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用済み勇者、捨てられたのでスローライフな旅に出る ~勇者はやめても善行はやめられないみたいです~  作者: 日之影ソラ


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14/20

14.この勝負、伸るか反るか

 俺は男の手首を掴む。

 あと数秒遅れていたら、その手は彼女に触れていた……。

 いいや、触れる前に止まっていただろう。


「勘違いするなよ。旦那様はワシを助けたわけじゃない。お前さんを助けたんじゃ」

「は? 何言って――っ!?」


 この期に及んでアスタロトに手を伸ばそうと男の手に力が入った。

 だから俺は彼を引き留めるために手に力を込める。

 ギシギシときしむ音がするくらい。


「っ、く、は、放しやがれ!」


 我慢の限界がきたのだろう。

 男は無理やり俺の手を振りほどこうと腕を上下に振った。

 それに合わせて手を解放してあげた。

 俺が掴んでいた箇所は、くっきりと指の跡が残っているようだ。


「て、てめぇ……」


 男が俺を睨む。

 俺は何も言わず、ただニコッと笑顔を見せた。


「わかったじゃろ? お前さんらでは釣り合わんのじゃ」

「くそっ、覚えてやがれ」


 お決まりの捨て台詞を吐いて俺たちの前から立ち去ろうとする。

 ようやく静かになったと安堵しかけた時、アスタトロが不穏な笑みを浮かべていることに気付く。

 楽しそうではあるが、明らかによくないことを考えている顔だ。


「アス――」

「じゃが! ワシらも困っておるのは事実じゃ」


 俺の声を遮って、アスタロトは部屋中に聞こえる声量で語り出す。

 食事をしていた人たちを含むほぼ全員の視線が、一斉にギロっとこちらに向いたのがわかった。


「ワシらは早く金がほしくてのう。じゃが冒険者になりたてでは金の入るクエストは受けられんという。非常に困るのう」

「はっ、だからどうした? 俺たちの誘いを断っておいて、今さらお願いしますなんて言うつもりかよ」

「無論そんなつもりはない。腐ってもお前さんらの施しは受けんよ。じゃが、こういうのならどうじゃ?」


 アスタトロは人差し指をピンとたて、意味深に男たちを見る。

 これ以上は絶対によくないことになる。

 そんな予感がする。

 止めたいところだが、こいつ……。


 魔法で俺の口を塞いでいる。


 くそっ!

 エクスカリバーを返却して俺の退魔力が低下しているせいか。

 こんなところで魔王の片鱗を見せなくていいだろ!


「ワシらと、この場にいる者たち全員で賭けをしようではないか。お前さんらのクエストを全てワシらが代行する。一日じゃ、一日で全て終わらせてやろう」

「……は? 何言ってやがる? ここにどれだけの人数いると思ってるんだ。それを一日で?」

「だから賭けなんじゃ。ワシらが勝てば、金は全てもらおう。負けた場合は、ワシらを好きにすればいい。売るなり捨てるなり……奴隷にするなり、じゃ。ワシの身体も好きに使えばよい」


 アスタロトはあえて誘惑するような手つきで自分の身体に触れる。

 妖艶な彼女の誘惑に、盛んな男たちが反応しないはずもない。


「どうじゃ? お前さんらに有利な賭けじゃろう?」

「……負けたら俺たちの言いなりになるってことだな」

「そうじゃ」

「二言はないよなぁ?」


 この瞬間、男たちの命運は決した。

 ただしまだ、唯一異を唱える者が一人いる。


「待ってください! そのようなことを勝手に――」

「構わんじゃろ? 刻限は定めた。あとはワシらが勝手にやる」

「あ……え……はい」


 その唯一も陥落し、この場を彼女が支配する。

 こうなってしまえばもはや止めることはできない。

 俺も諦めよう。


「というわけじゃ、我が旦那様よ」

「はぁ……お前、魔法で受付嬢を操ったな」

「ちょっとした精神干渉じゃ。大した害はないから安心せい」

「そういうことじゃないんだけどな」


 心からやれやれと首を振る。

 こんな方法、俺にはわずかにも思いつかなかった。

 さすが元魔王というべきか。

 大衆の心理を掴み、容易く操ってしまうなんて。


「悪行だぞ、これは」

「ワシはそうは思わんがな。主がやりたくないなら一人でやるぞ」

「やりたくないとは言ってない。俺も、ちょっとムカついてたからな」

「ほう、何にじゃ?」


 彼女の問いに、俺は気の抜けた笑いで答える。


「自分に、だよ」


 俺は彼らのために戦った。

 彼らがこうなってしまったのは、きっと俺のせいでもある。

 だからムカついた。


「賭けに参加する者は今すぐクエストを受けてくれて構わない。いくつでも、歓迎だ」

「はっ、気前がいいじゃねーか。後悔するんじゃねーぞ」

「しないさ。俺たちは強いからね。乾坤一擲、いざ勝負といこうか」

「よく言ったのう。それでこそじゃ」


 勝てば大金、負ければ底辺。

 人生をかけた大博打。

 この大一番、伸るか反るかで命運が決まる。

 ただし、それは普通なら……だ。

 自分でいうのもなんだが、俺たちは普通とはかけ離れている。


 十数分後――


 俺たちはクエストを受け取り、冒険者ギルドを出発した。

 時刻は夕暮れ時に差し掛かっている。

 刻限は明日の同時刻。

 それまでに、ここにある三十九のクエストを達成する必要がある。


「思ったより集まったのう」

「ああ、それに狙い通りだな」

「うむ。最低でもCランク以上のクエストばかりじゃな」


 彼らが俺たちに渡したのは、ほとんどが魔物討伐や危険な場所での採取クエストだった。

 失敗の可能性を増やすために、難易度の高いクエストを受けたのだろう。

 自分たちが負けると思っていないから、気兼ねなく選べたのかもしれないな。


「単純な思考過ぎて笑ってしまうのう」

「でも多い分面倒だぞ? 分担するか」

「そうじゃな。討伐関係のクエストは主に任せよう。それ以外はワシがやる」

「わかった。じゃあ任せる」


 担当を振り分け、大体半分ずつを並行して進めることにした。

 今の彼女は俺の精霊だが、魔力が尽きない限りどれだけ離れていても実体化は維持できるそうだ。

 

「一日と言ったがのう」

「わかってる。半日もあれば十分だ」

「うむ、せっかくじゃ。ワシらも勝負せんか? どっちが先に終わるか。負けたほうが勝った方のいうことを何でも一つ聞く」

「いいね。そういうのがあったほうが盛り上がる」

「かっかっかっ、主もノリがいいのう。では行くか」

「ああ」


 勝負開始だ。

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