6-12 とある運営のお話5
◆リースリング・オンライン運営会社
>>Side:とあるゲーム開発者
私たちが通常業務を行っている中リースリング・オンラインの監視AIが発したアラートが辺りを包んだ。
そのアラートを聞き私は業務を中断してモニタリングを開始する。
「え?」
間抜けな声が口から漏れた。
「あははははは!」
私の後ろで同僚が声を上げて笑っている。
普段であれば注意するのだが私はそれを無視して画面に表示されたそれをじっくりと観察していた。
それはゼクスの町で起きていた。
一部のプレイヤーが住民と衝突し、ゼクス町を巻き込んでの大乱闘となっているのだ。
「ひー、ひー。」
同僚が笑いすぎて呼吸ができないでいる。
それを横目に私は事の経緯をログからあさった。
どうやら衝突しているプレイヤーは他のプレイヤーに絡まれて町中で戦闘行為を行ったみたいだ。
それにより住民の好感度が下がり、退去命令を受けてしまったようだ。
その命令に反発して住民たちと戦うことになっている。
衛兵や冒険者が次々と倒されていく。
このままいけば領主のもとにたどり着くのも時間の問題だろう。
「おい!笑っていないで対応するぞ!」
私のその声を聞いて同僚は視線をこちらに向ける。
「対応って何をするんだよ?」
「それは………。」
確かに私たちにここで手を出す権限はない。
この騒動を治めることはできないのだ。
しかし、何かしないわけにはいかないだろう。
私は頭を働かせます。
そんな時、同僚が口を開きました。
「今考えられるのはこの騒動を起こしているプレイヤーが倒されるか、領主が倒されるかだろ?」
「そうだな。」
「プレイヤーが倒されるなら今まで通りだ。領主が倒された場合は………どうなるんだっけ?」
「倒した者に領主となる資格があるならば新しい領主になる。そうでないならば新しい領主は選ばれずに国から人が来るまで無法地帯となる。」
「このプレイヤーはどうなんだ?」
私は改めてログを見直す。
プレイヤー「リン」が率いるパーティはクランを設立している。
領主となる条件は………十分に満たしている。
「満たしているな。」
「プレイヤーが領主となった場合はどうなるんだ?」
「ここからはそのプレイヤーの選択次第だが、アルベルツ王国から独立するかどうかを選択することができる。独立した場合は………戦争が起こる可能性がある。」
私がその言葉を口にした瞬間、開発室の扉が勢いよく開け放たれた。
「そうです!戦争です!」
そう口にしながら白衣の男が中へと入ってきた。
その人はリースリング・オンラインの開発主任だ。
「戦争です!待ちに待った戦争です!!」
主任は笑みを浮かべ大きな声でそう言う。
その表情から彼の言葉に嘘偽りないことははっきりと分かる。
しかし、その真意は理解できない。
「主任。それはどういうことですか?」
「どういうことも何もない。私にとって待ちに待った戦争が始まるのです!本来のシナリオでは第2段階に至らなければ発生しなかった戦争がこれだけ早く起きてくれるのです。これを喜ばずして何を喜びましょう!」
確かに主任の言う通りリースリング・オンラインのシナリオ第2章はアルベルツ王国と他国の戦争がメインとなる。
戦争システムはその段階に至ったときに導入されるはずだった。
しかし、ここでゼクスの町がアルベルツ王国から独立した場合はその戦争が起こってしまうのだ。
それをこの主任は喜ばしいことという。
彼の感性が理解できない。
「主任は戦争が起こることが嬉しいのですか?」
「当然です!何のために私がこのリースリングの開発に加わったのだと思っているのですか?戦争のためです。私は剣と魔法の世界で多くの人が死ぬ戦争を見るためにこのゲームの開発に加わったのです!」
駄目だ。
やっぱり理解できない。
ゲームの世界とは言え多くの人が死ぬことになる戦争をなぜこんなにも笑顔で受け止めることができるのか。
私にはその考えが理解できなかった。
「主任。まだ戦争が起こると決まったわけではありません。プレイヤーが討伐されれば領主は今のままです。仮にプレイヤーが領主を継いだとしても独立しなければ………。」
「確かにプレイヤーが衛兵や冒険者に負ける可能性はあります。しかし、このプレイヤーが独立しない可能性はありませんよ。なんのために魔物プレイヤーが迫害されているのを静観していたと思うのですか?」
………は?
この人は今なんといった?
「すべては革命を起こさせるためです!魔物プレイヤーが迫害を受ければ現体制に不満を爆発させて革命を起こすだろうと思ったのです。そうすれば新たな領主が生まれそこから国との戦争に発展するだろうと思ったのです。そう。すべては戦争のためなのです!」
「魔物プレイヤーが排斥を受けているのに対して運営が手を出すのを止めた理由はそれですか?そんなことなんですか!?」
「そんなこととは何ですか?私にとっては重要なことなのです。」
私は頭が痛むような気がした。
いや、この件に待ったをかけたのは主任だけではない。
しかし、それでもこの人がこんな理由で行き過ぎた魔物排斥に運営が手を出すことを止めていたのだと知って頭を抱えた。
人間性に問題があるもののこの人を運営から外すことはできない。
この人はそれだけの技術を持っているからだ。
そのことを思いますます痛む頭を抱える。
そんな私に技術主任は声をかける。
「ほら、何を呆けているのですか?戦争がまじかなのです。Tipsの追加及びアナウンスの準備をしなさい。」
事ここに至ってしまえば私にできることはそれだけだ。
私は渋々主任の言葉に従って作業を開始した。
>>Side:とあるゲーム開発者 End
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