7-1
◆王都アハト 王城
>>Side:アルベルツ王国 国王オービル=アルベルツ
「兵の練度を維持しろ!!兵站の準備は十分か!?まだなら急かせろ!!」
イラリド=ハタド伯爵が声を荒げる。
彼は此度のゼクス奪還作戦の総大将だ。
ゼクスの町。
鉱山と大森林に挟まれたかの町は王国にとって無くてはならない資材の供給源だ。
その町が簒奪者に奪われてしまった。
下手人は一部のプレイヤーと呼ばれる神の加護を受ける人々らしい。
ゼクスの町から逃げ延びた人々の話をまとめるとゼクスの町とそのプレイヤーが衝突した。
武力をもって排除しようとするゼクスの民に対してプレイヤーも武力をもって対応したらしい。
衝突はプレイヤー側の勝利で終わった。
ゼクスの町の代表であった領主オーベ=ゼクスは死亡し、多くの住民は衛兵の護衛のもとゼクスの町を逃げ出すことになったのだ。
今ではゼクスの町は国として独立を宣言している。
しかし、それを認めるわけにはいかない。
先にも述べた通りゼクスの町はアルベルツ王国に無くてはならない都市なのだ。
だからこそ今回奪還作戦が立案された。
丁度良く建国祭が近かったために王都に貴族が多く集まっていた。
すぐに貴族会議が開かれ作戦の概要を詰めることになった。
会議の中で総大将に推薦されたのは武家出身のイラリド=ハタド伯爵だ。
彼は数々の武勲を立てているため私としても異論はない。
私は彼に総大将を任せ、騎士団の5分の1を預けることにした。
そんなハタド伯爵に激励をかけるために私は彼に近寄った。
「ハタド伯爵、士気は十分なようだな。」
「む?これは陛下!はい、我が軍団の士気は十分です。」
「何か問題はあるかな?」
「兵糧の準備が滞っているようです。現在急がせていますがこの調子ですと作戦の実行は半年後となります。」
「うむ。」
準備期間が半年ならば十分に早い方であろう。
しかし、ハタド伯爵はそれを恥じているのか顔を伏せる。
私はそんな伯爵に声をかける。
「戦争の準備が半年間ならば問題ない。無理に急かして作戦が失敗することの方がまずい。ここはどっしりと構えてことに当たるように。」
「は!ありがとうございます。しかし、いいのですか?」
「何がだ?」
「ゼクスの町は王国を支える資材の生産地。この町の奪還が遅れればその分、王国の生産力が落ちてしまうのではありませんか?」
ハタド伯爵の言う通りである。
しかし、そう喫緊の問題というわけでもない。
何故なら各町の貯蔵庫には十分に資材の在庫があるからだ。
今日、明日と言った近いうちにそれらが無くなることは無い。
だからこそ伯爵を安心させるため私はそれを伝える。
「確かに多少王国の生産力は落ちるだろう。しかし、問題となるほどではない。国庫、並びに各町の倉庫には未だ十分に資材の貯蔵がある。これらを用いれば直近での生産に穴が開くことは無い。」
「そうでしたか。それを聞いて安心しました。」
ハタド伯爵は安堵の表情を浮かべて胸を撫でおろした。
そんな会話をハタド伯爵としているとリオネル=バルダ騎士団長が私たちのもとに来ました。
「陛下、ハタド伯爵。こちらにいらっしゃいましたか。」
「騎士団長か。どうかしたか?」
「はい。ゼクスの町から逃げ延びた住民の調書を取り終わりました。その報告にと………。」
確かに騎士団にはゼクスの住民の調書を取ってもらっていた。
敵の姿を見ているのはゼクスの住民だけなのだ。
彼らの証言はきっと勝利に貢献するだろうと思ったからだ。
「なるほど。して、敵の情報は何か手に入ったか?」
私は早々にバルダ騎士団長に話を促す。
それを聞いたバルダ騎士団長は手元の資料に目を落とし口を開いた。
「は!敵は少人数の魔物と人間のようです。」
「魔物と人間?」
「はい。住民の話で出てきたのは6人。巨大なスライムのような魔物、骸骨の魔物、角の生えた魔物が話に出てきました。それ以外にも全身鎧をした人間と青白い少女が確認されています。」
バルダ騎士団長の報告を受けてハタド伯爵が声を荒げる。
「たった6人にゼクスの町は陥落したというのか!?」
「住民の話ではそのようです。」
「いったいどうやって………。」
ハタド伯爵のその言葉を受けてバルダ騎士団長は手元の資料に再び視線を向けます。
「どうやらその6人の中に召喚術士がいる様です。当初は6人だけでしたが戦闘が佳境に差しかかる頃には数多くのアンデッドと悪魔がいたようです。」
「む!召喚術士か………。」
召喚術士。
戦闘において魔物を召喚して戦う職業であったな。
それがいれば確かに少人数でも町一つを落とすことができるのだろうか?
