7-16
◆ゼクス近くの草原
―ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
ハーロウさんが切り札と言っていたそれは前線を吹き飛ばしました。
その威力はすさまじく敵味方関係なしに前線中央に穴をあける程の威力でした。
私たちはそれを見て唖然としていました。
いえ、私たちだけではありません。
敵軍もその魔法を見て動きが止まっています。
現在、戦場で動けているのは感情の無いアンデッド兵だけです。
今この瞬間はアルカディア軍が優勢です。
しかし、その状態も長くは続かないでしょう。
だからこそ今動くべきなのです。
それに気が付いていたのは私だけではありませんでした。
「うおぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ラインハルトさんがプレイヤー部隊を率いて戦場に躍り出ました。
その勢いは激しく突出していた敵部隊を飲み込んで前線まで一息でたどり着きました。
数が少ないのを補って余りある士気の高さです。
だからこそプレイヤー部隊は前線で数多くの敵兵を倒していきます。
その中には敵プレイヤーも含まれます。
私たちアルカディア軍に所属するプレイヤーも前線プレイヤーに負けず劣らずの力を持っていることが証明されました。
この勢いを引き継ぎます。
私たちも彼らに続いて戦場へと向かうべきなのでしょう。
「アキ、ユキナさん、行きましょう。」
「うん。」
「分かっているのじゃ。」
私の言葉にアキとユキナさんが色よい返事を返してくれました。
それを受けて私たちも戦場へと向かいます。
目標は敵本陣にいる総大将です。
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「このやろぉおおおおお!!」
「やられてたまるかぁあああああああああああああああ!!」
「しねぇええええええええええええ!!」
前線では罵詈雑言が飛び交っていました。
私たちはそれを耳に入れながらその場を突破しようと走ります。
ハーロウさんの放った切り札とプレイヤー部隊の働きで前線中央には大きな道ができています。
私たちはそこを走って敵軍の本陣に向かいます。
「む!!」
「おおっと!!」
しかし、まったく戦闘なしで突破できるものではありませんでした。
敵も私たちの動きが見えているのか私たちの動きを阻むために接敵するものもいました。
「先にはいかせないぞ!!」
私の目の前にもメイスを構えた戦士が立ちはだかりました。
私も彼に合わせてナイフを構えます。
「ふん!!」
大ぶりのメイスを避けて彼の背面に回ります。
そしてその喉元にナイフを突き立て切り裂きます。
大量の血を流しながら私を睨みつける戦士と距離をとりながらナイフに付いた血を払います。
「ぐぬぬ。」
戦士は傷口を抑えながら私のことを睨みます。
私はそれを涼しい顔で眺めていました。
さてどうしましょうか?
このまま眺めていても傷痍系の状態異常で敵は倒せるでしょう。
しかし、ここで時間を使うのはよくない気がします。
「おーわりっ!!」
「これでとどめじゃ!!」
アキとユキナさんも目の前の敵兵を倒したようです。
私も止めを刺しましょう。
私は一足で敵の目の前まで行きました。
それに驚いた戦士は手に持ったメイスを力いっぱい振るいます。
私は屈んでそれを回避しました。
飛びかかるようにして戦士の顔目掛けてナイフを突き出します。
戦士はそれに驚きながら後ろに下がるが私はさらに1歩踏み出してナイフを振ります。
「くっ!!」
戦士の顔に一筋の疵痕が走ります。
それで手を止めたりはしません。
私は怯む戦士を後目に素早く彼の後ろに回ります。
そして先ほどと同じように喉元目掛けてナイフを突き刺しました。
赤い鮮血を散らしながら戦士が地面へと倒れ伏します。
その直後、光の欠片となって虚空へと消えていきました。
私はそれを眺めながらナイフをしまいます。
「先を急ぎましょう。」
アキとユキナさんに向き直りそう言いました。
2人は頷いてそれに従います。
私を先頭に3人で再び走り始めました。
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度重なる戦闘を繰り返し私たちはついに敵本陣の目の前にたどり着きました。
「これ以上先に行かせるな!!」
