7-7
◆ゼクス
ゼクスの中央広場で2人の男性プレイヤーが掴みかかっています。
「なんだおまえは!?」
「おまえこそ!!」
2人は互いに怒りをあらわにして自分の得物に手を伸ばします。
片方は腰にしたロングソードに、もう片方は背にした大剣を抜き放ちます。
そしてどちらからともなく剣を振るいました。
私はそれを少し離れたところで見守っていました。
私以外にもそう言った人は多くいます。
殆どの人たちは笑みを浮かべながら彼らを囲って戦いの行方を見守ります。
こうした光景も珍しくはありません。
以前の会議でラインハルトさんが話していた通り今ゼクスの町には荒っぽい人が多くいます。
だからこそこうして日夜決闘騒ぎが繰り広げられているのです。
私はそんな彼らを後目にアキのことを待っていました。
澄み渡る大空を眺めて今か今かと待ちわびています。
「おぉおおおおおおおおおおおお!!」
決闘騒ぎをしている人たちの方から歓声が聞こえました。
私はそれを聞いて視線を向けます。
どうやら決着がついたようです。
大剣使いが地に倒れ伏し光となって消えていくのが見えます。
剣士の勝利のようです。
特に感慨無くそれを眺めていると横から声がかかりました。
「リン、お待たせ。」
アキです。
彼女は片手を挙げて私のすぐ横に立っていました。
「そこまで待っていないよ。」
私は素直にそう言って彼女と並んで歩きはじめます。
「えっと、今日の目的は森林だっけ?」
「うん。森林でホムンクルス作りのための材料を集めるよ。」
彼女との会話の通り今日私たちはゼクスにほど近い森林地帯で錬金術の材料となる素材を集めます。
そのために私たちは準備を整えてこうしてゼクスの町まで出てきました。
私はアキと2人並んで町の外門へと向かいます。
私たちが離れようとしている中央広場は先ほどまで繰り広げられていた決闘騒ぎで未だ熱気が吹き荒れていました。
「リンはゼクスの近くで狩りをするのは初めてだよね?」
「そうだけど、アキはあるの?」
「いいや、私も初めてだよ。」
アキの言い方からてっきりアキは既にゼクスから出て狩りをしているものだと思っていたけどそうではないようです。
そのことを残念に思いながらアキの言葉の真意を考えます。
そんなことをしているとアキから続けて声を掛けられます。
「出るのは初めてだけど色々と情報は聞いているよ。リンはそのあたり無いんじゃない?」
「そうだね。情報ってどのようなものがあるの?」
私が質問を返すとアキは少し考え込むようにして話始めました。
「えっとね、ゼクス近くの森林では虫系、植物系、動物系の魔物が出るの。だいたい割合としては4対3対3ぐらいだね。」
「虫系が多いの?」
「気持ち多いくらいだけど、そうみたい。リンは虫は大丈夫だよね?」
「うん。」
確かに虫が駄目な女性は多いと思います。
しかし、生憎と私やアキは大丈夫です。
その点でゼクスの森林を忌避することはありません。
「多いと言ってもそこまで大差があるわけではないからどのタイプの魔物にも対策は必要だね。特に虫系、植物系の魔物は毒を持っているらしいけど………リンは状態異常って効くの?」
「耐性があるから殆ど効かないはずだよ。」
「ならあとは防御に対しては特に対策は必要ないかな。後は攻撃についてだね。虫系や動物系はそこまで大きくないから普段リンがやっているような飲み込んで押しつぶすことで倒すことができると思うけど植物系は大きなものが多いから少し工夫が必要かもしれない。」
「なるほど。うん、魔法もあるから多分大丈夫だと思う。」
あまり汎用性のある魔法ではありませんがいくつか使えそうな魔法があります。
それらを使えば大きな敵にも対応できると思います。
私のその回答を聞いたアキは安心したような表情をして頷きます。
「ならよかった。アイテムの方は何が必要か聞いている?」
アキから質問されて私はマテリーネさんとの会話を思い出します。
「たしか、動物系の魔物の血肉と魔石、あとは薬草類がいくつかと聞いているよ」
「うん。それ以外に虫系や植物系の魔物の素材もあればいいものができるみたいだよ。」
「そうなの?なら満遍なく討伐しないとだね。」
「そうだね。」
アキとそんな会話をしながら害門に向けて歩いていると向こうから見知った人が近づいてきました。
「リンちゃんとアキちゃん。これから狩り?」
ラインハルトさんとハーロウさんです。
「はい。これからアキと一緒に森林に行きます。」
「そうなんだ。僕らは鉱山の方に行ってきたよ。」
「素材の方は集まりましたか?」
「それなりにね。でも、さすがに1回だと必要数分は集まらないね。アイテムを置いたらもう一度行くつもりだよ。」
ラインハルトさんはそう言いながら肩をすくめました。
流石にこの町を運営するだけのホムンクルスとオートマタを作り出すための素材は早々集まりそうにありません。
「お疲れ様です。私も覚悟しなくてはいけませんね。」
「そうだね。」
まだまだアイテム集めは始まったばかりです。
私は気合いを入れ直します。
「そう言えば。」
私がそんなことを考えているとラインハルトさんが口を開きました。
「リンちゃんたちは大丈夫だと思うけど一応教えておくね。」
