6-10
◆ゼクス
「ここが領主の館なのですね。」
「そのようです。」
私たち6人は並みいる衛兵、冒険者を倒しながらその場所にたどり着きました。
その屋敷はこのゼクスの町の中で最も立派な建物でした。
大きな門扉に閉ざされたその屋敷に私たちは押し入ります。
「来たな!!逆賊め!!」
門を抜けるとそこには数多くの衛兵が詰めて言いました。
まだまだ貴族のもとにたどり着くには時間がかかりそうです。
私がそんなことを考えていると不意にユキナさんが口を開きます。
「ここは妾とユリアに任せるのじゃ。」
「そうです。4人は先に行ってください。」
彼女たちはそう言って笑みを浮かべます。
心配はありません。
ここまでの戦闘で彼女達の実力派十二分に分かっているからです。
だからこそ私は自信をもって口を開きます。
「お任せします。」
そう言って私とアキ、ラインハルトさん、ハーロウさんは先へと進みました。
―ガチャリ
屋敷の中へと入り込みます。
屋敷の外と同じように中にも衛兵が集まっていました。
その中の1人が歩みだして話始めます。
「ここまで来るとは………。」
そう口にしたのは他の衛兵よりも立派な装備に身を包んだ人間の男性でした。
私は彼に問いかけます。
「どいてください。私はオーベさんに用があるのです。」
「それはできない。何よりお前たちは罪人だ。その罪人の無法な振舞いを正すのが我ら衛兵の仕事だ。それを衛士長である私が無視するわけにはいかない。」
衛士長はそう言って剣を構えました。
分かっていたことですが戦いは避けては通れないでしょう。
私が覚悟を決めたその時です………。
「ここは僕が受けもつよ。」
ラインハルトさんがそう口にしました。
それに続いてアキも口を開きます。
「パッと見た感じあの衛士長は結構強いみたいだし私も残るよ。」
そう言うと2人は武器を構えました。
私はハーロウさんの顔を見ます。
彼は頷くことで肯定を示しました。
「分かりました。ここはお任せします。」
私はそう言うとハーロウさんと共に屋敷の奥へと進みました。
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>>Side:ラインハルト
「衛士長は僕がやる。アキちゃんは周りの衛兵をお願い。」
「えー。」
「頼むよ。」
「仕方ないなー。」
アキちゃんはそう言うと周りの衛兵に向かって駆けていった。
僕はそれを確認しながら目の前の衛士長に視線を向ける。
「僕はラインハルトだ。」
「ゼクスの衛士長、セルブロだ。容赦はしない。」
「うん、いいね。じゃ、行くよ!!」
僕はそう言うと地を蹴って彼に接敵する。
そして、上段に構えた剣を振り下ろした。
―ガチン
衛士長は僕の攻撃を剣で受け止める。
僕は続けざまに剣を横に振るう。
衛士長は踏み込んでそれを鎧で受けた。
攻撃の勢いが乗っていなかったために鎧を切り裂くことができない。
僕の動きが止まったことをいいことに衛士長は剣を振るう。
僕は後ろに飛んでその攻撃を避けた。
この一合でわかった。
衛士長の実力は本物だ。
それがたまらず嬉しい。
僕は再び剣を正眼に構えて彼の動きを待つ。
衛士長も剣を正眼に構えて僕の動きを待っている。
僕と彼はしばしそのまま動きを止めた。
静かな緊張感が辺りを包み込む。
僕は再び地を蹴った。
剣を振るう。
衛士長は先ほどと同じように剣でそれを受ける。
続けざまに2撃目、3撃目を繰り出す。
彼はそれを剣で受け、時に回避してを繰り返す。
僕が攻撃を繰り返す間、衛士長も隙を見つけて攻撃を返してくる。
僕もそれを剣で受けたり、回避したりして攻撃を避ける。
激しい剣戟が続く中僕は顔が綻ぶのを感じる。
楽しい。
何時までもこうして戦っていたい。
「楽しいね!」
僕は力強く剣を振るい衛士長に語り掛ける。
「戦いを楽しむような感性を私は持ち合わせていない!」
衛士長はそれを否定する。
言葉を引き出しながら隙を伺うも彼の腕はそんなことで隙を生み出すようなものでは無かった。
それがまたまた嬉しくてさらに顔が綻ぶ。
僕と衛士長の距離が開いたとき彼は剣を高く振り上げた。
「はっ!!」
衛士長が気合いを入れて剣を振るった、その瞬間………。
強い衝撃が僕を襲う。
たまらず体は吹き飛ばされる。
