7-8
◆ゼクス近くの森林
「そういえば………。」
アキと共にゼクス近くの森林で素材採取を続けていた私は唐突にそう話を切り出しました。
「私は状態異常に耐性があるけどアキは大丈夫なの?」
「ん?あぁ、こう見えても私も魔物系の端くれだからね。状態異常耐性は持っているよ。」
「そうなんだ。吸血鬼だっけ?」
私は何気なしに確認するようにそう口にしていました。
正直単調な作業が続いていて暇していたので会話がしたかったのです。
「そうだよ。吸血鬼系のヴァンパイア・プリンセス。」
そんな私の問いかけにアキは丁寧に答えてくれました。
これ幸いと私は会話を続けます。
「ヴァンパイア・プリンセスってことは王族なんだよね?」
「そうだね。称号にそのまま「旧き王族」なんていうのもあるからね。」
「私も称号に「国王」って言うのがあるからお揃いだね。」
王族と国王では少し違う気もしますがそれでもアキと一緒であることに少し嬉しさを覚えます。
そんな私の気持ちが通じたのかアキも笑みを返してくれました。
私は再び採取に集中しながらアキの種族について考えます。
「ヴァンパイアって色々と弱点があるイメージだけどアキは大丈夫なの?」
「確かにいくつかの弱点になりえるパッシブスキルはあるね。」
「例えば?」
「例えば【銀耐性弱化】とかかな。これは銀もしくはミスリル製の武器で攻撃された時に受けるダメージが大きくなるってものだね。」
ここまで冒険していて銀製の武器と言うのは見たことがありません。
それは銀と言うのが柔らかく武器に向かないからです。
しかし、ミスリルは別です。
ミスリルは話題にも上がるほどに強力な武器になります。
そのミスリルに対する耐性が低いというのは大きな弱点ではないでしょうか?
しかし、アキのそぶりからはそんなことを感じさせません。
「大丈夫なの?ミスリルが弱点って結構なハンデだと思うけど…………。」
「大丈夫だよ。偉い人は言いました………当たらなければどうということは無い!」
アキは少し茶化す様にそんなことを言いました。
確かにアキのステータスを考えれば並大抵の攻撃を避けきることなど容易なのでしょう。
彼女はそれだけAGIに多くのポイントを割り振っています。
最近は吸血鬼の特性を生かすために他のステータスにもポイントを振っているようですがそれでも今まで積み重ねてきた分でも十分でした。
それを知っているからこそ私は心配しながらもアキの言葉を信じられるのです。
「ならいいのだけど。」
「そうそう。」
アキはそう言うと再び採取を始めました。
私はそんなアキのことを見ながら再び口を開きます。
「他には吸血鬼らしいスキルってないの?」
「吸血鬼らしいスキルね。」
アキは手を止めてステータスを開き確認していました。
そして何か思いついたのかパッと明るい表情を見せます。
「そうだ、【吸血】や【魅了眼】それに【眷属化】ってスキルがあるね。」
「【眷属化】は以前少し聞いたけど【吸血】と【魅了眼】は初めて聞くね。」
「そうかもしれないね。私も持っているの忘れていたくらいだから。」
アキはそう言うと採取の手を止めてスキルについて説明を始めました。
私は黙ってアキの説明に耳を傾けます。
「まず、【吸血】はその名の通り相手の血を吸い取るスキルね。使うには相手に噛みつく必要があるからかなり接近する必要があるね。スキルの効果としては相手にダメージを与えつつ自身に回復とバフをかけることができるね。」
「使いどころは難しそうだけれど回復とバフが同時に行えるのは強いね。」
「そうだね。前に何度か試した感じだとすべてのステータスにバフがかかるからかなり強力よ。」
アキはそう説明の補足を口にすると「次に、」と説明を続けました。
「【魅了眼】は相手に状態異常「魅了」を与えるスキルね。この状態異常は詳しいことは分かっていないけど、使ってみた感じだと相手の行動をある程度操れるものみたいね。」
「へー、強いね。」
相手の行動を操れるということは自滅させるたり、集団なら同士討ちさせることもできるということなのでしょうか?
