表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/20

6.勇者が去った街

「勇者さまー!」

「どうかお顔を見せてください!」

「私たちの勇者様は生きておられたんだ!」


 王都は再び歓喜に満ち溢れていた。

 突如王都を襲った巨大なドラゴン。

 青い空を恐怖で染める巨悪を、光の一撃がうち滅ぼした。

 その力を、輝きを、人々は見逃さなかった。

 

「我々を救ってくださった光、あれは間違いなく勇者様のお力だ」

「あんなことができるのは勇者様をおいて他にいない!」

「やっぱり勇者様が死んだなんて嘘だったんだ」


 勇者死亡の知らせに落胆していた人たちが、一気に元気を取り戻している。

 彼らにとって勇者とは希望であり、心の支えでもあった。

 勇者がいるから平和になった。

 これから何があっても、勇者が自分たちを守ってくれるだろう。

 その安心感があったからこそ、彼らは平和を満喫することができていた。


 国のトップは国王である。

 しかし仮に、勇者と国王が異なる意見で対立した場合、国民はどちらを支持するだろうか。

 その答えが、今の王都の光景に現れている。


「勇者様が死んだという誤報を流すなんて、国王様は何をお考えなんだ」

「まったくだ。私たちの勇者様に何かしたの?」

「もしかして、国王様が勇者様に嫌がらせをして、だから出て行ってしまったんじゃ……」


 勇者生存の喜びと当時に、国王への不満がちらほらと露見する。

 彼らにとって国王はすでに、国の代表ではなくなっていた。

 この国を支えているのは勇者の存在だった。

 故に、国王を含む権力者たちは、勇者を抹殺する計画を立てたのだ。


「見ろ! 誰か出て来たぞ!」


 王城の周りに集まった人々が、一人の男の姿を捉える。

 勇者様が出てきたのだと、一瞬だけ期待した民衆は落胆する。


「勇者様じゃない。陛下だ」

「本当だ……」


 国王の姿を見てがっかりする国民など、世界広しといえどこの国だけだろう。

 無論、国王自身にもその変化は届いている。

 声が聞こえずともわかってしまうのだ。

 人々の支持が自分ではなく、殺したはずの男に向いていることが。


「親愛なる国民の諸君」


 国王は語り出す。


「先の襲撃は予期せぬものだった。それを救ったのは紛れもなく、勇者の聖剣であった」

「おお!」


 国王はその手に聖剣エクスカリバーを握る。

 彼でなければ振るうことは叶わずとも、手に持つことは可能だった。

 聖剣を目にした人々の瞳は、その輝きに負けないくらいにきらめき出す。


「やっぱり勇者様が助けてくださったんだ!」

「勇者様! どこにいらっしゃるの!」

「――だが! 勇者エレンが何らかの理由で瀕死の重傷を負い、倒れていたことも事実である」

「え、どういうことだ?」


 王城の周りで静かなざわめきが起こる。

 国王の発言の矛盾に頭をかかる。


「すまない。私にも理解ができないのだ。彼は確かに亡くなった。だが、彼の力で我々はまた助けられた。彼は生きていると……信じたい気持ちもある。故に、私から皆に言えることは一つである」


 国王は大きく息を吸いこみ、叫ぶように吐き出す。


「勇者エレンは紛れもない英雄である! 彼は生きていようと、死んでいようと、いついかなる時も我々の見守っているのだと!」

「……あ、ああ、そうなんだな」

「うん。私は生きていらっしゃると思うけど、それなら安心よね」


 歓声は、上がらなかった。

 国王の熱の入った言葉に、人々の反応は微妙なもんだった。

 それも仕方がないだろう。

 彼らが求めていたのは、精神的な意味合いの言葉ではなく、ただの一点。

 勇者は生きていると、断言することだった。

 彼らはただ、勇者の顔が見たかっただけなのだ。


「……はぁ」


 国王は小さなため息をこぼし、人々の前から姿を消す。

 彼がその足で向かったのは、重鎮たちと話し合うための場所。

 会議室の最奥に国王が座る。


「お疲れさまでございます。陛下」

「ああ……」


 国王の顔にはどっと疲れがにじみ出ていた。

 その理由を自らの口で語り出す。


「予期せぬ事態だ。あれは……なんなのだ」

「わかりません。我々は確かに、勇者エレンの遺体を確認いたしました。蘇生の可能性がなくなるように遺体も火葬して、復活の兆しなどは……」

「そもそも死んでいなかったのではないか?」


 重鎮の一人が意見を述べる。

 全員が注目する。


「彼には聖剣エクスカリバーを渡していた。あの聖剣は使用者の魂と融合する。もし彼が死んだのであれば、聖剣が遺体から回収できたはず……」

「確かに、聖剣は出てこなかった。ではあの死体は?」

「偽物……ということでしょうな」


 その場の全員が小さな吐息を漏らす。

 数秒の静寂を挟み、国王が口を開く。


「私たちはまんまと勇者に欺かれた、ということか」

「そのようです。彼は我々の計画に気付いていたのでしょうか」

「わからんが、対処していたのは事実。そして、彼が今もどこかで生きていることも揺るがぬ事実……」


 この時、口にせずとも全員の意見は一致していた。

 彼が生存している。

 それは、自分たちにとって都合の悪い事実であると。


「どういたしましょう? 陛下」

「そんなこと決まっていよう。私たちはすでに事を起こしたのだ。もやは後戻りはできん。勇者エレンは私たちにとって巨大な爆弾だ。危険は、取り除かねばならない」

「では……」

「ああ、勇者エレンを今度こそ……消すのだ」


 勇者エレンは人々のために戦った。

 しかし、その守られた者たちは、彼の善意に応えない。

 皮肉であろう。

 彼らにとって勇者とは、たんなる兵器と同じなのだ。

 危険だから破棄する。

 道具のように。

 

 だが、彼らは侮っている。

 此度の勇者がたんなるお人好しではないということを知らない。

 彼の傍らには、魔王がいることも。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿しました!
メイド雇ったら大嫌いなクラスメイトが来たのでVTuberデビューさせる~
https://ncode.syosetu.com/n4928ht/

最後まで読んでいただきありがとうございます!
もしよければ、

上記の☆☆☆☆☆評価欄に

★★★★★で、応援していただけるとすごく嬉しいです!


ブクマもありがとうございます!

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

7/25発売です!
7pm86qqs2f5ubja2g3z3lfl515it_3v1_133_1jk_1j0pl.jpg

8/30発売です!
458if3gek4wehi5i7xtgd06a5kgb_5gq_160_1nq_cq3f.jpg

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