「何でしょうか?」
「今ゼクスにガラの悪いプレイヤーが集まっているのは知っていると思うけど、強盗まがいのプレイヤーキラーもいるみたいなんだ。」
「プレイヤーキラーですか?」
「そう。生憎と僕らは出会わなかったけど一応注意しておいた方が良いよ。」
プレイヤーキラー。
久しぶりにその言葉を聞きました。
確かに今ゼクスの町で取れる素材は貴重です。
それらを求めてそのような行為に及ぶ人たちがいてもおかしくはありません。
「ありがとうございます。気を付けます。」
「うん。じゃあ、素材の採取頑張ってね。」
ラインハルトさんはそう言うとゼクスの町中へと向かっていきました。
私とアキは再び森林に向けて足を進め始めます。
--
「はっ!!」
私の放ったナイフが4本の腕を持った猿型の魔物の喉に刺さりました。
その攻撃を最後に魔物は光の欠片となって虚空へと消えていきます。
私がそれを確認しているとアキから声がかかります。
「お疲れ。」
「うん。」
私はナイフをしまいながら彼女に答えます。
そんな私を見ながらアキは再び口を開きます。
「さっきから人間の姿で戦っているけどそっちの方が強いの?」
アキの言う通り私は人化を解かずに魔物と戦っています。
しかし、それは彼女が言うように強さに差があるからではありません。
「特に人化状態と魔物状態で差は無いよ。単純に戦いやすいのは魔物状態の方だね。今までそれで戦ってきたし。」
「ならなんで人化しているの?」
「何となくこの状態で戦いのコツを掴んでいたほうがいいと思ったからだよ。」
彼女に伝えた通り特別人化状態で戦う理由があっての行動ではありません。
鳴れていないからこそ今時間があるうちに慣れておこうと思っただけです。
私の回答に納得したのかアキは「そう。」と言葉数少なく答えると再び周りを見回しました。
私も彼女に倣って周りを見回します。
魔物の姿は見えません。
危険が無いことを確認した私たちは辺りに生えている薬草を採取していきました。
--
―ガサガサ
私たちが採取を続けているとそんな音が背後から聞こえました。
私はとっさに立ち上がりナイフを構えます。
「アキ。」
「うん。わかってる。」
アキも剣を抜いて音のした方向に視線を向けます。
未だ魔物の影は見えません。
嫌な緊張感が当りを包みます。
1秒、2秒と時間が過ぎます。
一向に変化はありません。
気のせいだったのでしょうかと気を緩めた次の瞬間です。
―ガサ
頭上、木の上から大きな影が降ってきました。
私はそれを寸でのところで回避します。
「リン!?」
「大丈夫!!」
アキがとっさに私の名前を叫びます。
私はそれに返答しつつ敵の正体を捕えます。
それは大きな蜘蛛でした。
この程度なら焦る必要はありません。
奇襲が失敗した時点で敵ではないからです。
私はナイフを構えて蜘蛛を睨みつけます。
そんな時でした。
―ガサガサ
木の上から次々と影が降ってきました。
それは目の前にいる蜘蛛と同じ形をしています。
「な!!」
アキがとっさに距離をとって声を上げます。
私もその影から離れます。
「こんなに!?」
アキが驚きの声を上げます。
無理もありません。
その影の正体は蜘蛛型の魔物です。
それが10数匹いるのです。
その数を目にして驚かない方が難しいでしょう。
私自身驚きを隠せません。
しかし、それを声に出さずにナイフを構えて口を開きます。
「アキ!1匹ずつ始末してきましょう!」
「うん!!」
私の言葉に強くうなずいたアキは手近な蜘蛛に切りかかりました。
私もナイフを振るいます。
蜘蛛型の魔物は時に糸を吐き出し、時に禍々しい牙で噛みつきと私たちを攻撃してきます。
それらを回避しつつ私たちは着実に蜘蛛の数を減らしていきます。
数に驚きはしたもののこの調子なら勝てます。
そう思ったときでした。
「っつ!!リン!!」
アキが私の方を向いて大きく叫び声を上げました。
次の瞬間です。
私は首元に軽い痛みを感じました。
首を動かしてそちらを確認すると私の首に蜘蛛が深々と噛みついていました。
私は空いた左手を使って蜘蛛を引きはがします。
そして、自分の状態を確認するために視界の端に移ったステータスを確認します。
HPは大して減っていません。
毒などの状態異常にもかかっていません。
助かりました。
ショゴス・ロードの膨大なステータスとスキルが役に立ってくれたようです。
私はそれを確認するとすぐさま先ほどの蜘蛛に向けてナイフを振るいます。
そしてアキに無事を示すために口を開きました。
「こっちは大丈夫!!」
私の様子を見て本当に大丈夫であることを確認したアキは目の前の蜘蛛との闘いに集中しました。
私ももう油断しません。
1匹、1匹と着実に数を減らしていきます。
遂に最後の1匹が光の欠片となって散ったのを確認して息をつきます。
「はー。」
「お疲れー。」
「うん。お疲れ様。」
アキとともに労い合いながら私たちは武器をしまいました。
周囲に敵影はありません。
一先ず危機は脱したようです。
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