

「ウチ、こんなことあったけどウォーキングは続けたいなし」

「それがいいね」

「だから、お願い、これからもウチを朝、起こしに来る時にコンビニで朝ごはん買って来てなり」

「やぶさかじゃないけど、それぐらいいいよ」

「ありがと、翔」

「どういたしまして」

「でねえ」


 茉琳は翔の目をじっと見つめた。


「何?」

「ウチだけじゃなくて翔の分も一緒に買って来て食べよう」

「いきなり,何を言い出すの」

「朝,1人でモソモソ食べるの空しいなり、寂しいなりよ。今朝、翔と一緒にいて余計に思ったなり。2人で食べるとあんなに美味しくなるなんて思わなかったえ。お願い」


 茉琳に懇願され、翔は頭をあっち向け、こっち向け,考えた挙句、


「わかったよ。一緒に食べてやるよ。その代わり、ウォーキングは、ずっと続けてよ」

「はいなり! 流石は翔。好きよ」

「へいへい」

「お座なりな、返事なり。折角ブツブツブツブツ」

「もう,いいよ。早く帰ろう。講義にくれちゃう」

「しまったなり。翔,急ぐよ」


2人は高くなりつつある太陽を仰ぎつつ、歩道を進んで行った。










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