少なくないHPが損なわれる。
これは………。
「【破衝剣】!?」
「そうだ。剣聖のスキル【破衝剣】。」
僕も衛士長と同じスキルを持っているからこそ驚きは少なかった。
しかし、しばしの間足を止めるには十分な驚きであった。
その隙をついて衛士長が再び剣を振り上げた。
「はっ!!」
衛士長の掛け声ともに飛んでくる斬撃。
僕はそれを横に飛んで回避する。
「はっ!!」
何度も彼は剣を振るい斬撃を飛ばす。
僕は横に走りそれを回避する。
「はぁ、はぁ。」
スキルを立て続けに使った衛士長が息切れを起こしたタイミングで僕は剣を振るう。
「はっ!!」
「む!!」
僕の振るった剣は衛士長の剣と同様に斬撃を生み出し飛ばす。
衛士長はその斬撃を剣で受ける。
攻守は交代して僕は斬撃を繰り返し飛ばし続ける。
衛士長はそれを防御している。
彼が攻撃できないことをいいことに僕は大胆に距離を詰める。
距離が詰まったところで衛士長が再び剣を振るった。
その攻撃を避けながら僕も剣を振るう。
再び接近しての剣戟が始まった。
互いに攻撃手段は剣のみ。
斬撃を飛ばす【破衝剣】というスキルをもってはいるもののそれは変わらない。
そして、互いの腕は拮抗している。
だからこそ決着はなかなかつかなかった。
勝負を決定つけたのは人間と魔物と言う種族の違いだった。
僕の種族はリビング・ミスリルアーマー。
疲労に強いアンデッドだ。
先に息切れを起こし、動きが鈍ったのは衛士長の方だった。
「ぐっ!!」
僕の放った剣が衛士長の体に傷をつけた。
決して深くはない傷ではあったもののそれでも確かに彼の体に傷をつけたのだ。
その攻撃を皮切りに彼は攻撃を捌ききれなくなる。
負った傷を庇うようにして動いているからだ。
僕はその隙に2撃目、3撃目を繰り出し続けた。
そしてついには………。
―カン
甲高い音とともに衛士長の剣が弾かれ飛ばされる。
「しまった!!」
衛士長が声を上げるももう遅い。
僕は力いっぱい剣を振るい彼の首を両断する。
切り裂かれた彼の首は胴体と分かたれて地面に落ちる。
遅れて彼の体も倒れ伏した。
数舜ののちに光の欠片となっていく彼を眺めながら僕は周りを見回す。
そこには既に衛兵を倒しきったアキちゃんが立っていた。
「お疲れ様。」
彼女は軽い調子でそう言った。
「そっちもお疲れ様。」
僕も彼女に合わせてそう言う。
そうして2人してリンちゃんたちを追うために屋敷の奥へと進んでいった。
>>Side:ラインハルト End
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屋敷の奥。
そこは書斎のような部屋でした。
その部屋にオーベさんは1人でいました。
彼は落ち着いた様子で私たちを見ています。
私は彼目の前まで歩み出ます。
「私たちの退去命令を撤回してください。」
私のその言葉を聞いてオーベさんは頭を抱えてため息を吐きます。
「やはりその話でしたか………。」
「私たちは悪くありません。そんな私たちが追放されるなんて納得できません。」
「撤回することはできません。それは法を歪めることになります。」
オーベさんは強い意志の籠った目でそう口にしました。
彼はなおも言葉を続けます。
「例え殺されることになっても私がそれを撤回することはありません。」
オーベさんを殺す。
ここまで多くの衛兵や冒険者を殺してきました。
今さらここでオーベさんを殺すことにためらいはありません。
「もしも撤回されないのでしたら本当にあなたを殺すことになりますよ。それでも良いのですか?」
「私が領主となったその時からこのような場合になることも覚悟の内です。」
そう言う彼に私は1歩近づきました。
そしてゆっくりと彼を飲み込みます。
彼は静かにその時を待っていました。
私は今までそうしてきたように彼の体を押しつぶします。
―ぐちゃり
嫌な音とともに彼の命を奪います。
その瞬間システムメッセージが流れます。
<ゼクスの代表「オーベ」が死亡しました。>
<ゼクスの新たな代表はプレイヤー「リン」となります。>
<称号「領主」を取得。>
<アルベルツ王国から独立しますか?>
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