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用済み勇者、捨てられたのでスローライフな旅に出る ~勇者はやめても善行はやめられないみたいです~  作者: 日之影ソラ


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17/20

17.結婚式をしよう

 数秒の静寂に包まれる。

 父さんは俺を見て、アスタロトを見て、また俺を見る。

 それに合わせて母さんの視線も動く。


「け……」

「エレン君が……」

「「結婚!?」」


 二人の声が合わさって、家が揺れるんじゃないか、くらいの大声が響いた。

 目を丸くして驚く二人と、なぜか得意げな顔をしているアスタロトが向かい合う。

 俺はというと、一人で頭を抱えていた。


「お前なぁ……」

「何じゃ? 事実じゃろ?」


 そんな事実は存在しない。

 と、素直に否定できればよかったのだが。

 あいにく俺たちには立場がある。

 捨てた大きな肩書きに今も縛られているのは聊か滑稽だが、これは仕方がないことだ。


 否定しない俺を見て、父さんが身を乗り出しテーブル越しに両肩を鷲掴む。


「お、おおお前! いつの間に結婚したんだ!」

「あ、えっと……」

「しかもこんな小さな女の子と! どう見てもまだ子供じゃないか!」


 さすがに細かいことを気にしない父さんでも見過ごせないか。

 アスタロトの見た目から予想できる年齢は、せいぜい十四、五歳といったところだ。

 下手したらもっと下に見られることもある。

 そんな少女と結婚しましたと、三年ぶりに帰ってきた息子に言われたら、誰だってこの反応になるよなぁ……。


「安心するのじゃエレンの父君よ。ワシは見た目通りの年齢ではない。実際はエレンよりも年上じゃ」

「お、そうなのか。だったら問題ないな!」


 この一言で納得してしまうとも父さんらしい。

 母さんはというと、最初からテンションが上がりニコニコしている。


「まぁまぁまぁ! エレン君が結婚なんて、とっても素敵なサプライズだわ。アスタロトちゃんっていうのね。私はエレンのお母さんよ。今日からは貴女のお母さんでもあるわ。よろしくね?」

「うむ。こちらこそよろしく頼むぞ!」

「まぁしっかりした方ねぇ~ 素敵な人だわ。ねぇ貴方」

「ああ、よく見るとお似合いな二人だな。エレンが連れてきた女性なら間違いないだろう! なんたって俺の息子は俺に似て、人を見る目はあるからな!」


 大盛り上がりな二人を見ながら俺は呆れてしまう。

 いろいろと思うところはあるが、この雰囲気で今さら言い訳もできないなと。

 何よりこんなにも嬉しそうな二人は久しぶりに見たから……。

 不覚にも、俺まで嬉しくなってしまった。


「かっかっ! 愉快なご両親じゃな」

「……そうだな」


 聊か不本意だが、二人の笑顔を見られたのは彼女のおかげだった。

 俺は心の中で、彼女にも聞こえないようにお礼を言う。


「どういたしまして」


 口では言わなくても心で伝わって、彼女はニヤっと笑いながら返した。

 まったく不便な身体だよ。

 思いを隠すことすらできないなんて。


「そうだ二人とも! もう結婚式はあげたのか?」

「いや、あげてないけど」


 それはそうだ。

 実際に結婚したわけじゃないんだから。


「なんだまだなのか! だったらちょうどいい」

「え?」


 ちょうどいい?


「母さん」

「ええ、少し待っていて。すぐに持ってくるわ」


 そう言って母さんが見たことのない機敏な動きで奥へと消えていく。

 持ってくると言っていたが、一体なんの話だろう。

 俺とアスタロトは首を傾げる。

 そして、疑問の答えはすぐにやってきた。


「じゃーん!」

「ほう。豪華な服じゃな」

「それって……タキシードとウエディングドレス?」

「正解よ! 私が作ったの。いつかエレン君が誰かと結婚した日に着てもらえるようにって」

 

 母さんが持ってきたのは結婚式用の服だった。

 すごくよくできている。

 母さんが裁縫が得意だとは知っていたけど、まさかこんなものを作れるなんて……。


「エレン君にはぴったりね。アスタロトちゃんには……さすがに大きいわ。直さないといけないわね」

「大きさなら気遣い無用じゃよ」


 そう言ってアスタロトはドレスに右手をかざす。

 魔法を発動させ、光がドレスを包み込む。

 するとあっという間にドレスはアスタロトにぴったりなサイズに変わった。


「あらまぁ、すごいわアスタロトちゃん」

「かっかっかっ! ワシにかかればこの程度造作もないわい」

「ありがとう。これならすぐに着れるわね」

「ああ、じゃあさっそく行こうぞエレン」

「え? 行くっってどこに?」

「決まっているだろ? お前たちの結婚式をするんだよ!」


  ◇◇◇


 村には小さな教会がある。

 この村は一人の神父さんが作ったらしい。

 当時の名残で、神父さんがいなくなった後も、教会だけは大事に守られてきた。

 村の人たちは結婚すると必ずここで式をあげる。

 俺も小さい頃に村の人の結婚式を見たことがあった。

 あの頃は予想もしていなかったよ。

 まさか……俺がここに立つなんて。


「……どうしてこうなったんだ」

「かっかっ! さすがにワシも予想してなかったわい」


 俺たちは教会の中央を並んで歩く。

 彼女は白いウエディングドレスを纏い、俺と腕を組む。

 新郎と新婦として並び立つ。


「まったく愉快な両親じゃな。ワシを驚かせるなど、さすが主の親じゃ」

「嬉しくないな……」


 神父役を父さんがやっているのも驚きだよ。

 俺たちは神父の格好をした父さんの前にたどり着き、誓いの言葉を口にする。


「汝健やかなるときも病めるときも、これを愛し、敬い、慰め遣え、共に助け合いその命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

「うむ、誓おう」

「……誓います」


 俺たちはあくまで偽装夫婦なんだが……。

 ここまでやってしまうと、さすがに意識してしまう。

 偽りではなく、本物の夫婦になったような気になる。


「では、誓いのキスを」


 キス……もするのか。

 結婚式だからそういうものだよな。

 正直初めてで経験もないし、村のみんなにも見られている。

 すごく恥ずかしい。


「なんじゃ? 世界を救った勇者のくせにキス一つもできんのか?」

「くっ、いいさ。ここまで来たらやけだ」


 俺は彼女のベールをあげる。

 改めて顔を見合わす。

 俺を挑発してきた彼女は、少しだけ期待するような顔で、俺を待っている。


 そして――


 元勇者と元魔王はキスをした。

 きっと長い歴史の中で、これが最初で最後だろう。

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メイド雇ったら大嫌いなクラスメイトが来たのでVTuberデビューさせる~
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