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用済み勇者、捨てられたのでスローライフな旅に出る ~勇者はやめても善行はやめられないみたいです~  作者: 日之影ソラ


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15/20

15.夜明けと共に

 日没と共に俺たちは森へと入った。

 街の北にある森林は、動物や植物の宝庫であり、魔物も生息している危険なエリアでもある。

 普通の人間はここに入らない。

 隣町へ行くときも大きく迂回する。

 どうしても急ぎの用がある時は、冒険者を雇って森を抜けるらしい。


 中でも夜は危険だ。

 眠っていた野生動物が目を覚まし、魔物も凶暴になる。

 探し物なんかも夜は向いていない。

 単純によく見えないから効率が悪い。

 故に、この時間に森へ入る者は無知な愚か者か……恐怖を知らない真の強者のみだろう。


 なんて、俺はどっちかな?


「どっちもか」


 強さに自信があったとしても、あえて危険を冒すのは愚か者だ。

 そういう意味で、俺はどちらにも当てはまる。

 とはいえ、集まったクエストの量が量だ。

 俺が担当するほぼ全部が魔物の討伐クエストだし、活発化する夜のほうがかえってやりやすいかもしれない。

 そうこうしているうちにさっそく――


 森の奥から魔物が現れた。

 赤い目を二つぎらつかせているのは、狼の形をした魔物。


「ウルフ……レッドアイか」


 ちょうどクエストの対象にもなっていたな。

 こいつの牙が必要だったはずだ。

 

「幸先いいな。向こうから来てくれるなんて」


 ウルフ系の魔物は基本群れで行動する。

 今も八匹は視界にいる。

 気配を辿ったかぎりまだ奥にいるな。

 魔物たちは距離を詰めてくる。

 丸腰の俺にも警戒して進むのは野生の本能か。

 だが甘いな。

 お前たちの命運は、俺たちが森に入った時点で決まったんだ。


「来てくれ。水の聖剣――アクシズ」


 右手に集まるは水の飛沫。

 凝縮し、形を変えたそれは聖なる水を自在に操りし聖剣の一振り。

 形状はレイピア。

 突きの構えに合わせて、俺の背後に巨大な水の針が無数に展開される。


「悪いな。こっちも仕事なんだ」


 突くと同時に背後の針も発射され、ウルフたちの胴体を貫く。

 超圧縮された水の針は鋼鉄すら貫く威力を持っている。

 ウルフの身体を貫くなんてわけない。

 

「ふぅ、これで一つ目はクリアか」


 この調子でどんどん狩って行こう。

 恨みはないが、魔物は危険だからな。

 倒すのに一切の躊躇はない。


「さて、アスタロトは大丈夫かな」


 任せろとは言っていたが、採取系のクエストは土地勘がないと難しい。

 年を重ねているだけ知識はあっても、初めての場所は迷うだろ。

 

「まぁ大丈夫か。あいつがやれるって言ったんだ。できるんだろ」


 彼女は元魔王。

 ハッタリは言わない。


  ◇◇◇


 エレンと別れたアスタロトも森の中にいる。

 薄暗く肉眼では物探しなど不可能。

 しかし彼女は人ではない。

 彼女の元に魔物たちが集まってくる。


「ワシの命令に従え、従僕どもよ」


 たった一言で魔物たちは服従した。

 彼女の言葉には力がある。

 比喩ではく、言葉には魔力が籠っているのだ。

 故に魔物たちは悟る。

 大いなる存在に逆らうことは許されないと。


「今からワシがいう物を探してもってくるのじゃ。それが終われば、この森にいるもう一人のところへ行け。そして殺されるんじゃ」


 誰も意を返さない。

 否、言葉を発せないからではない。

 仮に人語を話せたとしても、彼らは従うだろう。

 逆らえばその場で死ぬ。

 逃げても死ぬ。

 この地に彼女たちが踏み入った時点で、自らの終わりは確定したのだから。


「楽チンじゃのう~ むぅ、これなら二手に分かれる必要はなかったのう」


 今さら気づいたアスタロトは、楽しそうに笑みを浮かべる。


「まぁよいか。さて、勝ったら何を要求しようかのう。いや、あえて負けてあ奴が何を要求するか楽しむのもありじゃな」


 クスクスと笑いながら夜の森で一人楽しそうに想像する。

 一体誰が信じようか。

 この少女こそ、人類を震え上がらせた魔王であると。

 

  ◇◇◇


 時間はあっという間に経過する。

 東の空が僅かに白んできて、朝の訪れを感じさせる頃。

 森の出口に二人が集まる。


「アスタロト」

「なんじゃ主もか。同時では引き分けかのう」


 ほぼ同じタイミングでクエストを終えた。

 俺の手には魔物から採取した素材の入った袋が、彼女の背後には採取した素材を運ぶ魔物の姿がある。

 なるほど、魔物の手を借りたのか。

 その様子を見て納得した。


「引き分けの場合はどうするんだ?」

「そうじゃの。互いに要求をすればよいのではいか? 命令ではなく願い程度のものを」

「そうだな。じゃあ俺からは、今後何かするときはまず俺にも相談してくれ。今回みたいに勝手に決められると困る」

「うむ、そうしよう」


 彼女はあっさりと了承した。

 この約束にどれだけの効力があるのか疑問だが、一先ず信じることにする。


「アスタロトのほうは?」

「そうじゃのう。なら、ワシらの関係を聞かれた時は夫婦と答えるのじゃ。いつどこでも、誰に問われても……じゃ」


 そう言った彼女の表情は、いつになく柔らかく優しい。

 からかっているわけでもなく真剣な目をしている。


「わかった。そうするよ」

「うむ」


 意図はわからないが、彼女がそう望むならそうしよう。

 俺たちはもう、運命共同体みたいなものだからな。


「じゃあ行くか」

「そうじゃのう。腹が減ったわい」


 俺たちは帰還する。

 

  ◇◇◇


 早朝。

 冒険者ギルドに男たちがやってくる。

 ニヤニヤと笑いながら、二人の話をする。


「楽しみだぜ~ どんな顔してんのかよぉ~」

「ああ、扉開けたら土下座してたりとかな? すみませんでしたーって!」


 会話を弾ませながらギルドへ入る。

 入った直後に違和感に気付く。

 受付嬢が彼らを見て、呆然とした顔をしていたから。


「な、なんだ? どうかしたのか?」

「み、皆さんこれを……」

「ん? これ……は!?」


 クエスト達成報告。

 素材は全て納品され、魔物の討伐も完了している。

 男たちは目を疑った。


「な、なんだこりゃ! どういうことだよ!」

「あ、朝早くにお二人が来られて、全てのクエストを終えられたんです。ほ、報酬もすでに受け取られて……」

「ば、馬鹿な……ありえねぇだろ」


 賭けに敗北したことより、眼前で起きた異様な光景に絶句する。

 一日どころか一晩で、三十九ものクエストを達成した。

 あきらかに異常なことは受付嬢も理解している。


「何者なんだよ……あいつらは」

「私も気になって尋ねたんです。そしたら一言だけ」


 ただの旅人ですよ。

 ただの夫婦じゃよ。


 そう答え、夜明けと共に去っていったそうだ。

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メイド雇ったら大嫌いなクラスメイトが来たのでVTuberデビューさせる~
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