7-3
◆ゼクス
「次の問題について話してもいいでしょうか?」
ホムンクルスとオートマタと言う存在のおかげで大きな問題であった施設の運営については解決の目途が立ちました。
そのことについて安堵の表情を浮かべる皆さんを見回して私は口を開きました。
まだまだ話さなければいけない問題は沢山あります。
「次の問題は食料についてです。私たちプレイヤーは多くの食料を必要としませんがゼクスに残ったNPCはそうではありません。今まで彼らの食料は他の町から買い取る形で補填していたようです。しかし、現状ではその方法はとることができません。」
多くのゼクスの住民がフュンフに逃げたとは言っても全員ではありません。
本当に僅かではありますがこの町に残った者もいます。
私は国王として彼らの生活の保障をしなくてはいけません。
元々ゼクスの町では鉱山や森林から手に入った素材やその素材から作られた生産物を他の町に撃っていました。
それによって得られた外貨を使って食料などの生活必需品を購入していました。
鉱山や森林は変わらずあります。
しかし、この町を訪れる商人がいません。
だからこそ食料などを買うことができずにいます。
「国庫に残っている食料を放出することで当面はしのぐことができます。ハーロウさんの話ではこちらの時間で1年は大丈夫とのことです。その間にどうにか新たに食料を手に入れる手段を模索する必要があります。」
私のその説明に皆は再び頭を悩まします。
当然です。
プレイヤーにとって食事はあくまで嗜好品なのです。
そのため、食料の手に入れ方などパッとは思い浮かびません。
そんな中シールさんが口を開きました。
「別の町のNPCはどうやって食料を作っているのかな?」
「はい。基本的にはリアルと同じです。農耕と畜産になります。ただ、この世界では畜産よりも狩猟により食肉を入手する比率が高いようです。」
「狩猟に関しては僕たちが討伐したモンスターの素材を放出することである程度補填ができるね。」
ラインハルトさんが普段の狩りを思い浮かべながらそう言いました。
私はそれに同意します。
「そうですね。元々、プレイヤーが手に入れた魔物の肉の多くはNPCが買い取っています。そこに関しては問題は少ないでしょう。」
「となると問題は農耕かな?」
クロさんが首を傾げながらそう聞いてきました。
「はい。そうなりますね。」
「ゼクスの周りでは農耕ができないのかな?」
「いえ、そんなことは無いと思います。鉱山と森林に囲まれているため大きな農地を抱えることはできませんが、それでもこの町の住民の食料を作れるだけの土地はあります。」
クロさんの質問に答えたのはハーロウさんです。
彼には事前にゼクスの周りについて調べてもらっていました。
そのハーロウさんが言うのであれば間違いないのでしょう。
「ならば、その土地を使って畑を作る方向で考えましょう。こちらについても人ではホムンクルスやオートマタを利用することができますよね?」
私はマテリーネさんとオレグさんに期待を込めた目を向けます。
「問題ないよー。」
「こちらも大丈夫だ。」
私のその質問に2人は色よい返事を返してくれます。
私はそれを聞いて安心しました。
「食料に関してはこの町でも農耕を行うことで解決できます。しかし、それ以外にもこの町で手に入らないものは多くあります。」
安心もつかの間、ハーロウさんが真剣な表情でそう口にしました。
「確かにその通りです。しかし、それはどうしようもないのではありませんか?」
私は諦めともとれる声色でそう言いました。
私のその言葉にハーロウさんは首を横に振ります。
「そんなことはありません。いくつか手はあります。まず1つ目は商人を誘致することです。」
ハーロウさんの説明に皆が耳を傾けます。
私も彼の次の言葉を静かに待ちます。
「アルベルト王国とアルカディアを行き来する商人を生み出し、彼らにものを運んでもらうことで必要なものを手に入れるという手段ですね。」
「そんなことが可能なのですか?」
「私の予想では可能だと思います。ゼクスの町が生み出す素材の山はアルベルツ王国にとって無くてはならないものです。それらを手に入れるために両国間を行き来する商人の存在を黙認すると思われます。」
ハーロウさんはそこまで説明して一度言葉を区切りました。
息を整えて「しかし、………」と言葉を続けます。
「それには時間がかかるでしょう。現時点では王国で貯蔵している素材で賄うことができてしまいます。それらが枯渇してからが勝負です。そのためには喫緊の戦争に勝つ必要があります。」