それは強いスキルだと思います。
「この状態異常はリンが使っている「恐怖」や「狂気」と同じように精神系の状態異常みたいだね。だからRESを上げることで対抗することができるみたい。」
「精神系の状態異常ってなに?」
「………リン、自分が使っているのに知らないの?」
「………うん。」
私の回答にアキは深くため息を吐いて呆れたような表情を向けてきました。
私は肩身の狭い思いをしながらアキの次の言葉を待ちます。
「このゲームの中では状態異常は肉体系と精神系に分けることができるの。肉体系はその名の通り肉体の機能に影響を及ぼす状態異常。例えば毒とか麻痺がこれに当たるわ。それに対して精神系は精神の機能に影響を及ぼすものよ。アキの使う「恐怖」や「狂気」はこれに当たるわ。」
そこまで一気に説明するとアキは一度呼吸を整えて再び口を開きました。
「肉体系の状態異常はVITを上げることで抵抗力を上げることができるわ。それに対して精神系の状態異常はRESを上げることで抵抗するの。」
「そ、そうなんだ。」
「そうなの。だからVITやRESを疎かにするのは良くないのよ。VITはHPにも関わってくるから無視する人は少ないけどRESは明確に上げる意思が無いと中々手を付けないステータスだからね。低い人が多いのよ。特に剣士系の人はそうね。だからこそ第1回の闘技大会であんな悲惨な状態になったんだと思う。リンもちゃんと上げていたほうがいいよ。いつ自分がターゲットになるか分からないからね。」
「それは大丈夫。種族の特性なのかVITもRESも4桁超えているから。」
「………なにその化け物ステータス。」
私の何気ない回答にアキは絶句していました。
何かおかしなことを言ったでしょうか?
私は正直に申告しただけです。
「それだけあるなら十分よ。現状の前線プレイヤーでも400あれば高い方なのだから。」
「え?そんなものなの?」
「………その言葉の真意は問わないでおきましょう。私の精神衛生上のために。」
何処か釈然としませんがアキがそう言うのであればこの話はこれまでにしておきましょう。
私は気持ちを切り替えてスキルについてアキに問いかけました。
「じゃあ、話を戻すけど【魅了眼】は相手に「魅了」を与えるスキルなのよね?」
「唐突に話が戻るわね。そうよ。リンの使っているスキルと違ってこっちはアクティブスキル。スキルの名前通り目を合わせることで使用することができるわ。だから大多数に同時にと言うわけにはいか無いわね。」
「そうなんだ。じゃあ、集団戦で相手を「魅了」して同士討ちさせるみたいな使い方はできないんだ。」
「できないことは無いけど少し工夫する必要はあるかもね。」
そう言いながらアキは肩をすくめました。
きっと彼女の頭の中では実戦でどのように使うのかが考えられているのでしょう。
しかし、今は知らなくてもいいことなのかもしれません。
きっとこれから先それを見る機会があると思います。
それを楽しみに待っていましょう。
「最後に【眷属化】についてだけど………。」
アキは3つ目のスキルについて説明を始めました。
私は再びアキの話に耳を傾けます。
「正直これが一番よく分からないのよね。」
「そうなの?」
「スキルの説明を見る限りはこのスキルを使うことで対象を自身の眷属に変えることができるみたいなんだけど………、眷属ってなんだろうね?」
「私に聞かれても分からないわよ。」
アキの言葉を聞く限り本当にそのスキルについてわかっていないようです。
しかし、以前エスペランサさんと何か話をしていたと思ったのですがそれは気のせいだったのでしょうか?
私がそんなことを考えているとアキが再び口を開きました。
「何となく予想は立っているのよ。【吸血】スキルと同じように相手に噛みついて血を吸うことをトリガーにして相手の種族を吸血鬼にしてしまう。ただ、眷属と言うのがよく分からないのよね。」
「眷属ね。言葉通りなら従者とか下僕とかそう言う意味に取れるけど………。」
「うん。私もそんな印象を受けるわ。私が以前吸血鬼と戦ったって話はしたよね?」
「うん。」
「その時に戦いの中で私はヴァンパイアにされたわ。これが【眷属化】のスキルだと思っているの。」
アキは丁寧に1つ1つを説明するようにしてそう口にしました。
私はそれに相槌を打ちながら話に聞き入ります。
「この時の経験から言うと眷属にされたからと言って自由意志が無くなるわけではないのよ。その時は「魅了」も使われたからよく分からなかったけど、ちゃんと戦えていたことから下僕にされたというわけではないね。」
「と言うことは【眷属化】のスキルは単純に吸血鬼に変えるだけのスキルってこと?」
「それなら眷属なんて言葉にならないと思うのよね。まあ、この辺は今後どこかで試してみるよ。」
アキのその言葉を最後にして私たちは再び素材採取に集中しました。
彼女のスキルについては未だ謎が多いです。
私がそれを知るのは少なくない時間が過ぎ去った後でした。
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