「皆奮起せよ!!」
「うぉおおおおおおおおおおおおお!!」
数多くの敵兵が私たちの行く手を阻みます。
その勢いは凄まじく本陣はすぐ目と鼻の先にあるというのに一向に進めません。
「この!!!!」
「っつ!!」
アキとユキナさんも一緒になって敵兵を倒していきます。
しかし、敵兵は後方から次々とやってきます。
このままでは物量に押しつぶされてしまいかねません。
「ここで足止めを受けていても良いことは無いのじゃ!!」
「そうだね!リン!私とユキナでここは抑えるからリンは先に行って!!」
アキの言葉を聞いて私は彼女たちの表情を見返します。
苦しそうではありましたが決して悲観しているわけではないようです。
「分かった!!」
だからこそ私は彼女たちの言葉に従うことに戸惑いはありませんでした。
「ここは任せたよ!!」
私は一言彼女たちにそう言うと1人本陣へ向かって走りだしました。
それを邪魔しようとする敵兵は多いです。
彼らを避けながら本陣に向かって一直線に向かいます。
敵本陣の天幕の中には10人程の騎士とひと際豪奢な鎧に身を包んだ男がいました。
「来たか。」
その男は静かにそう言いました。
「あなたが総大将ですね?」
「まさしく。私がゼクス解放軍の総大将イラリド=ハタドだ。」
「ご丁寧にありがとうございます。これは私も名乗り返したほうがいいのでしょうね。私はアルカディア軍の総大将リンと言います。」
「なんと!!お前のような小娘が総大将か!?」
私の名乗りに天幕の中がざわめきます。
それは彼が行ったように総大将が私のような小娘であるという驚きと総大将が敵本陣まで吶喊しているのだという驚きが合わさって起きたものでした。
「総大将がこうして目の前にいるのは都合がいい。リンと言ったな?降伏しろ。」
「お断りします。あなた方の要求はとても受け入れることのできるものではありません。私たちが降伏することは決してありません。」
「そうか………。」
私の返答にハタドさんは顔を伏せます。
私はそんな彼を見ながら口を開きました。
「私の方からも1つ良いですか?」
「なんだ?」
「降伏してください。」
それを聞いたハタドさんは驚きともとれる表情を見せました。
何をそんなに驚くことがあるのでしょうか?
こうして声が届く距離にあるならばその要求は当然です。
彼だってつい先ほどそうしたのですから驚くことは無いでしょう。
私がそんな疑問を頭に浮かべていると彼は口を開きました。
「できぬ。いや、する必要が無いというべきかな。」
「それはどういう意味ですか?」
「今は我々の方が優勢だ。先ほどの大魔法には驚かされたが2発目が無いところを見るにそう何度も使える手ではないのだろう?ならば兵力の差で勝るこちらが勝利する。」
「確かに単純な兵士の数では私たちが負けています。しかし、こうして総大将の目の前に私がいる時点で私たちの方が優勢とは取れませんか?」
「ないな。返すようだが兵力の差は歴然だ。この天幕の中に限ってもそれは同じだ。私たちとお前では勝負にならない。」
ハタドさんがそう言うと10人程の騎士が武器を構えました。
私はそれを見回してため息を吐きます。
いつもそうです。
話し合いで解決しようとしてできたためしがありません。
だからこそ私もナイフを取り出して彼らを見回します。
確かに強そうな騎士たちです。
きっと敵軍の精鋭たちなのでしょう。
しかし、負ける気がしません。
「もう、これで決着をつけるしかないのですね?」
私は手元のナイフを振るってそう言いました。
「ああ、互いに剣の届く距離にいるのだ。これで決着としよう。」
ハタドさんも剣を抜き放ちそう言いました。
私は彼の動きを見て驚きます。
総大将と言うからてっきりただの権力者なのだと思っていました。
しかし、ハタドさんから感じられる威圧感は周りの騎士たちから感じるものとそん色ありません。
きっと彼も強いのでしょう。
しかし、だからどうだというのでしょうか?
私には関係ありません。
敵がどれだけ強いと言っても勝つだけです。
私たちに負けは許されないのですから。
私はナイフを構えて口を開きます。
「では、尋常に………行きます!!」
私はそう口にして地面を蹴りました。
今ここに最後の戦いが始まったのです。
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