戦いに疎い私にはよくは分からなかった。
素直にハタド伯爵に聞いてみることにする。
「ハタド伯爵。召喚術士がいると何か問題があるのか?」
「は!召喚術士はその名の通り魔物を召喚して戦う職業です。低級の召喚術士は1匹、2匹の魔物を召喚するのみですが熟練の召喚術士は軍勢を召喚することができます。バルダ騎士団長の話を聞く限り、敵の召喚術士は熟練でしょう。」
「熟練の召喚術士か………。」
「はい。軍勢を召喚できるため数の優位を簡単に覆します。召喚には色々と制限があるようですが、それでも楽観視できるものではありません。」
ハタド伯爵の話を聞いて私は頭を悩ます。
強敵の情報は気が滅入る。
「王国軍には熟練の召喚術士はいないのか?要るならば同じように軍勢を召喚して数の優位は保てるのではないか?」
「陛下、召喚術士は珍しい職業です。残念ながら王国軍には現在、熟練の召喚術士はいません。」
「そうなのか。」
それを聞いて私は落胆する。
当たり前だ。
このままでは数の上で敵に負けてしまいかねない。
「陛下、心配はいりません。召喚術士と言うのが初めて現れたわけではありません。そのため召喚術士と戦い方だって全くないわけではありません。」
「ほう。どのように戦うのだ?」
「召喚術士は術士本人を倒せば召喚された魔物は送還されます。そのため、少数精鋭による突撃が有効なのです。今回もこの情報を基に対召喚術士部隊を組みます。」
「それは素晴らしい。ハタド伯爵の言葉は心強いな。」
「ありがとうございます。」
私とハタド伯爵が会話をしていると再び横からバルダ騎士団長が話しかけてきた。
「お話し中申し訳ありません。」
「そう言えばバルダ騎士団長の報告の最中であったな。して、報告はまだあるのかな?」
「はい。」
バルダ騎士団長の言葉を聞いて私とハタド伯爵は再び彼の方に向き直る。
「ゼクスの住民への調書と並行してゼクスの町で衛兵と共に戦ったプレイヤーへの聞き取りも行いました。」
「ほう。プレイヤーにも私たちに味方してくれるものがいるのだな?」
「はい。むしろそちらの方が大多数でしょう。」
「それは心強い。」
プレイヤーは神の加護を得て死ぬことが無い。
彼らの協力が得られればゼクス奪還も叶うことだろう。
「ハタド伯爵。ゼクス奪還作戦はプレイヤーへの協力も要請するようにしよう。」
「分かりました。冒険者ギルドを通じて至急要請を出すことにします。」
「うむ。して、バルダ騎士団長。プレイヤーから聞き取った内容はどのようなものであったのだ?」
私の問いかけを受けてバルダ騎士団長は資料に目を向けて口を開きました。
「はい。敵の首魁の名前はリンと言うそうです。彼女は敵対するものに「恐怖」と「狂気」を振りまくようです。」
「ん?「恐怖」と「狂気」を振りまくとはどういうことだ?」
「はい。言葉の通り彼女に敵対したものは「恐怖」を感じ正常な動きができなくなってしまうようです。酷いものは自殺してしまうものまでいる様です。」
私はその話を聞いて眉を顰めます。
自殺してしまうほどの恐怖とはどのようなものなのだろうか?
もし、それが本当ならば脅威なのだろう。
しかし、ハタド伯爵はそう思っていないのか胸を張って口を開く。
「我らが王国軍に恐怖にかられるものなどいるわけない。」
ハタド伯爵のその言葉にバルダ騎士団長は難色を示す。
「どうもそう言う話でも無いようなのです。」
「と言うと?」
「どれだけ意気込んでいても、それを知っていたとしても対策が不十分ならば絶対に「恐怖」を受けてしまうそうなのです。」
私はバルダ騎士団長の言葉を聞いて疑問を覚える。
そのようなものがこの世に存在するのだろうか?
もし、存在するのであればそれはどれだけ恐ろしい生物なのだろうか?
それを想像して背筋が凍るような思いをする。
「対策とはなんだ?」
「はい。プレイヤーの話ではRESを上げることで対策ができるとのことでした。」
「RESの上昇か。わかった、そのための装備も用意させよう。数が揃うかは分からないが………。」
ハタド伯爵はそう言って考え込む。
そんな彼を後目に私はバルダ騎士団長に話しかける。
「報告は以上か?」
「はい。」
「そうか。大儀であった。此度の情報は我が王国軍の勝利を確定するものになるであろう。」
「は!」
「うむ。下がってよい。」
私がバルダ騎士団長にそう声をかけると彼は頭を下げてその場を後にした。
私もハタド伯爵を置いてその場を離れた。
懸念は多くある。
しかし、きっとゼクスの町を奪還することができるだろう。
そう信じて前を向く。
>>Side:アルベルツ王国 国王オービル=アルベルツ End
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