マリとマリン 2in1 舞花
この時期でしかできない話なんで急遽アップしました。
「翔、すごいよ、桜の花が川面に雪崩れ落ちてるよ。うわぁ うわぁ」
河川の土手に植えられた桜が丁度見頃になっているというのできてみた。観光で市外から見にくるほどではないけど地元の名所と言える桜並木。斜めになっている地盤に植えられているお陰で枝が川を覆うように伸びているためか、花が咲くと丁度川面に落ちているように見える。土手にある小道を歩いて行く。小道の上にも枝が張っているから、桜の花のカーテン越しに対岸の桜が見える。見応えのある景色が広がっていた。
「すごいねぇ、桜の華に囲まれてるぅ。」
「桜一色だね」
近くの保育園や養護施設から見にきたのであろう、小さな子や人生の先輩たちが一緒っに桜を楽しでいた。
すると丁度、土手にある柵が切れているところがあって、土手を降りて下を流れる川まで降りる小道があった。多くの、やんちゃな人たちが歩き、踏み固められてできたもの。
「下に降りる道があるのぉ、降りてみるね」
「おい、足元気をつけないと滑るよ」
茉琳は、滑ることなく小気味よく下に降りて行った。川も浅いのだろう、足場にできるくらいの石があり、対岸へ渡っていけそうだ。その石を伝って川の中程に立つ茉琳。頭を左右に巡らせている。
「桜の華に埋もれそうだよぉ〜、すごい、すごい」
手を振り上げ、するりするりと体を回している姿は、何かの舞踊を踊っているように見える。すると川面を滑るように風が吹いてくる。少し強めの風が花桜の花を散らし、舞上げ、吹雪いて行く。茉琳も花吹雪に紛れて見えなくなってしまう。
「きゃあ」
茉琳の叫び声と水音。どうやら川に落ちたようだ。風が止み、花びらの大方が川面を覆い尽くすか、どこかに飛び去って行った。翔は茉琳がいた辺りを見るのだが見当たらない。肩にかけていたデイパックを投げ捨て慌てて土手を駆け下り、濡れるのも構わずに川へ入って行く。水量も少なくて流れもほとんどないのが幸いして足を取られることもなく、川の中程まで歩いていけた。
風に散らされた桜の花びらが川面を覆い尽くす中に白い手が見えた。すぐそばにコットンパンツを履いている膝頭も見えた。そして花びらに囲まれた白いデスマスク、いや目を閉じている彼女が顔がわかった。
「茉琳!」
翔は茉琳に近づき首の後ろに手をさしいれて起こす。ふんわりブラウスの袖は腕に絡みつき、まとわりついて下の肌色を晒している。濃いブラウンのベストを着ているお陰で下着が透けることはない。普段だらしなく広がり汚れたようになっている黄色く染めた髪も濡れて艶やかな色になって水面から伸びている。
「ごめん、ごめんね。ヒーくん。ごめん、ごめん」
茉琳はボソボソと呟きながらうなされている。今はずぶ濡れだからわからないが涙も流しているに違いない。このままではいけないと考えて翔は茉琳の頬を叩く。一回、2回。3回目を叩こうかとしていると瞼が開いた。アンバーな瞳が左右を探る。翔を認識したのか、
「翔くんか?、どうしたのこんなところであれ?、あれ、あれ?」
いつもとは違う口調で話しかけられて翔はドギマギしている。
(声は違うけど、俺の呼び方喋り方は記憶にある。茉莉と同じだ)
「私は病院にいて……あー!」
茉琳は翔の手を離れて起き上がった。
「ごめん、ごめんなしー。桜の花びらに目をまわしちって足がすべったのぅ。あっ、翔も濡れてるしー」
茉琳は慌て、手を振り回しながら混乱している。喋り口は茉琳のそれである。
翔は茉琳を腕ごと抱きしめた。混乱して慌てて、また川に落ちても困るからだ。抱きしめた事の自分への言い訳でもある。
「大丈夫。大丈夫だから、浅いから溺れないよ。大丈夫、大丈夫」
翔は茉琳の背中を優しく叩きながら宥めていく。
「どう、どう、どう」
「茉琳は馬さんじゃないしー」
最後は変なあやし方をしてプンスカされてしまった。でもいつものマリンのペースに戻ったようだ。
「岸に戻るよ。ここにきた時の石を通るから足元気をつけて」
「こめん、ごめんなしー。翔も濡れちゃった」
「そんな事良いから、早く渡ろう」
「クチュン」
返事のかわりが小さくも可愛いくしゃみだった。翔は笑顔で茉琳は恥ずかしさに紅潮して岸まで渡り終えた。
「クチュン」
さっき投げ捨てたデイバックには茉琳対策で大きめのタオルを複数、真空パックして入れてある。それで拭いているのだが足りない。近くのホテルにとも考えるが土地勘がない。
「あのー」
保育園のお花見に付き添いで来ていたお姉さんが助け舟を出してくれた。すぐ近くに大規模のショッピングモールがあると。
現在、2人はショッピングモールの中にある、コインランドリーにいる。翔も茉琳もラップタオル姿。大きなタオルを着て着替えができるというあれである。あの後、アドバイスを受けて、ショッピングモールの中にあるディスカウントファッションショップで大きなタオルを数枚買う。丁度見かけたラップタオル(大人用)も購入した。手持ちのタオルで吹きあげたとはいえ、濡れた後ありありの2人に店員は訝しんでいたけど。そしてラップタオルを着て着ていたものを脱いで洗濯と乾燥をしている。
「なんか懐かしー。幼稚園でプール入る時にこんなので着替えてたし」
「俺はフルチン」
「何それ、笑える」
「いーじゃねぇか。純真だったんだよ」
「まっ、そういことにしとくよう。シッシー」
そして翔は拳を強く握り、
「なあ、まり」
と茉琳に聞いてみる。反応はないように見えた。しばらくして、
「呼んだかなぁ、まりって誰? 私は茉琳だしー」
少し怒気の含んだ返事が返ってきた。
「まさか、他の女と間違えたのかなぁ」
プンスカし出す。
「ごめんね。言い間違いだよ。そんなに怒らないの」
「なら、いいよ」
穏やかな返事が返ってきて翔はほっとしていた。しかし翔は知らない、翔に見えないようにしている拳は力を入れすぎて白くなっていることに。
「ねぇ翔。今日はありがとう。大変な事あったけど桜の花の雪崩、桜吹雪、楽しめたんだよねー。最後は
失敗して巻き込んじゃったけど。良かったよ」
茉琳は翔に笑顔を見せた。
「いっーよ。いつものことだから」
「ゔゔー、いつもどじってないしー、自信ないけど」