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◆アイン近くの草原
草原で狩りを続けていた私とアキは草むらから飛び出したそれに一瞬固まってしまいました。
それは薄い空色をした1抱え程のゼリー状の生物………スライムでした。
スライムを目にしたアキは笑みを浮かべながら叫びます。
「あ、リンだ!」
「私はこっちよ!」
私はアキのボケにそうツッコミを返しながら武器を構えました。
そんな私の様子を見てアキが口を開きます。
「大丈夫?やれるの?」
「うん、大丈夫。可愛いけどここは非情にならないと………。」
私はそう言うと地を駆けてそのスライムとの距離を詰めました。
瞬く間に距離を詰めると私はナイフを振り上げてスライム目掛けて振り下ろしました。
ん?意外と硬い?
いや、違いますね。
変形してしまってうまく切れていないようなのです。
それでも………。
私はナイフに力を籠めます。
するとそのナイフはスライムの体を切り裂きました。
スライムはHPが高いです。
その1撃だけでは決着はつきませんでした。
私は続けて2回、3回とナイフを振るいスライムの体に傷を増やしていきます。
切った傍から変形して傷口をくっついてしまうスライムは見た目上はダメージを受けていないように見えました。
しかし、それでもHPは減っていたのでしょう。
何度目かになる私の攻撃を受けてそのスライムは光のかけらとなって虚空へと消えました。
「ふぅ。」
「おつかれ。」
私が1息吐いて、ナイフをしまっているとアキが声をかけてきました。
「どうだった?」
「うーん、刃が通りにくくて兎より戦いにくかったかな。」
「なんだ、それだけ?」
「それだけって?」
アキは顔を綻ばせながら口を開きます。
「いや、初めて同族を倒した感想は?」
「もう、からかわないでよ。」
それだけ言って私は再び草むらの中に潜むモンスターを探すのでした。
アキはニヤニヤと笑いながら私のその後姿を眺めていました。
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アイン近くの草原でアキと狩りをやっているさなか唐突にそれは起こりました。
―ピロン
その音が聞こえたのは私が何体目になるか分からないスライムにナイフを突き立て光のかけらに変えたときでした。
それはシステムメッセージの受信を知らせるものでした。
周りに敵がいないことを確認して私はそれを開きます。
<称号「同族殺し」を獲得しました。>
………え?
称号の獲得はまだいいけどこの名前………。
不吉過ぎるのではないでしょうか。
私がそんな感想抱きながら動きを止めているとアキが声をかけてきました。
「どうしたのリン。」
「うん。なんか称号が手に入ったって。」
私は何でもないことを装ってそう言いました。
「へー、なんて称号?」
しかし、やはりその内容は気になるのかアキは続けざまにそう聞いてきます。
「同族殺しだってさ………。」
私は目を反らしながら小声でそう言いました。
それを聞いたアキは一瞬キョトンとするもすぐさま吹き出し、そして腹を抱えて笑い出してしまいました。
「ははは。同族殺しって。確かにリンの同族はスライムだからここで狩りをしていれば同族殺しになるよね。はっはは。」
「もう、笑わなくてもいいでしょ。」
「ははは。それで何か効果はあるの?」
笑いながらもアキはそう聞いてきました。
しかし、私にはアキのその言葉が意味するところに心辺りが無く、首を傾げるようにスライムの体を傾けながら口を開きました。
「効果?」
「そう、効果。称号にはプラスになる効果があるものがあるんだよ。リンが今手に入れた同族殺しには何か効果は無いの?」
なるほど称号にはそう言うのがあるのですね。
確かに他のRPGでは称号でステータスを上げたり、特殊なスキルが使えるようになったりするものがりましたね。
「ちょっと待ってて。」
私は期待を込めながら急ぎウィンドウで称号の説明を確認しました。
しかし、それらしい記述は見当たりませんでした。
「んー、なさそうだよ。」
「そうなんだ。まあ、でも気落ちしないでね。称号には単純なプラス効果以外もあるみたいだから。」
「そうなの?」
「うん。なんでも称号を持っていることで就ける職業が変わったりするらしいよ。」
就ける職業が変わる………。
でも、同族殺しを持っているから就ける職業ってなんか嫌ですね。
いや、盗賊になっている時点で今さらな気がします。
私はそんなことを考えながら再び狩りに勤しむのでした。
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そのプレイヤーは所謂神官と呼ばれる職業に就いたプレイヤーなのでしょう。
相も変わらず私たちはアイン近くの草原で狩りを行っていました。
そんな時、1人のプレイヤーに目がきました。
そのプレイヤーは法衣を着込み、聖印を首から下げていました。
そう見た目は普通の神官だったのです。
ただ1点を除いて………。
そのプレイヤーは足が無く宙に浮いていたのです。
所謂レイスと呼ばれる魔物プレイヤーなのでしょう。
その見た目からおそらく中学生くらいの少女でしょうか?
