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12.冒険者ギルドへようこそ!

 冒険者。

 一言で表すなら、なんでも屋だ。

 素材の採取、荷物の護衛、要人警護、魔物の討伐から子供のおもりまで。

 依頼があればなんども請け負う。

 元は未知の地域を開拓、調査することを主な仕事としていたが、時間経過と共に意味合いが変化し、なんでも屋としての印象が強くなっている。


「冒険者なら俺たちにぴったりだろ? なにせ誰でもなれる。素性のハッキリしない俺たちが働けるとしたらこれしかない」

「ふむ、要はやりたいことをやって金が貰えるというわけじゃな」

「そういうことだな」

「確かに適しておるな」

 

 アスタロトも納得してくれたようだし、さっそく中に入ろう。

 ギルドは冒険者たちを取りまとめる大本であり、大きな街には支部がある。

 この周囲の外観を気にしない独自の木造建築が、冒険者という職の自由さを象徴しているようだ。

 中に入ると正面に受付カウンター、左手に依頼が張り出されたクエストボード、そして右手には――


「姉ちゃん! こっちにも酒追加で頼むわ」

「はーい! ちょっと待っててね~」

「なんじゃ? ここは食べ物も売っておるのか?」

「みたいだな」


 どうやら飲食店も兼ねているようだ。

 冒険者らしい格好をした男たちが昼間からお酒を飲んでいる。

 この光景が冒険者らしい……のか。

 正直あまり関わってこなかったし、ギルドの建物に入るのも初めてでよくわからないな。


「とりあえず受付か」

「じゃの」


 俺たちは受付に向って歩く。

 なんだか妙に見られている気がするが……。

 まさか俺の正体に気付いて?


「おい見ろよ、ガキを連れてるぜ」

「新人か?」


 なるほど、注目されているのは隣にいる彼女のせいか。

 少女の姿でありながら堂々とした立ち振る舞いと、独特な雰囲気は見る者を魅了する。

 注目されてしまうのも無理はない。

 中にはいやらしい視線もあって、品のない声もチラホラ聞こえる。

 当の本人は、あまり気にしていなさそうだけど。


「いらっしゃいませ。お仕事をお探しですか?」

「はい。初めてなんですが、どうすれば仕事って受けられるんですか?」

「冒険者登録をすればお仕事は受けられますよ」

「じゃあお願いします。俺と、こいつの分も」


 俺は受付嬢にわかるように視線をアスタロトに向ける。

 彼女を見た受付嬢は、驚いたように目を見開き反応に困る。


「えっと、この子の分も登録するんですか?」

「ええ、何か問題でも?」

「いえ、その……失礼ですが妹さんでしょうか?」

「おい小娘。ワシがこやつの妹に見えるか? 言っておくがワシのほうがはるかに年上じゃぞ」

「え、え?」


 アスタロトの言葉に戸惑いを隠せない受付嬢を見て、俺はそっとアスタロトに耳打ちする。


「おい、ここは適当に合わせればいいだろ?」

「なんでじゃ? ワシらは兄妹ではなかろう?」

「じゃあどう説明するんだ? 逃亡中の元勇者と元魔王です、なんて言えないだろ?」

「ふむ、それもそうじゃのう。ならばちょうどいい関係性を主張せねばならんのか」


 ふむふむと彼女は頷きながら考えている。

 この間も受付嬢は俺たちを訝しむように見ていた。

 冒険者に身分は関係ないと言っても、あからさまに怪しい場合は追い出されてしまうんじゃ……。

 

「よし!」


 アスタロトが何か思いついたらしい。


「受付の娘よ。ワシらは兄妹ではない」

「は、はい。では失礼ですが、どのようなご関係で……」

「うむ、ワシらは夫婦じゃ」

「ぶっ!」


 予想の斜め上をいく返答に、思わず俺が吹き出してしまった。

 受付嬢も驚きを隠せない様子だ。

 まさか夫婦だなんで、仮に街頭を歩く人たち百人に聞いても、一人もわからないだろうな。


「ご、ご夫婦だったのですか?」


 受付嬢は確かめるように俺に返答を求めてくる。

 ここで違いますと答えたら事態は余計面倒になるだろう。

 言いたくないが仕方がない。

 俺は心の中で盛大に諦めのため息をこぼす。


「そうです。彼女は俺の妻です」

「あ、あー……はい。わかりました」


 一体何がわかったのだろうか。

 受付嬢の俺を見る目が冷ややかになったのはわかる。

 たぶん変態だと思われたな……これ。


「かっかっかっ、どうじゃ? 妙案じゃったろ?」

「お前……わざとだな」

「なんのことやら」

「あとで覚えてろよ」


 こいつ俺をからかって楽しんでるな。

性格の悪い魔王め。


「ではこちらに記入をお願いします」


 冷ややかな視線を向けながら受付嬢は用紙を二枚差し出す。

 冒険者登録用の情報を書く紙だった。

 名前や前職など細かくあるが、名前と冒険者になる目的以外は自由記入のようだ。


「名前……」


 そのままじゃまずいよな。


「主よ。ワシの分も書いてくれ」

「わかった」


 適当に名前をつけるか。

 俺はエレンじゃなくてユーリに。

 アスタロトは……アスタルとかでいいか。

 冒険者になりたい理由は、お金がほしいから……と。


 書き終わった紙を受付嬢に提出すると、しばらくして登録証というものが発行される。

 名前と冒険者の紋章が描かれた簡易的なカードだ。

 これを持っていれば、世界各地のギルドで仕事が受けられるという。


「登録は完了いたしました。ようこそ冒険者ギルドで、お二人の活躍をご期待しております」


 こうして俺たちは冒険者となった。

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