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7-5


◆ゼクス


「さて、他に話し合いたいことはありますか?」


私は皆を見回してそう口にしました。

それを聞いたラインハルトさんは片手を挙げながら口を開きました。


「一ついいかな?」


「はい。なんでしょう?」


「先ほどのプレイヤーの問題の際に少し話したけれど、一部のプレイヤーが街中で無法を働いているだ。今まではそう言ったプレイヤーへの抑止力として衛兵がいたのだけれど今ゼクスにはいない。このままはまずいのではないかな?」


確かに先ほどそのようなことを言っていましたね。

私たちがこの町を手に入れた経緯があれなので仕方がないのかもしれませんが、それでも私はそんな人たちが闊歩するような国にしたいとは思いません。

私はラインハルトさんの話を真剣に聞き入ります。


「今までの町と同じように衛兵隊を組むのが良いとは思うのだけれどそれもホムンクルスやオートマタが担えるのかな?」


ラインハルトさんはマテリーネさんとオレグさんに向かってそう聞きました。

皆の視線もそちらに向きます。

マテリーネさんは首に当たる花を横に振って否定を示しました。


「残念ながら今作れるホムンクルスは戦闘には向かないとおもうよー。一応、戦闘用ホムンクルスと言うのもいるみたいだけどそれは次の段階だねー。」


「オートマタの方も同じだ。戦闘向けのオートマタは非戦闘オートマタでデータを取ってからでないと作ることができない。」


マテリーネさんに続いてオレグさんも現状ではできないという旨を語ってくれました。

それを聞いて私は落胆の色を示します。

ラインハルトさんが困ったような表情を浮かべて周りを見回し口を開きました。


「えっと………、じゃあ、どうしようか?僕たちで見回るわけにはいかないよね?余り時間がとられるようだと他の作業も滞ってしまうしね。」


「そうですね。」


私はそう呟きながら頭を悩まします。

そしてユリアさんの方を向いて口を開きました。


「ユリアさん、先ほどの悪魔ならば衛兵としての役割を担えるのではありませんか?」


「ん?そうですね。確かに悪魔であれば低位であってもそれなりの戦闘力を持っています。そこだけ見れば十分に衛兵の任を全うすることができるでしょう。」


「なら………。」


私は期待を込めた視線をユリアさんに向けます。

それを受けながらユリアさんは「しかし、………」と言葉を続けました。


「悪魔は低位のものであってもそれなりの触媒を必要とします。数を揃えるのは時間がかかるでしょう。」


「そうですか。」


私は再び肩を落とします。

私だけではありません。

皆一様に気を落としています。

そんな会議室にハーロウさんの声が響きます。


「それではアンデッドを利用してはどうでしょうか?」


「アンデッドですか?」


ハーロウさんの言葉を私は聞き返します。

そんな私の質問にハーロウさんは笑みを浮かべながら説明を続けました。


「はい。私が召喚するアンデッドであれば悪魔ほどの触媒は要求されません。それなりの数を揃えることもできるでしょう。」


「それは衛兵の仕事ができるレベルの戦闘力を持っているのかい?」


「はい。現在のプレイヤーのレベルから中位アンデッド相当であれば十分に衛兵として役に立つと思います。そして、その中位アンデッドであれば1000体ほどを召喚するだけの準備があります。」


「1000体いれば確かに衛兵として機能するか………。」


私はそれを聞いて安心しました。

ならばこの問題は解決したのでしょうか?

私は期待を込めた視線をハーロウさんに向けます。

それを受けてハーロウさんが口を開きます。


「先に述べた通りアンデッド召喚で衛兵の問題は解決します。問題としてはゼクスの町をアンデッドが闊歩することになることですが、ここにいる皆さんはそんなことは気にしないですよね?」


ハーロウさんのその質問に皆は頷いて肯定を示しました。

それを見てハーロウさんは話を続けます。


「となると、問題なのは住民の感情です。住民の立場になって考えるとアンデッドが闊歩している状態と言うのは好ましくは無いと思います。」


「確かにその通りなのかもしれませんが………。」


「はい。仕方が無いと切り捨てることもできます。しかし、この状態を長期的に放置していてもいいとは思えません。最悪は革命を起こすきっかけになる恐れがあります。」


ハーロウさんはそこで一度言葉を区切ってマテリーネさん、オレグさんの方に向き直り言葉を続けました。


「短期的にはアンデッドで対応いたします。しかし、一方で戦闘用のホムンクルスとオートマタの作成を進めてください。将来的にはそちらに移行していく形で住民感情の対応をしていこうと思います。マテリーネさん、オレグさん大丈夫でしょうか?」