ハーロウさんの説明を聞く限りこの問題を解決する手段は今すぐに同行できるものではないようです。
そのことを少し残念に思いながら彼の言葉に耳を傾けました。
「2つ目の方法です。これは先ほどと違って相手の出方に左右されるものではありません。」
「その方法とは何でしょうか?」
「はい。戦争で領地を増やすことです。」
ハーロウさんのその言葉を聞いて会議室に驚きの声が上がります。
私自身予想外の回答に驚きを隠せません。
そんな私たちの反応を無視してハーロウさんの説明は続きます。
「ゼクスの町に無いものを持つ町を私たちの領地としてしまえばその町と協力することで国力を高めることができます。」
「戦争ですか?」
「はい、戦争です。」
恐る恐る確認する私の言葉にはっきりとハーロウさんは答えました。
今さらNPCを殺すことを忌避するような感性は持ち合わせていません。
しかし、態々その手段を取りたいとも思えませんでした。
それはわずかに残った良心がそう思わせているのかもしれません。
それでも私は確かに戦争を忌避する思いを持っていました。
「他には方法はありませんか?」
「私が思い浮かぶのはその2つの方法のみです。」
「そうですか。」
長期的な方法と短期的な方法。
前者はいつ解決するか分かりません。
後者は戦争という手段をとる必要があります。
どちらも問題があるように思えました。
私は会議室を見回します。
皆も私と同じように考え込んでいます。
そんな中、ユキナさんが口を開きました。
「妾は後者の方法を支持するのじゃ。アルベルツ王国にとって妾たちの国は既に敵国じゃ。別にこちらから攻め入らずとも向こうから勝手に攻撃してくる。ならば、こちらから攻め込んで敵の国力を奪うこともしておくべきじゃろう。」
「確かにその通りかもしれませんね。何より前者の方法ではいつこの問題が解決するか分かりません。もしかしたらいつまでも解決しないかもしれません。それなら確実に解決の道筋が見えている後者の方法をとるべきなのでしょう。」
ユキナさんの意見にユリアさんが同意を示しました。
それを皮切りに皆が意見を口にします。
多くは彼女たちと同じように戦争を行うことに賛成というものでしたが何名か戦争は反対という人がいます。
「態々戦争をする必要はないんじゃない?問題となっている足りていないものって嗜好品の類でしょ?必需品については今まで話で解決しているんだから、そこまで手を出す必要はないと思うよ。」
「いや、嗜好品だからこそ重くとらえるべきなのではないか?NPCはこの世界で生きているのだ。彼らに生活には必要ないのだから我慢しろとは言えないだろう?」
「それでも戦争してまで手に入れるべきなのか私は疑問だわ。前者の方法を取った場合でも解決する可能性があるのならばそれでいいじゃない。」
サンドラさんとエスペランサさんが熱く議論を交わします。
彼女たちの言葉を聞いてますます私は頭を悩まします。
どちらの言い分もわかります。
恐らくはハーロウさんの語った前者の方法がどの程度の確度で実現可能か分からないからこういう話になっているのでしょう。
サンドラさんは実現性は極めて高いと考え、エスペランサさんは低いと考えたのでしょう。
私はどう思うのでしょうか?
自分に問いかけるようにして静かに考えます。
そんな私に視線が集まります。
そうです私が国王なのです。
私が決めなくてはいけません。
私は意を決して口を開きます。
「ハーロウさんには申し訳ありませんが1つ目の方法が実現するのには時間がかかると私は考えます。そのため私は2つ目の方法、戦争して手に入れることにしたいと思います。」
私のその言葉を聞いて皆の表情が厳しいものへと変わります。
私はそれを見ながら次の言葉を口にします。
「しかし、戦争を起こすのは直近の戦争に決着が付いてからです。その間にもしも1つ目の方法がとれる兆しがあるのであれば態々戦争を起こす必要はないと思います。」
そうです。
どのみち私たちに今すぐ戦争を起こす戦力はありません。
だからこそ決断は先送りでもいいのです。
しかし、その時に迷わないように明確に指針は決めます。
「一先ずは喫緊の問題とアルベルツ王国から着ている宣戦布告。この2つを解決後に改めてどの都市に向けて戦争を仕掛けるかを考えましょう。」
私のその言葉に皆は同意を示してくれました。
その事に安心を覚えます。
私は次の問題に思考を移すのでした。
よろしければブックマーク登録と評価をお願いいたします<(_ _)>




