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1.勇者、死す

アルファポリス様で続編を投稿することにしましたので、続きが気になる方はそちらをご利用ください。


https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/702653381

 王都中から歓声が沸き起こる。

 人々は安堵した。

 恐怖で眠れぬ夜の終わりを感じて。

 人々は歓喜した。

 もう枕を濡らす必要はないのだと。


「勇者エレン・ワインバーグ、よくぞ世界を救ってくれた」


 国王の前で膝をつく男はゆっくりと顔をあげる。

 その表情は穏やかで、誇らしくもなく、威厳に満ちてもおらず。

 ただ、どこにでもいる青年としての顔で……。


「私一人の力ではありません。仲間がいてくれたから生き抜くことができました。皆さんが我々を信じてくれたから、勝利することができたのです」

「うむ。その言葉、そなたは清々しいほどに勇者よな」

「勇者様ばんざーい!」

「エレン様ばんざあーい!!」


 歓声はより大きく広がっていく。

 人間と魔族、勇者と魔王、長きにわたる因縁が今、ようやく幕を下ろした。

 

  ◇◇◇


 平和の訪れた王都では連日連夜お祭り騒ぎが続いていた。

 人々は浮かれている。

 だが、それも悪くはない。

 やっと手に入れた平和なんだ。

 今くらい、心の底から全身全霊で満喫すればいい。


 俺は扉を開け、用意してもらった部屋に入る。

 暗い部屋で明かりもつけず、そのまま亡霊のようにとぼとぼ歩き、倒れるようにベッドに寝転がる。


「はぁ……疲れた」


 仰向けになり天井を見上げる。

 俺が勇者に選ばれたのは三年前のことだった。

 田舎で両親と細々とした生活をしているところに、突然王都から使いがやってきた。

 驚きはしたが、勇者に選ばれたという話に疑いはなかった。

 そういう予感は幼いころからあったんだ。

 知らない誰かの声を聞いたこともある。

 だから自分でも驚くほどあっさりと順応して、仲間と共に魔王討伐の旅にでた。

 旅の中、多くのことを経験した。

 人々の苦しみ、悲しみ、絶望を目の当たりして、己の正義をより強固にして。

 か弱き者たちを守るため、その力の全てを使おうと誓った。


 辛く苦しい旅だった。

 傷つくのは力なき者たちだけじゃない。

 共に戦う仲間も傷つき、時には生死の境を彷徨った。

 俺は欲張りだから、全部を救おうとして、苦い経験もたくさんした。

 誰かが傷ついてしまうくらいなら、俺が全て引き受けたかった。

 そんな無鉄砲な俺を、仲間たちは優しく支えてくれた。

 彼らは俺の誇りだ。

 彼らが一緒にいてくれたから、俺は今日も生きている。

 この命は俺の物だけど、彼らが守ってくれた宝物でもある。


「楽しかったなぁ……」


 そう、楽しかったんだ。

 大変な旅も、彼らと一緒なら楽しいと思えた。

 不謹慎と言われようと、ここだけは譲れない。

 俺にとってこの三年間は、黄金色に輝く永遠の宝物だ。


「終わったんだ……な」


 全身の力が抜けていく。

 俺はもう役割を終えた。

 勇者として戦うことはなくなった。

 世界は平和になったんだ。

 だからもう、いい加減休んでもいいだろう?

 人々が心から安心して眠れた日がないように。

 俺もまた、安眠からは程遠い生活を送っていたんだから。


 ――よい。

 ――今は休め。


 心の中で誰かが俺にそう言ってくれた。

 おかげで僅かに張りつめていた緊張の糸も和らいで、ゆっくりと眠りに落ちていく。

 幾年ぶりの安らかな眠りに。


  ◇◇◇


 静かな部屋。

 開けたはずのない窓から夜風が吹き抜ける。

 心地いい風が、一瞬だけ止む。


 コトン。


 足音が一つ……いや、二つ。

 窓からやってきた気配に気づいて、俺は深い眠りから目覚める。


「……誰だ?」


 二人が窓を背に立っている。

 ローブを身に纏い顔を隠し、男か女かもわからない。

 一つわかるのは、只者ではないということ。

 おそらく人間だ。

 魔族特有の雰囲気は感じない。

 そもそもここは人間の国、強力な結界に守られていて魔族が立ち入ることはできない。


「こんな夜遅くになんの用ですか? そんな……」


 俺は視線を彼らの手元に向ける。

 二人は片手にナイフを持っていた。


「危ないものを持って」


 二人が同時にナイフを構える。

 もはや疑いようはない。

 俺を殺すためにここへやってきたことは。


「はぁ……」


 俺は小さくため息をこぼす。

 理由はどうあれ、俺を快く思わない者がいることに?

 違うな。

 ただ、呆れてしまったんだ。

 せっかく平和になったのに、みんな楽しそうにしているのに。

 そんな日々を簡単に壊そうとする誰かがいることが。

 結局、本当の平和なんてまやかしなのかもしれない。

 世界には争いがつきもので、完全になくすことはできないのだろう。

 

「お前の……言う通りだったな。魔王」


 背後からもう一人が迫る。

 俺は気づいていた。

 正面の二人が囮であり、本命は気配を完全に消していたもう一人であることを。

 わかった上で――


「ぐっ……」


 避けなかった。

 毒が塗られたナイフが深々と心臓を貫く。

 旅の中で何度も味わった傷の痛み。

 慣れこそしなくても、耐えられるようにはなっていた。

 はずだった……。


 だけどこれは、耐えられそうにないな。


「申し訳ありません。勇者様……これも命令なのです」

「……ああ、わかっているよ」


 俺を刺した男が涙を流しながら、倒れ込む俺を支えている。

 異様な光景だ。

 だが、わかっていたよ。

 彼らの意思ではないことくらい。

 だって最初から、彼らには殺意が感じられなかった。

 彼らから感じられた感情は、哀しみだけだった。


 こうして、勇者エレンは死んだ。

新作投稿しました!

タイトルは――


『メイド雇ったら大嫌いなクラスメイトが来たのでVTuberデビューさせる』


ページ下部にもリンクを用意してありますので、ぜひぜひ読んでみてください!

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メイド雇ったら大嫌いなクラスメイトが来たのでVTuberデビューさせる~
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