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用済み勇者、捨てられたのでスローライフな旅に出る ~勇者はやめても善行はやめられないみたいです~  作者: 日之影ソラ


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18/20

18.夜風の中で

 結婚式が終わり夜になる。

 俺たちは家に帰り、ささやかなパーティーを開催した。


「二人の結婚を祝してー! かんぱーい!」


 父さんの音頭に合わせてコップを重ねる。

 ガラスじゃない木のコップで音も静かだが、それ以上に賑やかだ。


「たくさん食べてね? 今日は母さんとっても頑張ったのよ」


 テーブルの上に並べられた料理の数々。

 小さな村で出てくる料理としては、これ以上ないくらい豪華だ。

 試しに一口食べれば、懐かしい味が口いっぱいに広がる。


「美味いのう! 母君は料理の天才じゃな!」

「あらまぁ嬉しい。頑張って作ったかいがあったわ」

「母さんの料理は世界一だからな! これを知ったら他の料理が食べられなくなるぞぉ~」

「うーむそれは困るのう。じゃが手が止まらん!」


 つい数時間前に初めて会ったはずなのに、もううちの両親と打ち解けている。

 変な魔法とか使ってないよな?

 いや、父さんたちならこれくらい普通か。

 もしかすると二人は、アスタロトの正体を知っても変わらないかもしれない。

 そんな期待すら感じてしまえるほど、二人は明るくて優しい。


「なんじゃ? 主は食べんのか? ならワシが全部もらってしまうぞ」

「食べるよ。俺もお腹は空いてるんだ」


 母さんの料理を頬張る。

 口に広がる味を感じて、改めて帰ってきたことを実感する。


「ところでエレン、これからどうするんだ? 勇者の仕事も終わって嫁まで出来たんだ」

「そうよね~ また一緒に暮らせるのかしら」

「あー……それはまだ考え中かな」

「……」

「そうか? 決まったら教えてくれ。うちはいつでも歓迎だぞ!」

「ありがとう」


 こうして夜は更けていく。


  ◇◇◇


「今夜はここの部屋を使ってくれ」

「え? でもここ二人の寝室でしょ?」

「いいからいいから! 俺たちのことは気にせず」

「そうよ。気にせずごゆっくり~」


 パタンと扉が閉まる。

 ここは父さんたちの寝室、つまり夫婦の寝室。

 ベッドは大きめのサイズが一つだけ。


「夫婦なら同じ寝床を共有するのも普通じゃな」

「……はぁ」

「なんじゃ大きなため息などついて。さては初めてのキスのことが忘れられんのじゃな? 仕方ないのう。主がしたいならもう一度するか?」

「ち、違うから。そういうんじゃない」


 ったく、忘れていたのに思い出したじゃないか。

 俺にとって初めてのキス。

 その相手が、まさか元魔王だなんて……こんなことがあるんだな。


「かっかっ、今思い出しても面白かったのう。キス一つで動揺するとは、愛いやつじゃ」

「なっ、仕方ないだろ初めてだったんだから。そういうお前はどうなんだよ」

「ワシも初めてじゃよ」

「え、そうなのか?」

「当たり前じゃ。魔王が誰かと接吻する機会などあるわけなかろう。今日まで誰にも許したことはない……主が初めてじゃよ」


 そんな風に言われると、多少はいい気分になる。

 俺だけ特別だと言って貰えているみたいで。


「せっかくじゃし、このまま孫の顔でも見せてやるか?」

「か、からかうなよ」

「かっかっかっ! 冗談じゃよ。さすがにワシでも一日で子を産むなどできんからのう」

「そういう問題じゃないだろ……」


 彼女の能天気さも大概だな。

 だから余計にうちの両親と相性がよかったのか。


「そういえば、二人は俺ってすぐに気づいたな」

「なんじゃ?」

「ほら、ローブを着ていたのに」


 村に到着した時、俺はローブを着ていた。

 このローブにはアスタロトの魔法で認識阻害の効果が付与されている。

 普通の人間には、俺を俺だと気づけないはずだ。


「前にも言ったじゃろ? 認識阻害の効果も完璧でない。主と関わりの深い者……主のことを常に考えているような者には効果が薄い」

「……だったら」

「うむ。そういうことじゃな」


 二人はずっと、俺のことを考えてくれていたのか。


「よい両親じゃな」

「……ああ。俺の自慢だよ」


 これ以上ないくらい大切な人たちだ。

 

「なぁアスタロト」

「なんじゃ?」

「もう少し経ったら、散歩にでもいかないか?」

「よいのう」


 時間はゆったりと過ぎていく。

 俺たちは寝室で他愛のない話をして、二人が寝静まるころを見計らう。

 こっそり音を殺して、起こさないように家を出た。

 向かったのは教会、の近くにある空き地だ。

 元々は畑になっていたけど今は使っていない。

 家からも遠く、誰の邪魔も入らない。


「エレン」

「ああ、ここから迷惑はかからない」


 俺たちは振り返る。

 そして――


「姿を現せ。いることはわかっているんだ」


 誰もいない森へ呼びかける。

 すると、ぞろぞろと黒いコートを着た者たちが姿を現した。

 一人、二人……ざっと十人近くいる。

 うち一人、目つきの悪い女性がニヤっと笑みを浮かべて問いかける。


「よく気付いたねぇ~ さすが元勇者様ってことかい?」

「そっちの尾行が下手なだけだよ。気配を完全に殺しきれてない」

「くくっ、あえてさ。あたしらも半信半疑だったからね~ あんたが本物の勇者か試しておきたかったのさ」

「妙な言い回しだな」


 口ぶりからして王国に雇われた者たちなのだろう。

 おおかたどこかの盗賊か何か。

 王国に属する者じゃない。

 俺の偽物を殺した暗殺者でさえ、俺に対して殺意は持っていなかった。

 命令されて仕方なくって感じだったのに、こいつらは……。


 明確な殺意を感じる。


「余程の額を提示されたか」

「まぁね~ あんたを殺しせば一生遊んでもおつりがくる金が手に入るのさ」

「それはよかったな。でもいいのか? 俺を相手に、この程度の人数で勝てると思わないだろ?」

「そうだね。なにせ世界を救った勇者様だ。普通に戦ったらあたしらが負ける。だけど、こういうのはどうかな?」

「――!?」


 複数の気配が迫っている。

 のそのそと、ゆっくり。

 魔物じゃない。

 人の足音だ。


「まさか――」


 嫌な予感が的中する。

 そこに姿を現したのは……。


「父さん、母さん……」

 

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メイド雇ったら大嫌いなクラスメイトが来たのでVTuberデビューさせる~
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