7-12 とある運営のお話6
◆リースリング・オンライン運営会社
>>Side:とあるゲーム開発者
「わくわくしますね。」
私の前で技術主任が言葉通り心躍らせながら画面を眺めている。
彼の眼には今まさに火ぶたが切られようとしている戦争の様子が映っている。
私はそれを見ながらため息を吐きたい気持ちを押し込めていた。
「主任、何がそんなに楽しいのですか?」
「これが楽しく無いわけがありません。平和な日本にいては戦争をまじかで見ることなどできません。それが剣と魔法のファンタジーならなおさらです。今まさにその戦争が起ころうとしているのですよ。何故、楽しくないなどと言えるのでしょうか?」
私は主任と同じようにゲームモニタリング用の画面に目を向けた。
そこでは主任の思惑通り戦争が起ころうとしていた。
どうしてこんなことになってしまったのか………。
私がそう黄昏ていると同僚が声をかけてきた。
「あんまり気にするなよ。」
「気にするなって言うのは難しいな………。」
この戦争は言ってしまえば運営の怠慢が招いたことだ。
度重なる魔物プレイヤーの迫害を見逃し、彼らの不満が爆発するのを静観していた。
それは運営に携わる一部の人たちの思惑があってのこと。
そうだとしても私は責任を感じずにはいられなかった。
幸いなことにプレイヤーの方からは大きな不満は上がってきていない。
むしろ、戦争を一種のイベントととらえて騒ぎ立てている。
それが唯一の救いだろう。
しかし、この戦争の行く末次第ではどうなるか分からない。
アルベルツ王国が勝利すればことの発端となった魔物プレイヤーは行き場を失うだろう。
アルベルツ王国が負ければより混沌とした様相を生み出すことになるだろう。
その時に運営はどう収拾をつけるべきなのだろうか?
私には見当もつかない。
だからこそ今から胃が痛い思いをしているのだ。
そんな私の気持ちは知らずに技術主任は笑みを浮かべながら画面を眺めていた。
「はー。」
私も諦めて今は静観するしかないのだろう。
事ここに至ってしまえば運営が手を出すことなどできない。
私は同僚に声をかけた。
「戦力差はどんな感じなんだ?」
「ん?ああ、アルベルツ王国側が10万に対してアルカディア側が9万で殆ど差はないな。」
「そうなると戦争の行く末は予想付かない感じか?」
「どうだろう………。アルカディア側の中心プレイヤーは強いやつらが集まっているからな。案外あっさりとアルカディア側が勝ってしまうかもしれない。」
確かにアルカディアを建国したクランには闘技大会の上位者が多い。
リースリングの世界の戦争がどのような様相になるかは私には分からないがその点が有利に運ぶようならばアルカディアの勝利は揺るがないだろう。
「一方でアルベルツ側は事前に情報を仕入れてアルカディア側の主要メンバーへの対策を講じている。例え強襲を行っても簡単には崩せないだろうな。」
「ほう。」
「さらにアルベルツ王国側は雇い入れているプレイヤーの人数が多い。アルカディア側は1000だがアルベルツ王国側は1万を超える。この辺が勝敗を分けることになればアルベルツ王国側が勝利するだろう。」
「そんなに差があるのか。」
プレイヤーと言っても玉石混合だから単純にその数で勝敗が決まることは無いとは思うがそれでも数が多いということはそれだけ強者がいる可能性が高くなる。
ならば、アルベルツ王国側の方がプレイヤーの質は高いと言えるだろう。
「他にもアルベルツ王国側が有利な点として考えられるのは軍隊の弱点だな。」
「弱点?」
「ああ、アルベルツ王国側は人間種の兵により軍隊を構成しているがアルカディア側はアンデッドと悪魔によって軍隊の大部分を構成している。これらの種族は弱点を持っている。その弱点を突かれることがあれば簡単に軍隊が瓦解してしまうだろうな。」
私は同僚に言われてアルカディアの陣営を確認した。
確かに彼の言う通り軍隊の殆どをアンデッドと悪魔で構成していた。
これでは………。
「アンデッドと悪魔の弱点と言うと聖属性か?」
「そうだな。」
「聖属性の攻撃ができるプレイヤーなんてそうはいないだろう?NPC側も聖属性を扱えるのは少なかったはずだ。」
「ああ。しかし、今回はその少ない聖属性の使い手が戦争に参加しているみたいだぞ。数は少ないが教会所属の神官戦士が従軍している。」
「そうなのか?」
私は次にアルベルツ王国側の陣営を確認した。
同僚の言う通り1万にも満たない数ではあったが神官戦士が従軍していた。
「総評するとアルベルツ王国側の方が優位か?」
「そう見てるよ。」
同僚の言葉を聞いて私はため息を吐く。
そして再び画面に視線を向ける。
戦争は今まさに始まろうとしていた。
>>Side:とあるゲーム開発者 End
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