7-17
◆ゼクス近くの草原
敵本陣の天幕の中。
私は敵総大将のハタドさん目掛けて飛びかかろうと地を蹴りました。
「はっ!!」
「くっ!!」
そんな私の行く手を阻むように周りの騎士が槍を突き出します。
それを回避するために足を止めます。
「やらせません!!」
2撃目、3撃目の攻撃が飛んできます。
私はそれを回避します。
しかし、敵に近寄ることはできません。
敵の数が多く回避するのに必死です。
「どうした?私を殺すのではないのか?」
ハタドさんが私を嘲笑いながら呟きます。
「くっ!!黙っていてください!!」
私は強がってそう口にしました。
しかし、一向にハタドさんに攻撃は届きません。
これは一度落ち着く必要があります。
私はハタドさんから距離をとりました。
そんな私を追うようにして騎士たちが集まります。
「っつ!!」
私は手近な騎士に向けてナイフを突き立てました。
不意を突いたその攻撃を見て騎士は大きくのけぞります。
私はそれを見て追撃をしようとさらに1歩踏み出します。
その瞬間、別の騎士から槍が飛んできました。
私は大きく飛びのきます。
駄目です。
騎士を狙おうとも数が多くて攻撃が届きません。
相手は槍や剣を使っているのにこちらはナイフを使っています。
間合いが違いすぎます。
しかし、それでも諦めるわけにはいかないのです。
私は再び足を動かして敵をかく乱します。
チャンスは必ず来ます。
その時まで耐え忍ぶのみです。
数秒、数十秒私は敵の攻撃を避けることに集中していました。
そんな時でした。
「くっ!!」
「しまった!!」
狭い天幕の中を縦横無尽に動く私を追って騎士たちの動きが悪くなりました。
この瞬間を待っていました。
私はすぐ近くにいる騎士に近寄りました。
槍の間合いの内側に入り込み私は力いっぱいナイフを振るいます。
その攻撃は鎧の隙間を突き、騎士の喉を切り裂きました。
鮮血が宙に舞います。
私はそれを眺めながら次の攻撃を振るいます。
返す刀で放たれたその攻撃も敵の喉元のを切り裂きます。
見るからに致命傷です。
数舜ののちに騎士は倒れ伏して光の欠片へと姿を変えます。
ここで私は止まりません。
すぐさま近くの騎士に接敵すると再びナイフを振るいます。
その騎士は槍を立てて攻撃をしのごうとします。
しかし、近づききってしまえば反撃はありません。
私は落ち着いて2撃目、3撃目と攻撃を振るい続けます。
その騎士は防ぎきれない攻撃を前に傷を増やしていきます。
それを見て周りの騎士がフォローに回ろうとしますが騎士と私の距離が近く効果的な行動をとることができません。
そうこうしている間に騎士のHPを削り切りました。
光りの欠片となって消えていく騎士を前にして他の騎士達に動揺が走ります。
しかし、それも一瞬です。
「くっ!!」
私は彼らの動揺をついてハタドさんに近づこうとしますが阻まれてしまいました。
2人減らしたとは言え未だ彼らの方が数は多いです。
私は再び騎士から逃げ延びようと走り回ることを強いられました。
「これ以上好きにできると思うなよ!!」
騎士の攻撃は先ほどよりも勢いを増しています。
その攻撃を前に私は少しずつ逃げ場を失っていきます。
―キンッ
正面の騎士の槍をナイフで逸らした次の瞬間………。
「!!」
その奥からさらにもう一人の騎士が槍を突き出してきました。
咄嗟のことで避けることができません。
その槍は私の胸に深々と刺さり貫通します。
それだけで終わりません。
前後左右からさらに騎士が殺到します。
彼らは手に槍を構え一様に私に向けてその槍を突き出してきます。
合計5本の槍撃を身に受けて私の足が止まります。
それを見て騎士は勝利を確信したかのような表情をします。
「我々の勝利だ!!」
騎士の1人がそう叫びました。
私はそんな彼らを見回し笑みを浮かべます。
この程度で勝利を確信されるとはおめでたい頭をしているようですね。
もういいです。
本気を出しましょう。
一向に動きを見せない私に騎士たちは怪訝そうな表情を向けます。
そんな彼らを置いておき私は本来の戦い方をとることを決意するのです。
―シュン………ぐちゃ
私の周りにいる騎士の1人から頭部が消えました。
その様子を見て他の騎士はポカンとした表情を見せます。
理解できないのでしょう。
しかし、そんな彼らに真実を告げるかのようにその騎士は倒れ伏し光となって消えていきます。
―シュン………ぐちゃ