彼女は1人で兎を相手に拳を振るっていました。
当然、神官である以上攻撃力などたかが知れているのでしょう。
兎は1撃では死なず、彼女は何度も何度も攻撃を繰り返しています。
その間兎だって黙っていません。
レイスに向かってタックルを繰り返していました。
そうやって兎との死闘を数分に渡り繰り広げていました。
兎のHPを0にすることができたときにはレイスは肩で息をしていました。
………幽霊なのに疲れるなんてシュールだと思います。
自分以外の魔物系プレイヤーを初めて見た私はそのプレイヤーのことが気になりました。
アキに視線を送るとアキも私の気持ちがわかっていたのか頷いて答えてくれます。
私はそのプレイヤーに近づき声をかけました。
「あの。」
「は、はい。」
彼女は少し怯えながら辺りを見回すも視線は私の方に向きませんでした。
「あの。下です。」
私がそう言うと彼女とようやく目があいます。
すると途端に私目掛けて拳を振るってくるのでした。
私はそれを寸でのところで回避します。
「な、何で?このスライム、早い。」
彼女は驚いた声を上げていました。
ああ、私をその辺の野生のスライムと勘違いしているようです。
私は勘違いを解くために口を開きました。
「待って下さい、プレイヤーです。」
「え?」
私のその声を聴いて彼女は動きを止めました。
その様子を遠くから見ていたアキは笑いながらこちらに近寄ってきます。
「ごめんなさい。魔物系のプレイヤーが珍しいから声をかけさせていただきました。」
「は、はあ。」
「私はリンです。で、そちらの非魔物がアキです。」
「非魔物はやめなさい。」
私たちは彼女の緊張を解くためにおどけた様にしてそう言いました。
そして再び彼女に向き直り、口を開きます。
「あなたの名前を聞いてもいいでしょうか?」
「はい。私はユキと言います。」
彼女、ユキさんは少しおどおどとしながらもはっきりとそう言いました。
その様子からやはり年下のように感じます。
「ユキさんの種族はレイスですか?」
「はい。レイスです。あの、リンさんはスライムでいいんですよね?」
「そうですよ。」
「私以外の魔物系のプレイヤーを始めてみました。」
「私もです。」
私がそう言うとユキさんと2人して笑いあいました。
その雰囲気から彼女の緊張も徐々にほぐれてきているようだと感じます。
「まあ、と言っても私は今日始めたばかりなんですけどね。」
「あ、私もです!」
私のその言葉にユキさんも力強く同意しました。
まさか同じ日の同じタイミングで魔物系のプレイヤーが2人もいるとは思いませんでした。
私がそんなことを思っているとユキさんが再び口を開きました。
「本当は友達と一緒に始めるつもりだったんですが、その子が今日ゲームが届かなかったとかで始めることができなかったんですよ。」
「それで1人だったのですね。」
「はい、そうなんですよ。友達がダメージを与える、私が回復をするという役割分担を考えていたんですよ。それで職業は神官を選んだのですが1人だとうまくいかなくて。」
神官って戦闘向きな職業ではないことは何となく分かりますけどそんなに大変なんですね
私がそんなことを考えているとアキが口を開きました。
「確かに最初から回復に専念するつもりの神官1人では戦闘に向かないね。」
「やっぱりそうですよね。」
「うん。中には神官戦士というビルドがあるけど、あれは神官を選択したうえで種族や職業でSTRやVIT等を上げて戦士の装備を持つ構成だから正直レイスでは難しいかもしれないね。」
「そうですね。ボーナスポイントはINTとRESに振っちゃっていますから難しいですね。」
神官戦士。
そんなのもあるのですね………。
しかし、それなら他でパーティを組めばいいのではないでしょうか?
アインの中央広場にはそう言った野良パーティを組むために呼びかけを行っている人もいました。
「他の人とパーティを組もうとは思わなかったのですか?」
「魔物系だとパーティを組んでくれる人がいなかったんだす。」
「え?そうなの、アキ?」
私はユキさんでは無くアキに方に問いかけました。
こういったゲームの風潮的なものは熟練者に聞くのが一番だと思っての行動です。
「それはそうだよ。魔物系プレイヤーは迫害されているって教えたじゃない。」
そう言えばそうでした。
魔物系プレイヤーを良く思わない人が中心となって排斥しようという動きがあることを聞いたばかりでした。
しかし、何でそんなに魔物系プレイヤーが目の敵にされているのか分かりません。
アキのその言葉にユキさんも気落ちしているようでした。
当然でしょう。
まさか魔物系プレイヤーと言うだけで迫害を受けるとは思いません。
いつか自分も狙われるのではないかと心配になっているのでしょう。
「パーティに関してはユキさんは大丈夫ですよね?友達が一緒にやってくれるのですから。」
だからこそでしょうか。
私はそんなユキさんを励まそうと少しでも明るい話題を提供しようとしていました。
「あ、はい。」
「その子も魔物系で始めるのですか?」
「はい、そう見たいです。」
「そうなんですね。」
良かったユキさんの表情は明るくなりました。
先ほどまで落ち込んでいた気持ちも少しは紛れたのでしょうか。
そんなことを考えながら私は再び口を開きます。
「ユキさんの友達は今日はログインしないのですよね?なら、今日は私たちと一緒にパーティを組みませんか?」
「え?いいんですか?」
「うん。いいよね、アキ?」
「大丈夫。ついでだからフレンドになろうよ。」
「ああ、いいね。」
私たちはそう言いながらフレンド登録をし、その日は一緒に狩りを楽しみました。
ユキさんは終始笑顔でした。
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