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7-13


◆ゼクス近くの草原


私たちはゼクスから1日ほどの位置にある草原に来ていました。

目的は当然アルベルツ王国との戦争のためです。

眼前には9万のアンデッド、悪魔の軍隊が広がっています。

遠く見渡せばそれに対峙する10万のアルベルツ王国軍の姿も見えます。

それを眺め私はついに始まるのだという緊張を感じます。


今回の戦争でアルカディア軍の総大将は私ですが、全軍の指揮はハーロウさんに任せています。

私にはそのようなことはできませんから仕方ありません。

適材適所です。

ハーロウさんは先ほどから私たち主要メンバーや集まったプレイヤー軍に指示を飛ばしています。

私も何か手伝えないでしょうか?

そんなことを考え私は彼に近寄り話しかけました。


「ハーロウさん。」


「はい?ああ、リンさんでしたか。どうかしましたか?」


「はい。何か手伝うことはありますか?」


「いえ、今のところはは大丈夫です。」


「そうですか。」


そう言うハーロウさんの表情に焦りの色は見えません。

本当に今は余裕があるように見えました。

だからこそ少し雑談をしようと思い私は再び口を開きます。


「敵軍を目の前にして分かったことはありませんか?」


「そうですね。遠目に見ただけですが敵軍は当初の予定通り10万ほどの軍勢です。プレイヤーの数も向こうの方が多いみたいですね。」


「やはりそうですか。」


「はい。しかし、あまり悲観するような差ではありませんよ。」


「それは良かったです。」


ハーロウさんの説明を聞いて私は胸を撫でおろしました。


「しかし、少し気がかりな部分もあります。」


「何ですか?」


「敵後方に待機している軍隊に見慣れぬ一団がいるのです。あの部隊がどのような働きをするかはわかりません。もしも、こちらの軍隊の情報を事前に入手していた敵が用意した部隊ならば危険かもしれません。」


ハーロウさんの説明を聞いて私は再び緊張を覚えるのでした。

どのような部隊なのかは私にもわかりません。

その部隊が戦場に現れたときは注意が必要です。

それを念頭に置いておいた方が良いかもしれません。


「気がかりついでにもう1つ注意が必要なことがあります。一応リンさんも知っておいてください。」


「はい、何でしょうか?」


「現状敵軍は大きく4つに分かれています。敵中央軍、左翼軍、右翼軍、そして後方の予備部隊。中央、左翼、右翼はそれぞれ3万、後方部隊は1万程です。これに対して私たちの軍も中央、左翼、右翼にそれぞれ3万を割り振っています。」


「はい。ここから見たところ敵との差は無いように思えます。」


「その通りです。前線では差はありません。しかし、敵に比べて後方の部隊が少ないのです。そのため、不測の事態に動かせる人数が少ないという危険性を孕んでいます。具体的にはプレイヤー部隊の1000が後方待機しています。」