「うん。そう言うことなら大丈夫だよー。」


「俺も開発を進めておこう。」


ハーロウさんの質問にマテリーネさんとオレグさんは快諾しました。

私はそれを見て胸を撫でおろします。

そんな私にハーロウさんが唐突に話しかけてきました。


「リンさんもそれでいいでしょうか?」


「は、はい。問題ないと思います。」


突然話を振られて吃驚しましたが私は思っていることを素直に口にしました。

私の言葉をもってその議題は終わりです。

皆が納得する形でまとまったと思います。

私は次の問題の思考を移します。

まだまだ、考えなくてはいけないものは沢山あります。


--


現在、ゼクスの町に渦巻く問題ごとに一通りの解決案を見出した私たちは変わらず会議室に集まっていました。

未だ話さなければいけない問題があるからです。

そう、戦争についてです。

私たちは今アルベルツ王国から宣戦布告を受けています。

それにどういうふうに対応するかを決めなくてはいけません。


「現在私たちはアルベルツ王国から宣戦布告を受けています。」


私は唐突にそう切り出しました。

皆は私に視線を向けます。

彼らの顔を見回しながら私は話を続けました。


「戦争を回避することはできません。するつもりもありません。」


もしも戦争せずに降伏するのであれば態々独立などしません。

こうして独立したのはアルベルツ王国の法に思うところがあったからです。

だからこそ私たちは戦わなくてはいけません。


「戦争するうえでいくつか問題があります。まずは時期についてです。戦争は宣戦布告を受けた側がある程度自由に時期を設定することができます。具体的には宣戦布告を受けてから2週間から4週間の間です。」


戦争のルールはシステムで明確に定められています。

私は宣戦布告を受けてからそのルールにしっかりと目を通しました。

そこにはしっかりと戦争の時期について記載がされていました。

リアルの時間で2週間から4週間。

それはゲームの世界で半年から1年という長い期間です。


「まずはこの戦争の時期について話し合いたいと思います。なにか意見などはありますか?」


私がそう言うと皆が思案顔を浮かべます。

そしてハーロウさんが手を上げて発言の許可を求めます。

私は頷くことでそれに肯定を示します。


「私たちは未だ準備が不十分です。当然です。町の中の衛兵問題が解決していないのにそれを超える軍隊を要求されているのです。なので時期についてはできるだけ先延ばしにするほうがいいと思います。」


「いや、それは相手にとっても同じではないか?時期が延びればアルベルツ王国も十分な準備ができてしまう。そう考えると早い方が良いと思う。特にこの戦争のルールに従うと軍隊としての力よりも個人の力がものをいう。態々軍隊をそろえる必要はないだろう。」


ハーロウさんの意見にエスペランサさんが反論を述べます。

両者の意見はもっともです。

私も同じようなことを思いました。

だからこそ私は2人の議論を静かに見守ります。


「個人の力が重要なのは私も同じ意見です。しかし、軍隊が無くてもいいとは思えません。最低限個人の力が発揮できるように相手の軍隊を足止めできるだけの軍隊は保有するべきです。」


「うむ。戦闘に関しては私は門外漢なので発言は控えておこう。それでは最低限の軍隊を用意するのにかかる時間はどの程度なのだ?期限一杯の4週間という訳では無いのだろう?」


「どのように軍隊を揃えるかによって変わってきます。先ほど話に上がったアンデッドによって戦力を整えるのであれば2週間あれば2万の軍勢を揃えることができると思います。」


「悪魔召喚の方はその10分の1くらいですね。2週間でおおよそ2000と言ったところです。3週間あれば2倍から3倍くらいまで数を増やせると思います。」


ハーロウさんの言葉を聞いてユリアさんが口を挟みました。

それを聞いてエスペランサさんは頷きます。


「3週間云々の話はアンデッドの方も同じと考えていいかな?」


「はい。アンデッドの方も3週間あれば3倍の6万まで数を増やせると思います。」


「敵の戦力がどの程度か分からないから結論は出せないがそれだけの数を集められれば十分なのではないか?」


エスペランサさんはハーロウさんに再び問いかけます。

ハーロウさんは少し考え込んでから口を開きました。


「アルベルツ王国の保有する戦力がどの程度かによりますが防衛戦と言うことを考えるとそれだけあれば個人の力を発揮するだけの戦場を整えられると思えます。」


「ならば戦争は3週間後で良いと思うのだがどうだろう?」


エスペランサさんが私に視線を向けてそう聞いてきました。

私は考えるそぶりを見せますが正直この問題に結論は出ないと思っています。

なので意を決して私は口を開きます。


「はい。それで問題ないと思います。では、戦争は3週間後といたしましょう。」


それを聞いて皆が意気込むのを感じます。

当然です。

このゲームで初めての戦争イベントなのです。

それを前にして気分が高揚しないわけがありませんでした。

私はそんな気持ちを隠しながら再び口を開きます。


「次に話そうと思っていたのはこちらの戦力についてですが、これは先ほどの話し合いで結論が出ていますね?ハーロウさん、ユリアさん、アンデッドと悪魔の召喚をお願いします。」


「はい。」


「任されました。」


私の言葉を受けて御2人は快く返事を返してくれました。

私はそれを確認して再び皆に向き直ります。


「これにて議題はすべて消化いたしました。皆さん、アルカディアを素晴らしい国にするために尽力いたしましょう。」


私のその号令を最後に会議は終了しました。

皆は思い思いに動き出します。

私もすぐに次の行動を起こします。


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― 新着の感想 ―
[一言] あのー全然先でいいんでステータス確認回みたいなのがあったらうれいしです。
[良い点] ジェノサイドものって結構珍しく、「しっぺ返し戦略」をとる作品も途中でヘタレたりで意外と少なかったりして……現代版勧善懲悪って、人情的には難しいのだけど、それに挑んでるところが非常に良い点 …
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