マリとマリン 2in1 満天の星の下
サービスエリアの屋外テラスに翔と茉琳と一緒に座っている。今は、もうすぐ日付も変わろうかという深夜だった。翔が都市圏で開催されるイベントに行くつもりだったのだが、それを聞いた茉琳が駄々を捏ねて同行することとなってしまう。往復夜行バスに行くんだよと説得した。噂で痴漢が出るとか、シートでそのまま寝るんだぞとか、バスのトイレは男女共用なんだぞとか、もちろん途中下車はできないとも。しかし、茉琳は目を強く瞑り、唇を噛み締めて、
「行くもん」
と一言。
「俺は中野に行く予定だけど、茉琳はどうするの? どこか行くとこあるの?」
「翔と同じところなしな。向こうで別れて別行動したら、絶対迷子なり」
「俺の趣味で行くんだが。いいのか?
「ブロードウェイなり、アクセとか良いもの見つかると良いなし」
結局、茉琳は男がほとんどのイベントでトークと歌とダンスの振付を楽しんでいたようだった。翔も望みの戦利品をゲットしたようでホクホクとしていたのだが。
帰りに乗ったバスが故障した。高速道路を走行中、途中の休憩のためサービスエリアに入ったところでエンジントラブル。現在、乗員は皆、代わりのバスを待っている。辺りは宵闇。2人はサービスエリア内にあるコンビニで淹れたてコーヒーとホットミルクを買って、時間潰しの散歩がてら外のテラスに向かった。
「照明が明るいから、お星も見えずらいなり」
空を見上げて茉琳は言う。しかし、
「あった。あれがカシオペア座。ということはこっちは獅子座かな」
茉琳はテラス席に座らないで空を指差しくるくると回っている。
「空の大三角も見えた」
翔は茉琳の楽しそうな声を聞いて
「そういえば、茉莉のやつも星座を見るの好きだったなあ」
翔は茉琳が聞こえないぐらいの声で呟く。
先月、亡くなった同級生を思い出していたりする。すると茉琳が空の一点を指して、
「ねえ、翔。猫座ってどこにあるか知ってるなり?」
「猫座はないよ」
「えー、嘘だしー」「
「なんか、逸話がプライベートすぎたエピソードなんで認められなかったって」
翔は、昔、同級生から蘊蓄を思い出しながら茉琳に話す。
「おのれ!、12支に飽き足らず星座まで猫がいないとは!」
翔は思わず茉琳を見てしまう。同級生も同じことを言っていたのだ。
「翔、ウチが世界に認めてもらえるエピソードをネットで配信して猫座をつくるなりよ」
茉琳が拳を握って力説した時、
「あっ流れ星」
「どこ?どこぉ?」
翔は茉琳が背にしている山の稜線の上に銀色の一筆書きを見つけた。
「もう、消えたよ」
「えー、びどいしー。神様! お願いえ、ウチにも流星を見せて頂戴なり」
黒い影となっている山の方向へ向いて手を合わせて、一心不乱に茉琳は祈る。
しかし、静寂が周りを支配する。
「あぁーあ……あ」
茉琳が残念そうに嘆息すると、真っ黒な夜のキャンバスに銀色の筆の一挿しが。
「おっしゃあ! 神様ありがっとうなり」
茉琳は目を輝かせて、拳を突き上げている。翔はあんぐりと口を開けてその光景を見ている。
「良いものを見られて良かったね」
「はいなり」
翔には、流れ星もそうだが茉琳の屈託のない笑顔を見れたことが嬉しかった。
深夜の流れ星は2人の共通の出来事として良い思い出になった。
代わりのバスに乗り込み、早速、寝ようかとしたところ、翔は隣で横になって毛布に包まる茉琳に話しかけた。
「なあ、茉琳。神様もラジオ深夜配達を聞くのかな?」
「知らないなり。ウチはラジオの高層気流の方がすきやしー。もう、眠いから、おやすみえ」
「お休み」
目を閉じ、寝入った二人を乗せて夜行バスは走り出す。