再び空気を切るような音とともに1人の騎士の頭が消えます。
事ここに行ったって騎士たちは私が何かをしたのだと思い至ったようです。
私の体からは玉虫色をした触手が生えていました。
それを見て騎士たちの表情に恐怖の色が灯ります。
「あ、あ、うぁあああああああああああああああ!!」
未だ離れた場所にいた騎士が槍をもって私に攻撃してきます。
私は彼らの攻撃をすべて体で受け止めます。
しかし、大したダメージはありません。
私は人型の体から元の不定形の体へと姿を変えます。
それを見てますます顔を青くする騎士たちを後目に見ながら私は手近な騎士を飲み込みます。
「な、なんでだ!!対策は万全ではないのか!?」
ハタドさんがそう叫びました。
その言葉の真意は知りません。
私は彼の言葉を無視して天幕内に地獄を作ります。
次々と騎士たちを飲み込み捻り潰し、時に押し潰し、時に触手を振るって攻撃します。
騎士たちを殺しつくすのに時間はかかりませんでした。
今では天幕の中には私とハタドさんだけとなりました。
私は再び人型の姿をとってハタドさんに近づきます。
少女の姿をとった私を青ざめた表情で見つめるハタドさんを見ながら私は口を開きました。
「もう一度聞きます。降伏しませんか?」
私のその言葉を聞いてハタドさんはたじろぎます。
きっと彼も気が付いているのでしょう。
この状況ではもう私に勝つことなどできないことを………。
彼は歯を食いしばりながら顔を赤くしていきます。
そして意を決したようにして口を開きました。
「なめるなよ小娘!!この程度でアルベルツ王国が負けを認めることは無い!!」
ハタドさんはそう言うと剣を構えます。
ここまで来ても戦うつもりのようです。
私はため息を吐きながら彼を見つめます。
剣を振りかぶり今にも切りかかろうとする彼を眺めながら私は腕を触手に変えて振るいました。
その攻撃はハタドさんの頭部を奪います。
ゆっくりと力なく倒れ伏したハタドさんは遂には光の欠片となって虚空へと消えていきます。
その瞬間システムメッセージが届きました。
<「アルベルツ王国」との戦争に勝利しました。>
無機質なそのメッセージを眺めながら私は戦争の終わりを実感していました。
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アルベルツ王国との戦争は終わり私たちはゼクスの町へと帰ってきました。
町では大々的に祝勝会を開いています。
中央広場では多くの食事とお酒が振舞われています。
戦争に参加したプレイヤーの皆はもちろん、数少ない町の人たちもこの祝勝会に参加してくれています。
私はそんな皆を眺めながら広場の端で果実水を呑んでいました。
「リンさん。」
そんな私にハーロウさんが話しかけてきました。
彼も手にはお酒をもっている様です。
どうでもいいですがアンデッドも食事はとれるのでしょうか?
そんな疑問を頭の隅に浮かべながら私は聞き返します。
「何ですか?」
「戦争に勝利したことで多くの金銭とアイテムを手に入れることができました。後程確認をお願いいします。」
「はい、わかりました。」
戦争では領地を巡って攻撃側と防衛側に分かれて行われます。
攻撃側が勝利した場合はその領地を奪うことができ、防衛側が勝利した場合は金銭とアイテムを手に入れることができます。
今回のアルベルツ王国との戦争は私たちは防衛側でした。
そのため、ハーロウさんの言う通り私たちは今回の戦争で多くの金銭とアイテムを得ることになりました。
現状、アルカディアは他の国と交流があるわけではありません。
必要なものは国内で作れるように準備しています。
そのため多くの金銭は必要とはしていません。
だからこそ今回の戦争で得られるものはアイテムを多めにしました。
軽く目を通しましたが高位の武具はもちろん魔導書や生産に使える貴重な素材など色々なアイテムを手に入れることができました。
それ以外にも戦場で手に入れた敵兵の装備なども私たちのものです。
これだけの素材があればより強い軍隊を作り出すことができます。
そうすればもうアルベルツ王国も攻めてこようなどとすることは無いでしょう。
ようやく平和がやってくるのです。
そのことは素直に嬉しく思います。
私はつかみ取った平和に幸福を感じながら静かに宴を眺めていました。
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