後方部隊の必要性は以前のフュンフ防衛戦で嫌と言うほど味わいました。

その後方部隊が少ないというのは確かに心配です。

しかし、だからと言って前線の部隊を減らすわけにはいかないでしょう。

私は心配だという表情を隠さずにハーロウさんを見ました。


「あまり心配しなくても大丈夫ですよ。フュンフ防衛戦と違って敵の部隊が見えていないということはありません。有事の際には部隊をうまく動かして対処しますよ。」


「はい、お願いします。」


私は未だ心配な気持ちは拭えないまでもそう口にしていました。

しかし、いつまで心配していても仕方ありません。

気持ちを切り替えて私は次の問いを口にします。


「戦争で私の出番はいつになりますか?」


「リンさんは総大将なのですから基本的には戦場には出ないでください。」


「やっぱりそうですか?」


「はい。」


この戦争ルールでは総大将が討伐、撤退、降伏すると負けとなります。

そんなルールの中で私が前線に出ていくような事態は避けるべきでしょう。

ハーロウさんもそれは分かっているため私を抜きにした作戦を考えているはずです。

私がそんなことを考えているとハーロウさんが口を開きました。


「しかし、最終局面でこちらの陣地深くまで敵に攻められているような状況では前に出てもらうこともあるかもしれません。」


「そうなのですか?」


「はい。かなり最悪な状況ですがそのような場合は主力メンバーで敵本陣に吶喊するかもしれません。それだけは覚悟していてください。」


「はい。」


神妙な顔つきでそう言うハーロウさんには悪いですがそうなったらいいなと思う私がいました。

この戦争は私たちが起こした戦争です。

そんな戦争に私だけが何も手を出さずに、上でふんぞり返っているだけというのは嫌だったのです。

だからこそ私も戦える状況になることを祈っていました。


「ハーロウ、少しいいか?」


「はい?イヴァノエさんどうしましたか?」


私とハーロウさんが話を続けていると横かイヴァノエさんがやってきました。

何やら難しい表情でハーロウさんに話しかけています。


「あれについては作業を始めていいのか?」


「ああ、あれですね。リンさん、少し用事ができてしまいました。話は大丈夫でしょうか?」


「はい。大丈夫です。」


「それでは失礼します。」


ハーロウさんはそう言うとイヴァノエさんと共に離れていきました。


「あれについては作業を進めていただいて大丈夫です。場所は………。」


離れながら話している彼らの表情は何やら企んでいるようなものでした。

私はそれを不思議に思いながらも自軍の様子を見にその場を離れました。


--


戦争開始の直前。

私たちが待機する本陣に敵軍の使者がやってきました。

私が総大将ですと名乗ると彼は驚いたような表情をしました。

それも当然でしょう。

まさか総大将がこんな小娘とは思っていなかったに違いありません。

しかし、そんな驚きもすぐにしまい込み彼は懐から手紙を取り出しそれを読み上げました。


「ゼクスの町は我々アルベルツ王国のものである。汝らアルカディア軍は不当にゼクスの町を占拠しておりこれを許すことはできない。早急にゼクスの町を解放し汝らの退去を命じるものである。これに従えない場合は武力を行使することも辞さない。」


その口上は予想通りです。

結局は私たちにゼクスから出ていけという命令です。

そんなものに従うわけありません。


「ゼクスは私たちアルカディアのものです。それを武力をもって奪おうとしているあなたたちアルベルツ王国の行いは悪徳行為です。そんなものを許す私たちではありません。早急に軍隊を引きなさい。」


事ここに至っては全面戦争となることに躊躇いはありません。

だからこそ強気に私はそう口にしていました。


「後悔しますよ。」


「させてみてください。」


売り言葉に買い言葉。

私と使者の会話はそれで終わりました。

使者は踵を返して彼らの陣地へと戻っていきます。

私はそれを見つめながら緊張を感じていました。

遂に戦争が始まるのです。


--


使者が敵陣に帰って程なくした頃、敵軍に動きがありました。

ゆっくりとではありますが前線の部隊が進軍してきたのです。


「全軍、前進してください。」


それを見たハーロウさんが口を開きました。

私たちの軍隊も敵との距離を詰めるように前に進みます。

両軍はほどなくして攻撃の届く距離へと至りました。

まず初めに動き出したのは弓兵による攻撃です。

両軍に降り注ぐように幾千、幾万の矢が飛び交います。


それを見て前線の進軍速度が上がりました。

程なくして歩兵が切り結びます。

多くの人たちが死にその屍を越えてさらに軍隊が進んでいきます。

私たちはそれを離れた場所で見ていました。

一見して私たちの軍と敵軍は拮抗しているように見えます。


「しばらくは様子見ですね。」


ハーロウさんがそう呟きました。

私たちは緊張した面持ちで軍隊の行く末を見守りました。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 主人公が人型で参戦とか舐めプ過ぎでは?
[一言] 一話から最新話まで一気に読ませて頂きました。 とても面白くて読むのが止まりませんでした。
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